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曇天に曙光は射し込んで  作者: 榎元亮哉
富士山決戦
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曇天に曙光は射し込んで

エピローグ。

「真っ白な天井……」

「起きたか和弥。だけどそこは『見知らぬ天井』だろう」

「リョージ……おはよう」

「ああ、おはよう。相変わらずのマイペースで俺は安心したよ」

「で、どうなったんだこれ」


 ベッドから身体を起こして辺りを見回す。どうやら雰囲気的に病院だなと見当をつける。良治と二人部屋らしい。

 痛みが走り右腕を見る。治療はされているが完治はしていない。だが問題なく動くということはそのうち元に戻るだろう。


「実は俺も数分前に起きたばっかりなんだよ。で、起きたら和弥が向かいで寝てるし、他に誰もいないしでどうしようかと。ナースコールすべきなんだろうけど、別に死にそうなわけじゃないし呼ぶのも悪いかなって」

「気持ちはわからんでもないが呼ぶべきだろう。多分早く起きて欲しいって思ってるだろうし」


 あまり迷惑をかけたくない気持ちは理解できる。しかしきっと看護師さんや医者の先生も仕事だ。迷惑とは思わないはず。


「……よし、賭けをしよう。誰が最初にこの部屋に入るか。どうだ和弥」


 悪戯っぽい表情の友人。本当に久し振りに見た気がする。


「おっけ。病院関係者はいれるのか?」

「いや知り合い限定で。俺は――」


 良治が自分の予想を口にしようとした瞬間、ガラリと扉がスライドして開かれた。


「え」

「あ」

「賭けは不成立だな。残念だ」


 扉に手をかけたまま固まる綾華。彼女と目が合って固まる和弥。良治は溜息を吐いて楽しみが一つ減ったことを悲しんでいた。


「起きたならすぐに連絡をくださいっ!」

「今起きたばっかなんだよぉ! ぐえっ!?」

「綾華さーん、まだ完治してないので体当たりはどうかと」

「あ……というか体当たりじゃありません。愛の抱擁です」

「その愛に圧し潰されそうなのがいますけど」

「……大丈夫ですか」

「な、ナースコール……」


 そんなことを言いながらもやっと日常に戻ってきたことを実感する。

 愛する彼女。大切な親友。ああ、この日常を求めて力を得たのだと。








「なるほど……じゃあ全部丸く収まったってことでいいんだな」

「ですね。だいたいは」


 あれからナースコールで看護師や先生を呼んで簡単な診察を受けた後、ようやく綾華からことの顛末を聞くことが出来ていた。あれから五日ほどたっているらしい。道理で負傷以外にも身体の節々に違和感があるわけだと納得した。


 勝利宣言をしたあと良治に続くように和弥も意識を失い、他の怪我人たちと一緒にこの病院に運ばれたこと。

 結界はそのまま残った者たちが簡単な祠を作り張り直したこと。今はちゃんとした祠と、その祠を囲む結界を再構築している最中らしい。その責任者に比較的無事だったまどかが任命され、さらにサポートに結那などが同行しているらしい。綾華は数日入院していたことでその対象から外れたようだ。


