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1-1 早朝

鳥がさえずる声が聞こえる中、少し強めの風が葉が大きくなり始めた木々を揺らす。

まだまだ寒さが残る気温でありながら日中はぽかぽかとした陽気に包まれる、そんな春という季節が始まった朝という時間に、とある建物の中で倒れている少年が居た。


「あぢい……」


全身からしとどの汗が流れる少年はうつ伏せで倒れており、虚ろな目で時間が経つごとに熱くなる室内鍛錬場の床をじっと見ていた。

何故、こんな季節にここまでムッとした熱気に包まれているのか。

その理由を知っている少年は虚ろな目をしたままに呟く。


「空調が壊れた鍛錬場がここまで熱いとか誰が予想できるんだよ。業者が入るまで貸し出し自由に喜んだ俺が馬鹿だった」


ちなみに壊れた空調はスイッチを押しても止まらず、温風しか出さないという徹底的に熱地獄を生み出す兵器と化しており、それによって刻一刻と灼熱地獄に近づく。

これ以上ここにいたら命にかかわると判断した少年はふらふらと動きながら熱を逃がすために開けっ放しにしてある鍛錬場の入り口から外に出る。


それだけで体感気温が一気に十度は下がったため、少年の目に光が戻ってくる。

そして備えつけの給水器で顔が濡れることをお構いなしに水をがぶ飲みする。


「ぷはー。生き返ったあ」


給水器の水と自らの汗で濡れたシャツを絞って顔を拭くという所々爺臭さを感じる動き、それを見てそこに居合わせていた少女の顔が引きつっている。

しかし、少女の頬は引きつっている物のほんのりとピンク色で顔を拭くことによって見える少年のお腹にちらちらと視線がいっていた。


「あ、相変わらず朝練は早いですね真助さん」

「んー、あー。おはよう、南条さん」


顔を拭いてようやく気力が戻ったかと思ったらいきなり死んだ魚のような目になった少年こと神本真助は居合わせていた少女、南条楓の方を向く。

そこには普段緩くウェーブがかかった垂れ流している栗毛色の髪を髪ゴムで後ろにアップ気味で縛っている女の子がいた。

十五歳という昔なら結婚もできる年齢であるためか、それとも最近の女子高校生という生き物は発育がいいためか、男という性別の生き物から邪な視線を受けそうな体をしており、こうして一人でポツンと立っていたら変な考えを起こすかもしれない男は大勢いるだろう。


そこに違和感を感じつつも見ているだけで魂が今にも抜けてどっかに行ってしまいそうな真助は声をかけてきた楓に挨拶をした。

それだけで嬉しそうに笑う楓であるがその大勢の男子が頬を染めて思わず見とれてしまう、あるいは気恥ずかしさに顔を背けてしまう笑顔に、真助の表情筋はぴくりとも反応しなかった。


「おはよう真助さん。奇遇ですわね」

「本当、奇遇だよな。何でこんなとこいんの南条さん」

「ええっと……それはその。そう、ランニングです。ランニングをしていたんです」


楓は真助に立ったまま走っているポーズをする。

確かに楓の服装は多少露出は多いがスポーツ用のタンクトップにホットパンツという運動に適した服装ではある。

しかしここは学校の敷地内と言えど離れた場所にあり、複数あるランニングコースの中からも外れている人気も余りなく、さらには楽しめる風景も無い、不良が溜まりそうなちょっと小汚い場所であるので用も無い限り好んで近づくような場所では無い。


「ここ、ランニングコースから離れてるのに?」

「それはその……普段とは違う場所でも走ってみようかと思いまして」


そう言ってぎこちない笑みを浮かべる楓。

その白い肌はランニングしていたと言っている割には真助のように汗に濡れてる訳でも無いがそれは彼女の力量を考えたらおかしくは無い。

つまり、走っていたことは事実であるとして、たまたまいつもと違うコースを走って出くわしたという楓の説明に可笑しなところは無い。

だが、しかし真助は首を傾げる。


「それにしては最近朝によく会うよな」

「え、ええと……あ!もうこんな時間です!着替えて朝ごはん食べてきますね!」


狼狽えていた楓は鍛錬場の外の壁に付けられていた時計を指差した後、すぐさま兎が穴に逃げこむような身の振り返し方で女子寮のある方へ走っていった。

そのスピードは女子にしては、というより男子と比べても速い。

真助も走って並走できることはできるだろうが長くは続かないだろう。


「ちょっとしつこかったか」


まあいいやと言いながらぽりぽりと頭をかいた真助は大きな欠伸をしながら男子寮へと向かって歩き始める。

途中でぼりぼりとお腹をかく真助はやはりどこか爺臭い。

きっとこの後の食事でもどこか爺臭い所作で食べることが予想されることは間違い無いであろう。


季節は春。

入学式が終わり、一か月とまだ経っていない日。

国立魔法剣士育成学校はいつも通りの朝で始まっていた。

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