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明かりが灯る  作者: Spark
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第三話 私が見たもの

 カギを握り締め、事務所に入ってきたスティーブが見えた。電気は点いておらず事務所内は暗かったが、窓の外にある街灯の明かりが少し差し込んでいたため、彼の顔を見ることはできた。

 

 スティーブは電気を点けようとスイッチを探す、その時だった。事務所に入ってきた誰かが、スティーブの背中にぶつかった。

「お、お前・・・」

振り返るスティーブ、向かい合わせに黒のポロシャツを着ている人物が立っている・・・顔は逆光で見えない。

自分の背中に触れたスティーブは恐る恐るその手を前へ戻すと、真っ赤な血がベットリとついていた。

「あぁ・・・」

そのままうつ伏せに倒れ込こむスティーブと、彼を見下ろす人物。顔が見えない。

「なぜ・・・だ」

そして彼は事切れた。




 私はカギをすぐさまウィルへ返した。少し驚いた顔を見せた彼だったが、何も言わず私の顔を見つめている。

「何か見えましたか?」

「エディの服装を教えて」

「黒のポロシャツに、ジーンズです」

「黒の、ポロシャツ・・・」

「見えたんですか?」

「・・・顔は見えなかった、けれど黒のポロシャツを着てたわ」

「顔が見えなかった?」

「暗くてよくわからなかったの。本当よ」

「暗くても、黒のポロシャツを着ていることはわかったんですか?」

彼は子どもに話しかけるような口調で私に質問をしてくる。

 私がウソをついていると思っているのだろうか?ウィルの話し方がやけに鼻にくる。

「わかったのは服装だけよ」

「そうですか・・・」

何かを考えているのか、何も考えていないのか、彼はシートに掛けられた死体を横目で見た。

「それではまずエディの犯行に間違いはなさそうですね」

「ち、ちょっと待ってよ。私は顔は見ていないって・・・」

「スティーブが殺されたとき、黒のポロシャツを着ていたのは彼以外いなかった」

「それはそうだけど・・・」

反論をしたいが、何も言葉が出てこない私は、ウィルを睨むことしかできなかった。

そんな私を見ると、ふぅと小さく溜め息を漏らした彼は店の窓を見つめた。

「だた、ひとつ気になることがあるんです」

「気になること?」


 

 

 店の外へ出た私達は、人だかりを見つめていた。

 

 気になること・・・一体何だろうか。ウィルはあれきり一言も話さず、スティーブが乗って来たRV車を見ている。

「ウィル、気になる事って何?」

そう聞かないと、彼は黙ったままパトカーに乗って行ってしまいそうな気がした。

「・・・誰が通報したか、わからないんです」

言っていいものかと悩んでいたのか、ウィルは外に立っていた警官に聞こえないような小声で答えた。しかしその答えにどう対応していいのかわからず、私は眉根を寄せる。

「レベッカじゃないの?」

「いいえ、彼女はあなたにしか電話をしていないと言っています」

レベッカではない誰か?

「スティーブが殺されたとき、レベッカ達の他に誰かいたってこと?」

「おそらく・・・通報を受けた者は、男性の声だったと言っています」

「エディかスティーブってこと?」

あり得ないことだとわかっていても、確認せざるを得なかった。その話が本当ならば殺人が起きた時、他に誰かがいたということになる。

「さぁ」

「さぁって、あなたねぇ・・・」

ウィルに突っかかりそうになった時、野次馬の中から一人の女性が抜け出し店へ入ろうと駆け込んできた。私よりも少し年下といった感じの黒人の女性だった。

「ちょ、ちょっと!部外者は立ち入り禁止ですよ!」

玄関先に立っていた警察官がその女性を取り押さえる。しかし、彼女は店へ入ろうともがく。

「どいて!私は関係者よ!」

「何を言って・・・おいこっちに来てくれ!」

暴れるその女性を、警察官が二人がかりで押さえている。


「どうした?」

女性に腹や足を蹴られながらも腕を掴んでいる警官に、ウィルはゆっくりと近づいた。

「いや、それが・・・」

「私はスティーブ・ブラウンの娘よ!中に入れて!」

「娘さんでしたか・・・申し訳ありませんが、今はまだ捜査中でして」

「パパに会わせて!」

ウィルにまで飛びかかりそうになった女性を、警官は必死の形相で押さえつける。

 それを見ていた私は、その女性が涙ぐんでいるのに気がついた。しかしウィルは、そんな彼女の心情を察そうとせず、キツイ一言を浴びせた。


 「お父さんは亡くなりました」

「ちょ、ちょっとウィル・・・」

思わず駆けだし彼の肩を掴んだ私は、彼女の顔をチラリと見た。しかし、その瞳から涙は消え、憎しみの表情がそこにあった。

「あいつ・・・エディの仕業ね・・・」

「それは・・・」

「エディが殺したんでしょう!」

「おち、落ち着きなさい!」

慌てた警官が羽交い締めにするが、怒りが収まらない彼女は足をばたつかせ、ウィルに蹴りを入れようとする。

「あの事を言われて・・・きっとパパは・・・」

それから力なくペタンと座り、大声で泣き出した。私とウィルは顔を向き合わせ、私だけが困った表情を浮かべる。

「エディはどこにいるの?」

ふと彼女が口走る。

「警察へ連行しました」

「あいつが犯人よ、間違いないわ!あんな奴死刑よ!」

「どうして決めつけるのよ。まだわからないでしょう?」

どうしてそんな言葉を発することができるのか、私は少し怒りを覚え抗議をした。が、彼女も負けじと立ち上がり、私に顔を近づけた。

「決まってるわ!あいつが!あいつのせいでパパは!」

「どういう事よ?」

「・・・あんた誰よ!」

今さらそんなことを聞くのかと言いたかったが、このままでは取っ組み合いのケンカになりそうな気がし、少し息を落ち着かせできるだけ優しい口調で答えた。

「私はここの従業員よ」

私達が言い合っている間、ウィルは中にいた捜査官と何か話し合していた。

「入れなさいよ!」

女性が私に食ってかかりそうになったとき、ウィルは彼女の肩を掴んだ。

「何よ!」

思い切り振り返った彼女は、それは多分ものすごい形相だったのだろう、ウィルが少し後ずさりをしたが、すぐに元の無表情に戻り玄関のドアを開けた。

「ここではなんですので、詳しい話は中で」

「・・・」

「いいんですか?」

彼女を捕まえていた警官が額の汗を拭うとウィルにそう呟く。コクンと頷いた彼は、玄関の扉を開けた。


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