王妃イザベラ、平野を制する。
日が頂点に達する前にベルガー平野に進出した王国軍と異界の軍団は、かつては麦畑と牧草地であった地で魔王軍と相対した。
目の前、左右に広く展開する魔王軍、前方に途出した異界の軍団、その後ろに左右に広がる王国軍。
前進する人の軍団に、待ち構えていた魔王軍の突撃で会戦が始まった。
「前方敵、集団に対し、応射!!擲弾筒Te!!」
掛け声と共に総員倒れる異界の軍団、国軍将兵は、”なぜ、そこで全員寝る?”と心の中でツッコミを入れる。
フライパンの上で豆の弾ける音とワインのコルクを抜く様な間の抜けた音が連続した。
前進する魔王軍尖兵の頭の上で少々の白い煙が連続して発生すると紐が切れた人形の様に亜人達が倒れていった。
前方の集団が倒れたダケでは止まらない、倒れた亜人の屍を踏み越えて進む魔王軍。
「中隊!曲射砲Te!!」
今度は後ろから良く見える位置に腰を屈める集団から何かが抜ける様な音が連続した。
魔王軍後方に幾つかの土の柱が上がった。巻き上がる土の塊の中に何かの人型が混じっているようだ。
新たに加わった太鼓を打ち鳴らすような音と共に先頭からどんどん倒れていく魔王の軍勢。
寝転がったまま動かない異界の軍団。
異様としか思えない会戦の姿であったが、魔王軍に変化が起こった。
「敵機来襲!!敵、前方左方向より複数!!」
「総員、対、空射撃用~意!!」
「おい、ドラゴンだ。」
「小さいから、ワイバーンだろ?」
「どっちでも同じだよ、こっちに来るなよ!」
「中央集団へ向かうぞ。」
動揺する国軍将兵に異界の軍団は機敏に動いた。総員膝を付いて短槍を使って方陣を組んだのである。
「おい、固まるなよ。」
「逃げろよ、やられるぞ!!」
叫ぶ王国兵、平野では飛竜などの攻撃の場合、散会して、攻撃を受け流し、通過したら再度集合するのが常識である。
「Te!!」
連続して異界の軍団の上で煙が上がる。一瞬、光っている様にも見える。
太鼓の音が激しく打ち鳴らされている。
先頭の二匹のワイバーンは火を噴く前に何かに狩られて落ちていった。
後続に続くワイバーンも負傷したのか、不安定な飛行で逃げてゆく。
「我!敵航空機撃墜 2(ふた)!敵航空機集団の撃退に成功せり!」
「「バンザーイ!バンザーイ!」」
「おい、あいつらワイバーン落として撃退したぞ!」
「俺たち要ねぇんじゃね?」
勝っているのに未だ魔王軍と戦闘に入らない王国軍、魔王軍主力の中央突破が出来ないので左翼と右翼の前進が停止してしまい、お互い目の見える位置でにらみ合いに陥っていた。
魔王軍主力はジリジリと磨り潰されていった。剣も牙も交える事無く。
次の瞬間、無敵と思われていた異界の軍団に意外な弱さをみせた。
集団の中で火炎魔法が打ち込まれた。次々に上がる火柱、燃える異界の兵。
「敵榴弾!」
「タコツボ掘れ!!」
「飛翔音聞こえたか!」
「いきなり有効射撃だ!!観測、近くに居るぞ!!」
「おい!特級 (射手)観測 (兵)撃て!!どこかに居るぞ!探せ!」
「敵前方ちょい左!!距離300オカシナ黒服が複数居る!」
「おい!分隊!特級守れ!援護射撃!!」
魔王軍の詠唱中の魔法使いがバタバタと倒れていく。
その隙を突いてケンタウロスが突撃してきた。
「敵騎兵中隊接近!!前方右手方向!」
「総員着剣!!擲弾筒最大距離で発射!のち各員、自由射撃!!」
目の前の炸裂音に躊躇するケンタウロスに太鼓の音が響くとバタバタとその場で倒れていく。
「ザマア無ぇな!重機サマサマだぜ」
「衛生兵!衛生兵!!」
魔王軍中央部が壊滅し目の前に亜人達の屍が広がる。
「第二大隊は前進し前方敵左翼!側面より攻撃せよ!第三大隊は前進し前方敵右翼!側面より攻撃せよ!!」
「残りの第一大隊と連隊付き中隊はコレを第一梯団と呼称し敵の後方に浸透し敵司令部の壊滅を測る!!」
「中隊突撃!!」「天皇陛下バンザーイ!!」
素早く走る異界の軍団、中隊規模での分離、合流を繰り返し。魔王軍を翻弄した。
魔王軍は中央突破され陣形が崩れたまま両翼に中央側面からの攻撃を受け大混乱に陥っていた。
異界の兵は短槍を巧みに操り。槍先で急所を的確に貫き、離れれば槍の先からの魔法で亜人の屍を築いていった。
混乱する魔王軍の陣形は、もはや崩壊寸前であった。
ソコに老将軍が国王軍に前進を命じ潰走する魔王軍に騎兵突撃を指示。
夕暮れのベルガー平野は亜人の屍で埋め尽くされていた。
夕日に沈みつつある野では異界の軍団のラッパの音が悲しく響き。
数を減らした草色の兵士が集まりつつあった。
皆が泥だらけで在ったが。勝利の余韻からか笑い声が聞こえている。
「将軍これで国土を回復することができました。」
「はっ、亜人たちも逃げてゆきました、我が王国の勝利です。」
王国軍は朝の出発地へ戻り。王国兵たちは勝利に喜びながら。戦友たちを弔い、泣いた。
夜の帳が下りるころ昼間の激戦地を望む丘の上に一つの影があった。その影は両手を広げ不吉な呪詛を唱えていた。
節くれ立った細い指には禍々しい指輪を幾つも串刺しにしていた。
眼窩の落ち窪んだ顔は表情を窺うコトは出来なかったが。むき出しの乱ぐい歯には、不気味な笑みをうかべていた。
次回、(´・ω・`)感動の親子の再会。