The organs
ーそれは始まりだったー
私が私として生を受けたのは
ある自覚からだった。
僕にとってはあまりに退屈な日々
誰しも一度は考えた事があるんじゃねぇかなぁ?
『……エイリアンの襲来とか
突如目覚めた古代人の侵略とか……起こらねぇかなぁ~』
って
そう、もちろんそんなのとは出会う訳もなく
何てことない普通の世界なんだ。
まぁ強いて言うなら、昔に比べ医療が格段に進歩したことかな?
なんでも、臓器移植とか骨髄移植が
昔に比べて手軽に出来るようになったらしく
ニュースでもすげぇ取り上げられてるんだよなぁ。
世界でも日本くらいらしく
ほんとに凄いんだけど
なんで手軽に出来るようになったんだろ?
その辺よくニュースでも叩かれてたけど、全貌が明らかじゃねぇんだよなぁ
ま、純粋に医療の進歩ってことで納得しとくか(笑)
そんなある日
家でゴロゴロしながらネットサーフィンをしていた僕は
ふと目に入ったサイトをクリックした。
[ー移植による悲劇ー]と書かれたサイトだ。
ー俺はフリーの記者なんだが臓器移植考えてるやつ
マジでやめとけ。
俺の知り合いで二年ほど前に肝臓のを受けた奴がいて
最初はすげぇ元気だったのに、1週間、2週間経つうちに
段々黄疸が出てきたんだ。
『もっかい病院行っとけよ』って言ったのに
あいつ『移植したから大丈夫』って言って……
結局死んじまいやがった……
ー臓器移植による拒否反応か?
ーそんなん前々からあったっしょw
ー死因は肝硬変だったよ
C型肝硬変とかで予後はあまり良くないらしい……
僕は唖然とした
だってそうだろう
『こんなの……ニュースでもスマホでも聞いたことねぇぞ』
この書き込み以外にも色々な人が
同じようなことを書いていた。
簡単にメディアを信じてはいけない
それは昔から言われてたことだが
このサイトは恐らく本当のことを書いている、僕はそう思いながら
一度パソコンを閉じた
急に眠気が来たからである。
翌朝
もう一度あのサイトを見ようとパソコンのスリープを
解除した僕は目を疑った。
『……サイトが……消されてる!?』
そう、あのサイトは跡形もなく消されていたのだ
閲覧履歴にはURLがしっかり残っているのに
まるで全てが夢であったかのように消されていたのだ。
一応ニュースを見てみたが移植については
成功例や今後の世界進出の話だけで
その他は行方不明者の報道や天災について放送された。
とてもモヤモヤした気持ちを抱きつつ
『そもそも……肝硬変ってなんだ?』
ということで臓器と主要な疾患を
調べることにした。
そのうちに生理学や解剖学にも興味が出て
調べてみた。
『え!ミトコンドリアって
もともと体の外にいたの!?』
こんな感じで調べていったんだ。
学校に通えばいいじゃんって?
そこはほらあれよ……学費とか意外と高いからね……あれよ(笑)
そしてその興味故に僕は僕の人生に幕を下ろすこととなる。
ある時だった
僕ら人間の持つ物のうち唯一形の無いものについて
そう、心について
調べることにした。
「心はどこにあるのか」という疑問について
バビロニアでは肝臓にあるとする説があり
ヒポクラテスは心は脳にあるとし
プラトンは脳と脊髄にこころがあるとし
アリストテレスは心臓にあると考えた。
色々な説があると同時に
古代ギリシャの人はそこまで考えたのかぁという尊敬が
自然と湧いて出た。
え?どれだと思うかって?
僕は生理学とか調べてみて
結局は中枢神経からの電気信号が
心だったり人格を作ってるのかな?って思うから
古代ギリシャの偉人とは違う考えになるのかな?
ふとそんなことを思いながら
僕は考えてしまった。
本当に今更だけれどそこまで考えるべきでは無かったのだ。
僕たちの身体は
器となる肉体と
中身となる心(私見では中枢神経からの電気信号)で出来ている
……ってことは
もしかしたら心もミトコンドリアと同じで
体の外にいた、別の生き物だったのか……?
