何でも屋の末路
初投稿とさせて頂きました。
まともに書いたのはこれが初めてで、好き勝手に書いてしまったが故に、文章には違和感があるやもしれません。
ご了承願います。
素人の文章ですが、楽しんで頂けたらと思います。どうかご一読を。
―――僕の仕事は、殺し屋という部類に入ってしまうのだろう―――
現在午後六時。いつもと変わらないそんな日に、いつもと変わらない玄関のチャイムは鳴った。
「あいよー」
適当に返事をしながら、扉を開ける為に僕は玄関へと向かう。ボサボサのままの髪に、パジャマという外見のまま。そんなことを気にするほど、僕は几帳面ではない。
「はい、何のご用件で――」
欠伸を無理矢理飲み込みながら、僕はドアノブに手をかける。
扉を開けると同時に、右方にいる黒髪の少女に声をかけると同時に、彼女は僕の言葉を遮った。
「あの…久崎さんですか?殺し屋さんという噂を聞いたのですが」
その一言で、僕の嫌な予感は過ぎる。
「あぁー…やっぱり依頼かぁ…」
「はい、もちろん」
少し冷遇といえる彼女は、紺の制服を身に纏い、お世辞にも高いとは言えない身長、何も弄られていない黒髪ロングの一つ結び、その他もろもろの情報を含め、中学生くらいだろうと推測できる。…どっから殺し屋なんて情報聞き付けたんだよ…。
「まぁ…中に入ってよ」
「失礼します」
不審に思いながらも、僕は奥へ行くようにと、部屋の扉を指す。彼女は、ツカツカと廊下を歩くと、無言でドスッと椅子に座り、僕の方を睨みつけた。それはまるで、蔑むように。なんだこいつは、なぜこんなにも…。
「不機嫌なの…?」
さすがにこんな態度をとられたら、疑問を抱くのが普通だろう。僕はこれでも20代後半。中学生にそんなことをされる筋合いはない。すると彼女は、返答せずに、目をぱちくりした。まるで、その態度は当たり前だとでも言いたげに。
「…あ、いや、そんなつもりはなかったんですけど…」
しかし、さすがに自分の態度の悪さに気付いてか、すみませんと蚊の鳴くような声で謝罪の言葉を言い、顔を俯く。
僕は嫌われてなかった、と馬鹿げた安堵をしながら彼女の正面に座り、本題へと話を移す。
「…で、依頼は?」
「ある人を殺してほしくって」
「ある人、ねぇ…。不仲なのか?」
無糖のコーヒーを飲みながら、彼女に問う。彼女は無表情でそれに返答した。
「決して仲が悪いわけではありませんが――」
一瞬言葉を止め。彼女の無表情は、殺意剥き出しの表情へと一変した。
「死んでほしい程大嫌いです」
「…あっそ」
こんなものなのか。と、僕は心の中で呟く。哀れだ。と、呟く。今時の中学生は希望も知らない馬鹿な奴らも居たものだ、と。
「じゃあ行こっか、案内してよ」
「…え?もう…ですか?何も話してないのに…?」
「行きながらでもいいじゃん」
僕は軽く答え、支度を始める。寝起きのパジャマから私服へ、顔を洗い、バックを持ち―――
「じゃあ…行こっか」
「は…はいっ!」
――使い馴れてしまった愛用のナイフを、僕は握りしめる。
そして、僕たちは学校へと向かった。
「えと…ここらに居ると思いますが……」
彼女は隠れんぼをしているかのように、笑顔で探す。探す。探す。
「あ、あの人ですっ!」
バッと指を指した木の下には、女性が一人。茶髪がかった短髪に、ザ・シンプルなTシャツとジーパン。
「えっと…だれ?」
「OGですよ」
と、彼女は当たり前かのように答えた。
「オルドガール。古い少女。もとい卒業生ですねぇ」
「あぁ…通りで…」
通りで大人っぽいわけだ。
「さて、じゃあ行こう。ぱっぱと終わらせようよ」
手ぶらな僕は、ポケットに汗で濡れている手を押し込む。手の震えを、止める。足を、無理矢理進めるために。
「は、はい、わかりましたっ!」
そういって、彼女は無邪気に笑った。可愛らしく、とても明るい。殺しの依頼者とは思えないほどに。とても、魅力的な笑顔だった。
「あ、そうだ」
言い忘れてた、と僕は彼女の目を見つめた。
「こっからは付いてこないでね?」
「…え?どうしてですか?」
不満げに彼女言ったが、そこは譲れない。
