第十一話 事故の真相は
人がいない夜道を女性が一人で歩いている。街頭の明かりだけが彼女を照らしていた。年齢は20代後半といった感じの黒人の女性だ。大きなお腹を抱え、信号待ちをしている。
少し待っていたが、信号が青に変わり女性は左右を確認するとゆっくり一歩、また一歩と歩き出した。
半分ほど横断歩道を渡ったときだった。一瞬、光が彼女を包み込んだ。
「!!!」
突進してきた車は女性に声を出す暇を与えることもなく轢いた。地面に突っ伏した彼女は額から血が流れ、ピクリとも動かない。
急ブレーキで止まった車からは誰も出てくる気配がない。運転席の窓には黒いスモークが貼られており、誰が運転しているのかわからない。と、後部座席のドアが開き、男性が飛び出してきた。
「エディ!」
私は思わず叫んでしまい、それに驚いたレベッカが立ち上がる。
「なに!?どうしたの!?」
私と同じくらいの大声で彼女が私に詰め寄る。それに続いてウィルが言葉を発した。
「エディ・テーラーが事故を起こしたんですか?」
「え?」
エディと私が叫んだのだ、そう解釈するのは当たり前かも知れない。しかしそれは違っていた。
「エディは後部座席から出て来たわ!彼じゃない!」
「ほ、本当なの!?」
そう何度も確認するレベッカに、私も何度も頷く。
「それでは、運転していたのはやはり?」
「それは・・・多分スティーブ・・・だと思うんだけど」
「多分?」
「運転席からは誰も出て来なかったの」
何度も思い出してみるが、やはり運転席に乗っていた人物は車を降りていない。しかしエディが後部座席から降りたということは、運転していたのはスティーブ以外にありえない。
「そうすると、エディ・テーラーに動機はなくなりますね・・・」
手帳に何かを書き留めた彼はそれを胸ポケットへ戻すと携帯電話を取り出した。
「・・・俺だ。エディ・テーラーはどうだ?・・・そうか、いや、何か証言したら連絡をくれ」
電話を切ると同時にドアをノックする音が聞こえた。ウィルが「入れ」と促すと、一人の女性警官が入ってきた。
「お疲れ様です」
敬礼を見せた警官はレベッカの元へ駆け寄り、彼女にも一礼をした。
「レベッカ・テーラーさんですね?こちらへ」
「え?私?」
突然の指名に目を丸くさせたレベッカは視線をウィルへ移す。が、彼に何か言おうとする気配はない。それを見た女性警官が口を開いた。
「自宅へ帰られる状況ではなさそうなので、我々が用意したホテルへ泊まっていただきます」
彼女の答えに少しひっかかりができた。先ほど私はウィルに「ホテルにいる」と伝えたはずなのだ。それなのにわざわざレベッカを違うホテルへ移動させるということは?
怪訝な顔でウィルの顔を見つめるレベッカだが、彼の表情に変化は見られない。
「騒ぎが落ち着くまでの辛抱です」
女性警官が小さくそう呟くと、レベッカの背中を軽く押した。彼女は押されるがままドアへと近付いて行く。
「私が勝手な行動をするとでも思っているの?」
レベッカは去り際ウィルにそう毒づくも、彼の表情に動きがないと知ると歩みを進めた。
「レベッカ・・・」
小さく名前を呼んだ私の声は彼女には届かなかったのか、振り返ることもなくドアを閉められてしまった。
「レベッカさんの荷物は既に我々が移動させているので、心配はなさならないでください」
レベッカの行動を目の前にし、私は彼の声に反応できないままイスにもたれかかった。
「・・・行きましょう」
私の行動を気にすることもなく、キーホルダーをポケットへしまった彼は車のキーを取り出した。
「行くって、どこへ?」
「スティーブ・ブラウンの家です」
「行ってどうするのよ?」
正直言うと、もうスーザンに会いたくなかった。ケビンという兄も私を毛嫌いしているのは確かだ。あの二人の顔を思い出した私は、少なからず苛立ちが募った。
「私が行ってどうするのよ?警察の人間じゃないのに」
「そうですね」
「そうですねって・・・」
彼の思考が全く読めない。
「確かめたいことがあるんです」
ウィルはそれだけ言うとドアを開けた。私は数秒間彼の自己中心的な態度に呆れ、動けなかった。




