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明かりが灯る  作者: Spark
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第十七話 命の駆け引き

サンカフェに入っていくスティーブを遠くから見つめる男性がいた。彼はスティーブが店へ入るのを見届けると、足音を消し去りながら後へ続いていく。

 店内では、エディとスティーブが小さな声で話し合っていた。

「エディ、お前には本当に迷惑をかけた。本当にありがとう」

「いや、もし俺でもレベッカがあんな事をしたらと思うと、な」

そう言ってエディは「コーヒーを入れてくる」とカウンターへと消えた。既にナイフを握り締めているランディがゆっくりと事務所へ入っていく。



 私はしがみついていたランディから急いで体を離した。

「だ、大丈夫、ですか?」

ランディは左肩を撃ち抜かれていた。苦痛にその顔が歪んでいる。

「ランディ・・・しっかりして!」

私は彼の腕に手を回し、立ち上がらせた。そして気がつく、今彼は黒のポロシャツを着ている。立ち上がった拍子に私は星のたくさんついたキーホルダーを落とした。それに気がついたランディの動きが止まる。

「これは・・・」

ランディから離れ、私はそれを拾い上げた。と、また静寂が訪れる。



「綺麗!ありがとう!」

そう言って微笑む女性、ケビンに轢かれてしまった女性だった。そして彼女と向かい合わせに幸せそうな笑顔を見せる、ランディだ。ああそうか、彼女のお腹にいる赤ん坊の父親は彼だったのか。



 「ランディ・・・」

「?」

言おうかどうか迷っていた。彼は悪い人間では決してない。むしろ、人の心の痛みをわかっている。

スティーブを殺したとき、彼は罪悪感にさいなまれ自分で警察へ通報したのだ。今考えれば全てつじつまが合う。

「あなた・・・」

「・・・」

何も言わないランディはただ私の瞳をジッと見つめていた。それは睨んでいるのではなく、穏やかな視線だった。

「俺は誰も殺してなんかねぇ!」

「嘘をつくな!」

腕をギュッと握り締めたままのランディがそう叫んだ。血がしたたり始めている。

「まさか、まさかとは思っていたけれど、アスリーンさんに言われて気がついたよ。私は、君が憎い」

「ああ?」

「あの手紙は私が書いた」

「なっ!?」

あの手紙とは私が透視した時ケビンが読んでいたものだろう。内容はわからないが、酷く焦っていたのだ。

「“事故の真相を警察に知らされたくなかったら金を用意しろ”」

「お前!お前が!」

「どう考えてもおかしかった。お義父さんが運転するバスに何度も乗っていた私が保証する。彼は人を轢くような、そんな乱暴な運転は絶対にしない」

彼の顔が紅潮していくのがわかった。

「私の、私の愛する女性と、子どもを轢き殺して・・・のうのうと生きているなんて」

そこから彼は言葉にはならない声を上げた。それから少しして、ランディが私に振り返った。

「アスリーンさん、ウィルさんに、謝ってもらえますか?謝って済む問題ではないことは重々承知です」

事件の終幕が近付いていくのがわかる。私はゆっくり、深く頷いた。

「スーザンを殺したのは、あなたね?」

一瞬黙ったランディだったが、私と同じように深く頷いた。

「スーザンが帰って来て、ウィルさんがそれとなくスーザンに話しかけていたんです。スーザンは私がお義父さんを殺してしまったのを薄々感じていたようで・・・」

「え?でもスーザンはエディだって言ってたじゃない」

私は驚き目を瞬かせる。イスに縛られたレベッカも私と同じ行動を見せた。

「私をかばってくれたんだと思います。仮にも一応夫、ですから」

一応・・・そうか、彼はスティーブに近付くためにスーザンと結婚をしたのかもしれない。しかし私はそれを言葉に出さなかった。ランディの悲しそうな瞳を見つめていると、何も言葉にできなかった。

「ウィルさんも、私を疑っていたようで、何か言われては、そう思って・・・」

「もういいわランディ、何も言わなくてもいい」

私はランディに近付こうとした。その時だった。銃声がまた私の耳に突き刺さった。ケビンが何を撃ったのか、ランディが陰になり見えなかった。が、それはすぐにわかった、ランディが倒れたのだ。

「ランディ!」

私は床に突っ伏したままのランディを抱き上げる。そしてケビンを見上げ睨みつけた。

「この、この人殺し共が!」

「誰がこの事件の発端か、考えなさい!」

私の考えと全く同じ言葉が聞こえた。縛られながらもレベッカがそう叫んだ。殺気だった目つきでレベッカに振り返るケビン、今しかない、しかし私の力であの男をどうにかできるだろうか?考えている余裕などないはずだ。レベッカを助けなければ!

「うぁああああ!」

そう叫びながら私はケビンに飛びつこうとしたが、ランディに体を押され倒れてしまった。代わりにランディがケビンに飛びかかる。

「お前・・・!」

「アスリーンさん!レベッカさんを!早く!」

呆気にとられていた私にそう怒鳴ったランディは、腕から出血しながらケビンと格闘を繰り広げている。私は立ち上がり、レベッカの元へと走った。

「レベッカ!」

「アスリーン!」

私はヒモをほどくとレベッカを抱き締める。何も食べていないせいか、心なしか親友は痩せたように感じた。

「離せこの野郎!」

ケビンのものすごい拳がランディの顔を直撃する。それでも彼はケビンを離さない。私はすぐさま携帯電話を取り出した。

「もしもし?早く、早く来て!」

パンと、乾いた音が聞こえた。振り向くと、地面に倒れ込むランディが見える。仰向けに倒れた彼の腹部からじんわりと血が溢れていく。

「ランディ!」

「動くな!」

ケビンが銃口をこちらへ向けたまま近寄って来た。まずい、このままでは二人とも殺されてしまう。

「ウィル!?」

私はケビンの後ろに視線を向けた。それに気がついた彼も一緒に振り返る。

 今だ!

 私はケビンに飛びかかり、銃を持っている右手を掴む。驚いたケビンは私の腕を振りほどこうと何度も腕を振った。今ここで彼に振り払われてしまったら、きっと私は死んでしまう。ブリジッドを一人残して死んでたまるものか!と私は必死に彼にしがみつく。

「このぉ!」

彼の左の拳が私の頭に襲いかかった。何度も殴られたが、離してはいけないと目をつぶりながらも私はまだしがみついている。

「離れ・・・!」

ケビンの言葉が途絶えた。恐る恐る目を開けると同時に彼は床へ突っ伏した。私は銃を明後日の方向へ蹴ると、立ち尽くすレベッカを見つけた。その手には40センチほどの木の棒がしっかりと握り締められている。

「わた、私だって、やる時はやるのよ・・・」

そう言った彼女はへなへなとその場に座り込んだ。私は立ち上がり彼女の隣りに座り込む。

「・・・フフフ」

どちらからというわけでもなく、いつの間にか私達は笑い合っていた。


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