ーーーーーーーーーーー
唐突だけど
これで僕は僕を終えることとなる
ここからは君の話だ。
『そして私は私として再び生まれたと言うことですね?』
大きく頑丈なガラスに囲まれながら
映像を見終えた私は言った。
メガネをかけた白衣の男性はこちらを見ながら答えた
『まぁそんなところだろう
どうかね?肉体として借りていた彼の記憶は?
まぁ走馬灯のようなもので断片的ではあるがね……
しかし"興味"というのは怖いものだ。』
そう、彼は調べてしまった
興味が出てしまった
そして……知りすぎてしまった
彼の予想は当たっていたのだ。
一体どれが原因なのかは分からない
もしかするとこれまでの全てが原因かもしれない。
俗に言う中枢神経とは元々別の生物だった。
思考能力は非常に高く
何より学習することが出来たのは私達の大きな武器とも言えただろう
しかし、戦うことや自らを保護するものは何も持たずに
生まれてきたのだ
正にあなた達の知る脳やそれに連なる脊髄のような姿をしていた。
そんな時
ほ乳類の中のある猿に私達は目をつけた
彼らへの寄生は非常にスムーズに出来た
私達は身体を借りる代わりに自らの意思や心を放棄し
猿達にそれらを芽生えさせ、思考能力を授けた
全ては種の存続の為だ。
そうして猿達は進化を果たし
独自の文明を作り上げ
地球をここまで発展させてきた。
中枢神経に心があること
恐らくはそれを知り、理解することが
この寄生生活を終わらせるファクターなのだろう。
あの時彼は知りすぎてしまった
それ故に放棄した心が甦り
彼の中で新たに生じた私という存在が
彼をパンクさせた。
母親が見つけたのだろう、すぐに救急車がきて
病院へ運ばれた。
病院では急いで手術がされた
なんの手術か?
私を彼から取り出す手術だよ。
すでに病院はこの白衣の男達の根回しがされていたのだろう
脳波の測定、髄液の濃度、大脳新皮質以外の中枢の産熱量
それらをすぐさま測定し、中枢が目覚めていることに気づいたのだ。
言い忘れていたが
私達は猿の進化につれて支配領域を増やしていたのだ
基本的な生命維持を果たす臓器から
飲食物の効率的吸収を果たす臓器
次第に増えた結果
その分布は全身に及んだ。
そんな私を彼から取り出せば
どうなるだろう?
そして現在となる。
私にはもう肉体が無いが思考能力はある
ここまで地球が発展するとは考えていなかったが
この世界を私達が支配すればきっとより良い進化が見られるはずだ。
彼のお陰で私はここまで大きくなれた
彼が得た知識は私にとっても有意義な物が多く
今後の武器として使わせてもらうとしよう。
ふと白衣の男が言った
『……ではそろそろ君にも働いてもらおうかな?』
『ーッ!!』
男は何か薬物を投与したらしい
……段々と考えることが……困難に……眠気がつよ……い……
『フフフ……
また1つ検体が手に入った。』
ワシはこの研究室で室長を任されている。
今"奴ら"の為に仕入れた睡眠薬を投与したところだ
ワシらはこいつらに
"臓器分化"という能力があることを知った
人間の臓器であれば生成可能というから
驚きではないか!
そう、近年の医療の急成長の陰には
ワシらの努力があったのだ。
STAP細胞やIPS細胞などよりもより完璧な形で
人類の希望を作ったのだ。
しかし公には公開出来ない訳がある
どれほどの命が助かろうとも
やはり奴らを取り出すには犠牲がつきものとなる
これには世論も流石に反対意見が多いだろう。
移植による拒否反応
血液型の一致のみでは不確かな部分が多いのかもしれない
奴らから作れる臓器は
人間のそれに限りなく近いものの
完全一致にはまだ少し遠いのだから。
しかしあと少し研究が進めば
人類は更なる長寿を得られる。
長寿となれば必然的にワシらのような
医療従事者の需要は増えよう
そうすれば
ワシらがこの世界の王となることも簡単だろう。
正直人類の真の健康等どうでもいいのだ
富!権力!
それこそが全てなのだから。
『ーーなのだから。』
……あの男が何か言っている
私は薄れる意識の中で考えた
『世界の王となる』だと?
バカなことをいうな、貴様程度の思考能力では
その域まで達することはできぬ。
私には肉体がない……それはたしかなこと
しかし……昔がそうであったように
今も……
……必ず、ここを出て支配するぞ…………
End