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茨の道  作者: オリンポス
4/6

4.

 街灯がぽつりぽつりと等間隔に路面を照らしていた。

 そのブルーライトの照明を浴びながら、私は目を丸くする。


「え、文芸同好会がなくなること、知ってたの?」

「まあな。ときどき生徒会の連中が、うちの部室に顔を出してたから」

 彼はそう涼しい顔をして言った。

 知ってたなら教えてくれたっていいのに。

 私が唇をとがらせるのを見て、彼は話題を変えた。

「佐藤は次の部活どうするんだ?」


「どうするって、そりゃあもちろん……」

 新人賞をとって生徒会の鼻を明かしてやるんだ。そう言おうとしたけど、魚の小骨のように言葉がのどに引っかかって、結局はなにも言えなかった。


 口をもごもごさせる私を、対向車のヘッドライトが強く浮かび上がらせた。


「まあなんでもいいか」

 私の心中を察してくれたのか、彼は言及しなかった。

「まあ佐藤と同じ部活じゃなくなると、こんな世間話もできなくなるだろうから、それについては寂しくもあるけどな」

 淡くほほ笑む彼が、急に遠くの存在に思えた。

 今すぐにでも私の気持ちを伝えないと、彼とは会えなくなるような気がした。


「次の部活は」

 話の接ぎ穂を失った私は、またそこからやり直す。

「まだ決めてないよ」

 コンビニから一組の男女が出てきた。

 肩を並べて中華まんをかじっている姿が、とても初々しい。

「だって文芸同好会を廃部にさせるつもりはないから」

 私達の横を、サラリーマンっぽい男性が、身体を丸めて通りすぎた。

 その小さな背中を、信号機の緑色ランプが目で追っていた。


「はあ?」

 歩行者用の信号が点滅している。

 彼は素っ頓狂な声をあげて足を止めた。私も彼にならう。

「どういうことだよ。それ」

 目の前の交差点を光の波が行き交う。

 排気音に負けないように、私はすこし大きな声で言った。

「夢野先輩がね。新人賞をとれば、部を存続できるかもしれないって」

「ふーん」

 だけど、彼の反応はイマイチだった。

 もっと喜んでくれたっていいのに。なんだか素っ気ない。

 この部活がなくなっても、彼にとってはどうってことないのかな。


 歩行者信号がパッと切り換わった。

 他人の振りをした恋人みたいに、私達は歩みを再会させる。

 ふと、自動車が徐行しながら近づいてくるのが見えて、私は思わず歩調を速めた。でも彼はいつも通り悠然と歩くから、身体のキョリは開くばかりだ。


 罪もなく明滅する光源ウィンカーがにくたらしい。


「ねえ」

 私はぶっきらぼうに、腹の底の黒々としたものを吐き出した。

「やっぱり小説よりも、“女”が大事なんだ?」

 それはいつも見ていた光景だ。彼といっしょに弁当を食べようと教室をのぞくと、そのそばにはいつも“女”がいた。別に彼がだれと居ようが、私にはまるっきり問題ないのだけれど、得体の知れない感情がふつふつと心の奥底から沸き上がって、のどの辺りをイガイガさせていた。


 その奇妙なものを、彼にもぶつけてやるんだ。


「誤解だよ」

 横断歩道を渡りきったところで、腕をつかまれた。

 意外と力あるな、コイツ。

「その人は俺のファンだ」

「はっ?」

 振り返って、あらためて彼を見る。

 顔立ちは整っているほうだけど、モテそうな感じではない。


「どういう意味?」

「それは……」

 彼は恥ずかしそうに言いよどむ。

 じんわりと手の平の熱が伝わってきた。

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