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明かりが灯る  作者: Spark
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第一話 プロローグ

「いらっしゃいませ!あら、久しぶりね!」

私はカウンターに座ったハンスの肩を叩いた。

「久しぶりって、一昨日来ただろ?あぁ、ビールな」

彼はレベッカに注文をすると、私に振り返った。

「昨日会わなかったんだから、久しぶりじゃない」

「ああ?」

それをカウンター越しに聞いていたレベッカが苦笑する。訳のわからないハンスは、私とレベッカの顔を交互に見つめた。

「毎日会いたいって事じゃないの?」

ビールを彼の前に置いたレベッカが冗談交じりでそう言うと、ハンスは照れてしまったのかビールを半分ほど一気に飲んでしまった。


 このカフェは暇という言葉を知らないのか、毎日のようにお客が来てくれる。顔馴染みの客も増えた。

辺りを見回しても知らない顔がいないほど、私もこの店に馴染んできた。もう42歳になってしまったが、誰も何も言ってこない。私もまだまだ若いつもりでいる。


「レベッカ!ちょっと頼む」

奥の部屋からレベッカの父親であるエディがひょいと顔を覗かせた。

 彼が経営するこのお店も今年で2年目に入ったが、売り上げは全く落ちておらず右肩上がりをキープしている。


 レベッカはカウンターを私に任せ、奥の部屋へと入って行った。

「アスリーン、娘は元気か?」

「またその話?」

「いいじゃねぇか、減るもんじゃないだろ?」

一度ブリジッドをカフェへ連れて来たとき、ハンスは彼女を気に入ってしまったのかずっと隣りに座っていた。そして自分の身の上話を小一時間ほどしていた。が、ブリジッドはイヤそうな顔を一つ見せず、うんうんと何度も頷いていたのだ。そんな風に自分の話を真剣に聞いてくれる彼女がかわいいらしく、カフェへ来るとお約束のように彼は何度も娘は来ないのかと聞いてくるのだ。

「また来ないのか?ビールでもご馳走してやるのに」

ビールを全て飲み干し、おかわりを要求するようにジョッキを私に差し出す。

「まだブリジッドは19歳です。残念でした」

「19って言ったらもう立派な大人じゃねぇか。大丈夫だ」

「何言ってるのよ」

勢いよくビールを置いた私に驚いたものの、ハハハと笑いながらビールを飲み終えたハンスは、小銭をカウンターへ置くと「また来るわ」と言い残し店を去った。


レベッカがカウンターに戻ってくるが、すでにハンスの姿はなかったのに驚いたのか、ジョッキを片付けている私に近付いてきた。

「あれ?ハンスは?」

「もう帰ったわ」

「まだ来たばかりだったのに」

「そうね」

私はそう言いながらジョッキをお盆に乗せ、カウンターに入った。店に設置してあるテレビでは、化粧の濃い女性キャスターが交通事故のニュースを読んでいた。



 ここのところ、警察からの電話はかかってこないが、しかし事件が減っているわけではない。私は1年前に知り合った、無愛想な警察官のウィルの顔を思い出した。


 

 

 ウィル・ジョンソンとは2ヶ月ほど前に偶然にも街中で再会した。彼は無表情のまま、私に向かって一礼をすると、じっとこちらを見つめた。

「な、なに?」

「透視の能力に衰えはありませんか?」

「・・・それは遠回しに私が年をとってると言いたいの?」

「いえ、そういう意味ではありません」

一年前と同じように、彼の表情が崩れることはなかった。

ウィルと話すと、どうしてもペースを乱される。わかっていたことだが、なんだか釈然としない。

「そのような能力に衰えはあるのかどうか、少し興味がありまして」

「興味ねぇ。衰えたのかどうかなんて自分じゃわからないけど」

「わからない?」

「ええ、でも見えなくなったわけでもないし。まぁそのままってとこかしら」

「そうですか、それでは」

「えっちょっと!」

歩き去ろうとする彼の肩を掴んだ私だったが、次の言葉を用意しておらず口ごもってしまった。

「何か?」

相変わらずの無表情がもっと私を黙らせる。

「多分またお会いすると思います」

「え?」

「また捜査の協力を依頼するかもしれませんので、その時はよろしくお願いします」

掴んでいた手を離すと、私の言葉を待たずにウィルはスタスタと歩いて行ってしまった。


 また捜査の協力をお願いする・・・あまり嬉しいことではないが、頼まれたのならばやると決めている。それは死んだビルとの約束というだけではない。自分で、自分のできることはやろうと決めた。





 

 仕事を終え、私は夜の道を車で走っていた。腕時計に目を落とすと20時をちょうど過ぎた頃。

ブリジッドが今年から本屋で働いており、今日は早番と言っていたので、一緒に食事をとろうと急いでいた。

「もうご飯食べちゃったかしら」

赤信号がやけに長く感じる。ハンドルをギュッと握り締め、私は家路を急いだ。


 

「ただいま!ごめんね遅くなって!」

玄関のドアを乱暴に閉めた私は、スーパーの袋を両手に抱え居間へと走る。

「あっおかえりなさい。そんなに急がなくても大丈夫だよ」

ブリジッドはエプロン姿で台所に立っていた。

 時々レベッカが家へ来ると、ブリジッドは彼女に料理を教わっていた。おかげで今では私よりも上手に作る。

「待っててくれたの?」

「一緒に食べようって言ったでしょ?座って、今運ぶから」

「ありがとう」

ブリジッドの優しい笑顔が私の疲れを一変に消してくれる。私は娘の笑顔を見つめた。

「今日はロールキャベツね。これもレベッカに教わったの」

「うんいい香りね。さっそく頂くわ」


 食べている間、ブリジッドは職場で起こったことを聞かせてくれた。私はそれを笑いながら聞く。幸せの瞬間だった。でも、もしもビルが隣りにいたならもっと、もっと幸せだったかもしれないと、ブリジッドの成長した姿を見せたかったと、私はつい思ってしまう。


「お母さん?どうしたの?もしかして、おいしくなかった?」

一瞬私が沈んだ顔をしたのを見落とさなかった彼女は、心配そうな顔で私を見る。

「おいしいわよとっても!あぁそういえば、ハンスがまたあなたに会いたいだなんて言ってたわ」

「本当に?それじゃあまた行かなきゃね」

「無理しなくていいのよ?」

「してないよ」

それから私達は21時頃まで食事を楽しんだ。



 ベッドに入ったのは23時を回ったところだった。目覚ましをセットし、目を閉じる。

が、机の上に乗っていた携帯電話が鳴り出した。音量を最大にしていたため、私は半ば飛び上がるように起きた。



「もしもし?」

「助けて!」

「え・・・レベッカ!?」





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