王妃イザベラ、決戦を決意する。
魔王軍による城の包囲を解いたイザベラ王妃とその将兵は王国領土を回復せんと軍を進めた。
途中で散り散りになった兵や孤立した小部隊と合流し王国軍は勢いを取り戻しつつあった。
しかし、それは数の上での話であり、装備や練度はかつての栄光ある王立国軍の姿とは、かけはなれた物であった。
『立てる者は武器を取り郷里を取り戻そう』
『大切な人を奪った亜人に目にモノを見せよう』
『王国軍に参加すれば飯にはありつける、亜人に殺される様なヘマをしなければ』
国軍を率いる老将軍はどんどん膨れ上がる軍団に頭を痛めていた。
練度は低いが戦意は高い軽装歩兵
強力な敵と相対したらあっと言う間に崩壊するであろう。
お世辞にも、精強とは言いがたい弓兵、
連射や狙撃は望むコトは出来ず。隠蔽しながらの移動は不可能であろう、行軍から落伍しないのが不思議なくらいである。
装備がバラバラの長槍兵
列で押し返す長槍兵は一部が突破されると全体の崩壊につながる。列として圧迫に耐えられる均等な防御力が必要なのである。
貴重で有力な戦力であるが糧秣を大量に消費する騎兵。
騎兵は偵察や、部隊との連絡、機動力を生かした掃討戦に絶大な威力を発揮するが。
動かすコトに糧秣と休憩が必要な上に、まとめて使わないと損耗が激しい。
もちろん偵察や伝令で小出しにすれば、少数の敵と遭遇し伝達できなかったり、偵察で待ち伏せを受けて被害を出し、何も情報が獲られない危険も多い。
騎兵は、数が揃ってこそ強力なのである、無論、偵察&伝令は重要なコトなので行わないコトは出来ない。
数を揃えれば糧秣を多く消費して、休息が必要になり、一時的に戦力が減る。馬も騎兵も補充は無い。
無論、増え続ける兵員に対して糧秣は有限であり。
何処を取っても足りない状態であった。
そんな折、ある騎兵小隊の偵察行動により重要な情報がもたらされた。
『敵、魔王軍はベルガー平野に集結しつつあり。軍団規模と思われる』
ベルガー平野の外れベルクル川の向こうは亜人達の森である。
ベルガーさえ押さえれば領土は完全回復する。
小隊規模の平地での戦闘や、村や町程度の攻略戦を行ってきたが、ついに平野での決戦である。
老将軍は表情には出さなかったが、絶望に近い心境であった。
王国軍には平野で機動戦が行えるほどの練度は無い。一度戦線が崩壊すれば、兵の戦意を維持するため叱咤できる古参兵も居ない。
今、在るもので戦わなければ。
決戦を望む魔王軍に対し老将軍は作戦を立てた。
「承服できません、これでは国土を完全に取り戻すことが出来ないではありませんか。」
イザベラ王妃は不機嫌も隠さず。軍議に異を唱えた。
将軍の案はベルガー平野につながる三つの狭い回廊に陣地を作り魔王軍を迎え撃つと言う物で。
狭い地形を利用して敵の正面を減らし出血を強いるモノであった。
例え魔王軍の全軍が一つの砦に殺到しても。耐えられる。
そうすれば騎兵を集団で使用して他の砦から進出して後方のベルガー平野でかく乱できる。地形に明るい兵も多い。
しかし、防戦が主体のうえ。国土の一部を放棄することになるコトに王妃が難色を示したのである。
「彼我の数は、ほぼ同数、兵の地力の差は有りますが、コレを砦で防げば地の利と数で敵魔王軍の正面を圧倒できます。」
「ベルガー平野は我が国の穀倉地帯です、コレを取り戻せば、民も国も安泰です。」
「しかし、平野での同数の会戦では兵の地力と練度が勝利のカギであります。現在の王国軍には両方がありません。」
「兵の戦意は高いのでしょう。」
「高すぎる戦意とは危険なモノです、一度の失敗で崩壊する危険があります。」
「わかりました。此方の兵に数と練度が在れば良いのですね?」
「魔王軍の進攻を喰い止めれば、来年の秋、遅くとも再来年の春には王国軍を再編成してベルガー平野を回復することができます。」
「兵の充てはあります…。」
「お待ち下さい、王妃陛下!もしや、また」
「夫と息子の消息もつかめません、国土を完全に回復できれば消息も判るかもしれません。」
老将軍は答える事が出来なかった。
兵からの報告で王と王子らしき遺体を発見したと報告があったが、損傷が激しく確認が取れていない上、徒に兵の動揺が広がるのを防ぐ為。
王妃や将兵には伏せていたのである。
「宮廷魔術師、明日、異界の軍団を召喚します。用意をなさい。」
「はっ。このようなこともあろうかと。道具は揃えてあります。準備は明日の日の出までには可能です。」
「流石です、宮廷魔術師、明日の朝、軍団を揃えてベルガー平野で魔王と雌雄を決します!」
翌朝、巨大な魔方陣を前にした王妃を不安そうに見守る将兵がいた。
「異界の最強の軍団よ!我に集いなさい!!」
光が収まり。異界の軍団が姿を現した。
「成功したぞ!」
徹夜で準備を整えた魔術師は歓声を上げたが、その顔には疲労が見えた。
将軍の目にはあまり強そうな軍とは思えなかった。
よく訓練はされているようであったが、装備が軽装兵しかいなかったのである。
同じハーフヘルメットに短槍、サーベルは指揮官らしき者しか装備しておらず。
草色の統一された服に背嚢、槍とナイフしか持っていない、鎧を身に着けている兵は一人も居なかった。
全員、汎人ではあるが、身体が小さく、草色の服も相まってゴブリンの軍団を召喚したのか、と錯覚した。
「異界の軍団よベルガー平野に巣食う魔王軍を蹴散らしなさい。」
王妃が命令すると。
異界の軍団は一斉に短槍を肩に担いだ、余りに同時だったのでまるで麦袋を切る様な音が二回しただけであったが大きな地響きで国軍将兵は一瞬動揺した。
異界の軍団を率いる団長らしき者が甲高い声で叫んだ
「コレより我が連隊は前方、平野に展開する敵、兵団に対し攻勢をかける!師団長殿に敬礼!!」
『『ザッ』』
遅滞は無く一斉に敬礼する軍団。
「第一大隊、第一中隊より移動開始!」
一糸乱れぬ行進にまるでカーニバルの軍行進を錯覚したが、兵の放つ殺気にコレから戦地へ向かう兵士の意気込みが感じられた。
「どうです将軍、これで魔王軍より、数でも練度でも上です」
「王妃殿下、練度と数ではそうですが軽装歩兵ばかりです、他の軍との連携は取れません。」
「では魔王軍正面に立ってもらっては?」
「正面ですとかなりの損害が出ると思われます。」
「そうですか、私にはあの異界の軍団は強いと感じるのですが…。」
「まさか、鎧も弓も無い歩兵が…。魔王軍の主力の攻撃に耐えられるとは思えません。」
老将軍にはこの先の会戦の行く末を神に祈るしか無かった。
次回、(´・ω・`)平野でキャッキャ・ウフフ。ハクもケイキもキョクシャもあるよ。