「あ、夜叉はどうなった?」

「彼らは現場が落ち着いた時にはもういませんでした。でももう彼は敵というわけではないでしょうし、そのまま放置でいいんじゃないかと兄さんが言ってました」

「ああ、隼人さんなら言いそうだなそれ」

「私としては微妙なんですが、和弥は違うんですか」


 別に夜叉たちの行ってきたことを許してはいない。自分たちの目的の為に人を殺してきたのは事実だ。だが助けられたこともまた事実だ。


「……まぁこれから先おかしなことしなければそれでいいよ。何かしたらその時止めればいいさ」


 この考えは甘いし納得しない者もいるだろう。だが少なくとも今はそれでいいと思った。


「それで綾華さん、他の支部の人とかは?」

「そうですね……」


 皆それぞれ自分の所属している支部に戻っているとのことだった。動けないほど重傷者は和弥と良治だけだったので治療は地元の病院で受けることになったようだ。

 神薙兄妹は神社に戻り、雪彦たちや俊二たちも本拠地に帰ったらしい。


「ああそうだ。パティは帰ったんですか?」

「ええ、あのあとすぐに。ただ和弥のことを少し聞きましたが」

「俺の?」

「はい。和弥の魂の在り方が変わったと。以前見たときは人間の魂の中に天使の魂があったのに、今は天使の魂と人間の魂が混じり合って境界がなくなっていると」

「へぇ……」


 そんなことを言われても実感はない。何かが変化した気もしない。ちょっとだけ何かが剥がれ落ちたような、重荷が消えたような身の軽さを感じるだけだ。


「まぁ、和弥は和弥で和弥以外の何者でもないです」

「まったくだ」

「なんだかなぁ……」


 自分でもそう思うが誰かから言われるとなんだか腑に落ちない。


「それともう一つ。禊埜塞はどうなりましたか?」

「彼は……本件の首謀者の一人です。無罪放免とはいきませんでした」


 仕方ないだろう。ある意味彼の復讐が始まりだ。それをそのままにしておけば色々問題も起きる。


「しばらく京都本部付けのただ働きです。勿論ほとんど自由はないですし常に監視も付きます。正直処刑でもおかしくなかったのですが、結局兄さんの判断が優先されました」

「なんか理由あるのか、それ」

「兄さんが言うには『彼はまだ少年だ。中学生の年齢の少年を殺すのはいかがなものか。まだまだ更生の余地はある』だそうです」

「で、本音は?」

「『良治君が気に病むだろうし、これで最近の激務の借りはなくなったかな』と」

「……まったく」


 相変わらずの腹黒さだ。しかしそれをしょうがないなと思うだけで許してしまうのは隼人の人徳だろうか。


「ま、いいよ。御館様の言うように、処刑されてたらもやもやが残ったろうしな。これでいいんだ」

「まぁリョージが良いっていうならもう何も言わないけど」


 すっきりした顔を見るに、本当に本心からそう思っているのだろう。それならそれでいいと思えた。


「――なぁリョージ」

「気にするな。俺は死ななかった。だから負い目を感じることはない。それを俺は望んでいない」

「……わかった」


 先に言われてしまえばこれ以上言うことはできない。それもはっきりと断言されてしまった。


「というかよく言いたいことわかったな。その観察力はすげぇよ」

「先読みが得意なだけだ。それに和弥はわかりやす過ぎる」

「確かに。間違いないですね。和弥はわかりやすいです」

「二人とも酷いなぁ……」


 ここが自分の居たかった場所だ。

 窓から見える青い空が目に染みた――

















 ここまで長かった気もするし、短かった気もする。

 最初にこの京都本部に来たのは二年生のゴールデンウィークだ。あれからまだ二年も経っていない。だが人生は確実に変化した。本当に何があるかわからないものだと和弥は思う。


「さ、行きましょう」

「ああ。でもさすがに緊張するなこれ」


 初めて着るスーツはごわごわして馴染まない。歩くにも一苦労だ。


「別に制服でもよかったのに」

「いや、なんかねーさんに買わされたというか用意されてしまったというか」

「ああ……強引なとこありますからね。それなら仕方ないです」


 和弥のスーツに対し、綾華は赤いワンピースのドレスだ。飾り気はあまりない。ちゃんとしたのはまたいつか別に機会に着るだろう。


「――よし、行くか」

「はい、和弥。貴方と共に何処までも」

「ちゃんと付いて来てくれ。迷いそうになったら手でも繋いでくれな」

「そうですね。では」

「まったく」


 手を繋いだまま襖を開く。その先に座っているのは和弥の両親と姉、そして隼人だ。


 今日は婚約の挨拶。と言ってももうお互いの家族には伝えてあるのでそこまで畏まった場ではない。気の早い隼人の手回しで親族の紹介も兼ねているような状態だ。


 そして二人は微笑みながら部屋に入っていった――





「曇天に曙光は射し込んで」完



ここまでお読みくださった皆様方、本当に、本当にありがとうございました。

正直ここまで長くなるとは思っていませんでした。自分なりには頑張ったのですが、結構な期間書いていたなと(苦笑


天使の魂を持つ和弥が人間と神を殺すために剣を取り、魔族との混血である良治が人間や大切な人の為に親友と戦う。そこに読者の皆様が何か意味を見つけられたら、とても嬉しいです。

長々と続いてきたこの「夜天」シリーズですが、今回で一応区切りということで。番外編は書くかもしれませんが、和弥が主人公の物語はここでお終いです。


最後にもう一度感謝を。完結出来たのは投稿する度に読んでくださった読者様のお陰です。

本当にありがとうございました!!

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