4.
街灯がぽつりぽつりと等間隔に路面を照らしていた。
そのブルーライトの照明を浴びながら、私は目を丸くする。
「え、文芸同好会がなくなること、知ってたの?」
「まあな。ときどき生徒会の連中が、うちの部室に顔を出してたから」
彼はそう涼しい顔をして言った。
知ってたなら教えてくれたっていいのに。
私が唇をとがらせるのを見て、彼は話題を変えた。
「佐藤は次の部活どうするんだ?」
「どうするって、そりゃあもちろん……」
新人賞をとって生徒会の鼻を明かしてやるんだ。そう言おうとしたけど、魚の小骨のように言葉がのどに引っかかって、結局はなにも言えなかった。
口をもごもごさせる私を、対向車のヘッドライトが強く浮かび上がらせた。
「まあなんでもいいか」
私の心中を察してくれたのか、彼は言及しなかった。
「まあ佐藤と同じ部活じゃなくなると、こんな世間話もできなくなるだろうから、それについては寂しくもあるけどな」
淡くほほ笑む彼が、急に遠くの存在に思えた。
今すぐにでも私の気持ちを伝えないと、彼とは会えなくなるような気がした。
「次の部活は」
話の接ぎ穂を失った私は、またそこからやり直す。
「まだ決めてないよ」
コンビニから一組の男女が出てきた。
肩を並べて中華まんをかじっている姿が、とても初々しい。
「だって文芸同好会を廃部にさせるつもりはないから」
私達の横を、サラリーマンっぽい男性が、身体を丸めて通りすぎた。
その小さな背中を、信号機の緑色ランプが目で追っていた。
「はあ?」
歩行者用の信号が点滅している。
彼は素っ頓狂な声をあげて足を止めた。私も彼にならう。
「どういうことだよ。それ」
目の前の交差点を光の波が行き交う。
排気音に負けないように、私はすこし大きな声で言った。
「夢野先輩がね。新人賞をとれば、部を存続できるかもしれないって」
「ふーん」
だけど、彼の反応はイマイチだった。
もっと喜んでくれたっていいのに。なんだか素っ気ない。
この部活がなくなっても、彼にとってはどうってことないのかな。
歩行者信号がパッと切り換わった。
他人の振りをした恋人みたいに、私達は歩みを再会させる。
ふと、自動車が徐行しながら近づいてくるのが見えて、私は思わず歩調を速めた。でも彼はいつも通り悠然と歩くから、身体のキョリは開くばかりだ。
罪もなく明滅する光源がにくたらしい。
「ねえ」
私はぶっきらぼうに、腹の底の黒々としたものを吐き出した。
「やっぱり小説よりも、“女”が大事なんだ?」
それはいつも見ていた光景だ。彼といっしょに弁当を食べようと教室をのぞくと、そのそばにはいつも“女”がいた。別に彼がだれと居ようが、私にはまるっきり問題ないのだけれど、得体の知れない感情がふつふつと心の奥底から沸き上がって、のどの辺りをイガイガさせていた。
その奇妙なものを、彼にもぶつけてやるんだ。
「誤解だよ」
横断歩道を渡りきったところで、腕をつかまれた。
意外と力あるな、コイツ。
「その人は俺のファンだ」
「はっ?」
振り返って、あらためて彼を見る。
顔立ちは整っているほうだけど、モテそうな感じではない。
「どういう意味?」
「それは……」
彼は恥ずかしそうに言いよどむ。
じんわりと手の平の熱が伝わってきた。