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明かりが灯る  作者: Spark
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第八話 白人の意地

 レベッカの家の前にはすでに事件を聞きつけてやってきた報道陣がひしめいていた。私は車を降りながら携帯を手に取った。


 5コール目で彼女は電話に出た。

「アスリーン?」

弱々しくとても小さな声だった。

「レベッカ?今あなたの家の前まで来ているんだけど」

「ああ、テレビ局の人がまだいるのね」

「え?まだいるって、家にいないの?」

「今朝から人が大勢集まって来てね。近くのホテルにいるわ」

「どこのホテル?」

「キュアビジネスホテルよ」

「わかった。じゃあそっちへ向かうわ、あっレベッカ。何か買って行く物はない?」

「いいえ、ありがとう大丈夫よ」

電話を切った私は車へ乗り込み、ドライブへとギアチェンジした時だった。

 

 一人の女性がこちらへ歩み寄って来る、スーザンだ。私はギアをパーキングへ戻すと窓を開け、数秒間彼女と睨み合った。

「レベッカはどこ?」

大きな瞳でギョロリと私を見つめる。彼女はレベッカに会って何がしたいのだろうか。

「え?家にいないの?」

ここで私がレベッカの居場所を言ってしまえば、彼女は間違いなくそこへ飛んで行くだろう。シラを切るしかない。

「あんたあの女がどこにいるか知っているんでしょう?」

「知らないわよ。私だって今ここへ来たんだから」

一刻も早くレベッカの元へ行きたかった私は、もう一度ギアをドライブへ入れた。それを見たスーザンは窓の外からハンドルに手をかけてきた。驚いた私はその手を離そうとするが、がっちりと掴んだそれは、ちょっとやそっとでは離れない。

「ちょっと・・・」

離しなさいと言いかけた時、彼女は意味深な笑みを見せた。

「なぜ一度車から降りたのに、すぐに乗ったの?レベッカがいないってわかったからでしょう?これからどこへ行くつもり?」

いらない勘が彼女に働いたのか、質問をぶつけられた。私は深い溜め息を漏らし、もう一度ハンドルを握っているスーザンの手を掴んだ。

「こんなに大勢の人がいたら入れないでしょう?だから出直そうと思っただけよ」

それから少しの沈黙が続いた。

 

 私は彼女の手を半ば強引にハンドルから引き離し、アクセルを踏もうとした。が、一人の男性が車の前に立ちふさがっていた。

「ちょっと、どいてくれない?」

窓から顔を出し、腕組みをしたまま動かないその男性にそう頼んだが、彼に動く気配はない。

「ちょっと・・・」

「紹介するわ、私の兄よ」

「レベッカはどこだ?」

そう小さく、低い声で呟いたその男性は私をジッと睨みつけている。

「・・・」

何も言わない私に業を煮やした彼はボンネットに拳を叩きつけた。

「どこだ!」

脅して場所を吐かせる気だろうが、こんなことで私は驚かない。ボンネットがへこんでいないことを確認した私は、彼とスーザンの顔を交互に軽く睨みつけた。

「知らないって言ってるでしょう?」

「チッ」

舌打ちをした彼はスーザンの隣りへ移動すると、少しだが殺意に満ちた目で私を見つめた。

「これだから白人は・・・」

「何か言った?」

「・・・スーザン、行こう」

そう言い残し、順番に私を睨みつけると二人は野次馬の中へ消えて行った。私はそれを見送るとアクセルをふかした。

「何なのよあの男、頭にくるわね」

乱暴な運転はしないようにと心がけているものの、怒りのはけ口が見つからず私はハンドルを叩いた。




 レベッカのいたホテルは小さなビジネスホテルだった。飲み物とサンドウィッチが入った袋を抱え、部屋の前で私は少し考えていた。

 どのような顔で彼女に会ったらよいだろうか。笑顔、というのも少し違う気がするし、だからといって暗い顔もおかしい。こういうときは、平静を保ったままの顔がいいのか。そんなことを考えているうちに、ノックもしないのにドアが開いた。

「アスリーン?」

「あ、おはようレベッカ」

「おはよう」

彼女は思っていたよりも明るかった、一人あれこれ考えていたのがおかしいくらいに。だが多分それは私のことを思ってだろう。それがとても申し訳なかった。

「わざわざ来てくれてありがとう、入って」

「ええ」

明るく振る舞っている彼女だったが、少し痩せたような気がする。

 

 私は室内に入ると、陽が昇っているのにも関わらず、閉め切られたカーテンを見つめた。

「あっそうだ、あなた何も食べていないでしょう?」

私は彼女に袋を手渡した。受け取ったレベッカはそれをジッと見つめていたが、絞り出すような笑顔を見せると袋をテーブルへ置いた。

「ありがとう。後でいただくわ」

「ええ」



 それから私達は少し他愛のない話をしていた。しかしそれは核心に迫る話ができなかったからだ。昨日彼女に何も透視していないと言ったことは嘘だったという勇気がまだできていなかった。

 ベッドに座っていた私は室内をチラリと見渡す。ビジネスホテルというだけあって、小さな部屋だったが、一人で泊まるには充分なようだ。レベッカは買ってきた缶コーヒーを私の前に置くと、もう一本を取り出すとプタブを開けた。

「アスリーン?まだスーザン達はいた?」

突然レベッカが話を変えた。それは挙動不審な私の言動を見たからかもしれない。私は一呼吸置いて、小さく頷く。

「ええ、お兄さんと一緒にいたわ」

「そう・・・」

「彼の名前はなんて?」

「ケビンよ。彼と何かあった?」

「え?ええ、あなたの居場所を聞かれたわ」

レベッカが憂鬱そうに深い溜め息を漏らした。ここへ来る前に何かあったのだろうか。

「ケビンもお父さんが犯人だと思っているみたいね」

「どういうこと?」

質問に答えない彼女は、その代わりにテレビのスイッチを入れた。


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