「そういうのがモットーって奴なんだよ」
「いや、意味がわかりませんが…」
「ま、付いてこないでね。またあとで〜」
「ちょっ…く、久崎さんっ!」
僕はフラフラと手を振り、無心のまま女性の元へと向かう。
中学生に、殺しの場面など見せてはいけない。
いつもならそんなこと気にせず、すぐに終わらせるはずが、今日の僕は何か違っていた。何かが。いつもどおりのはずの依頼に、何感情移入してるんだよ。馬鹿か僕は。
……いやいや、というよりも、そもそもの考えが違うだろう。
中学生に見せてはいけない?何を言っているんだ僕は。そんな今更、今更考えるべきか?考えるか?この僕が?有り得ないだろう。
僕はただ。ただ。ただ一心に。
あの子にはそんな汚れたシーンなんか見せたくないだけだろうに。
僕は、再びナイフへと手を伸ばしながら。
「お姉さん、少し道案内お願いできますかね?」
仕事を始める。
「ハァ…ハァ……」
どのくらいの時間が経過したのだろうか。
倉庫の中。朝か夜かもわからない。
何分?いや、何時間?僕には、何もわからなかった。
前には涙を目に浮かべたまま表情が変わらない、気味の悪い女性のみ。死体、のみ。
「やっべ…僕はまだ慣れないのか…」
何十回と殺しをやってきたくせに、胸が熱くなる。叫びたくなる。怖い、怖い、怖い。嫌だ、殺したくなんか、ない。もう、嫌だ…!!!!
「ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「……煩いですよ、久崎さん」
「……!!」
倉庫に響くのは、僕の声とここいるはずない少女の声。
「…あっれれ…もしかして泣いてんの見られた?」
「当たり前じゃないですか…。なんでそんなんで殺し屋なんかしてるんですか」
呆れ半分で彼女は言う。目の前にある死体など、気にも留めず。
会った時と同じように、ツカツカと僕の元へと歩いてくると、茶色い何かを僕へと押し付ける。
「はい、10万」
彼女は相変わらずの冷たさで、僕へと言い放つ。何でこいつは殺しの代金知ってんだよ…。確かに一人は10万だけども。
「…いや、中学生だから5万でいいよ」
さすがに女子中学生に大金を払わせるにいかない為、急遽半額に落とすことにした。
「当たり前じゃないですか、そのくらいわかってますよ」
何を言ってるんですか、と彼女は言った。
もう一つ仕事があるんです、と。
「…もう一人…か…。次は誰…?」
もはや笑うことしかできなかった。この辛さを、一日に二回も味わうことになろうとは思わなかったから。僕は、彼女を睨みつけた。
そんな僕を見てか、彼女は馬鹿にしたように鼻で笑った。
「さすがに察してくださいよ〜」
と。あの魅力的な笑顔で、言った。
「私を殺してよ、久崎さん」
時が止まる時間が欲しかった。止まっている時点で、それは時間とは呼ぶべきものではないかもしれないが、それでも、僕は時間が欲しかった。
考える時間が、ほしかった。
――が、そんな僕の心情とは裏腹に、彼女は間髪入れずに口を動かす。
「最後の、お願いなんですよ。久崎さん」
泣きながら僕に、彼女は乞う。魅力的な笑顔が台無しだろうに。
「私は、醜いことをしてきました。今回も殺し屋にOGだと嘘をつき、姉を殺すよう、求め。同じように、母も、父も、兄も、弟も、殺してきた。姉が死んだ今、次は私です」
さぁ早く、と彼女は笑顔で言った。
皮肉なことに、泣きながら笑う彼女も、至極魅力的で。
「殺したくない。って言ったらどうする?」
まとまらない言葉を、ほじくりながらも僕は問う。彼女に生きてほしくて。それだけで。
「その場合は躊躇なく――」
笑顔が、無表情へと後戻りした後。彼女は。
「久崎さんを殺させて頂き、自殺します」
力強い目は尚、僕へと向けられていた。
断れなかった。というべきか。
断る勇気が無かったというべきか。
「……わかった」
僕は、了承してしまったのである。
死体に刺さったままのナイフを、殺すべき少女から受け取り、フラフラになりながらも、僕はナイフを再び握りしめる。
「いいの…?本当に?」
最後の時間稼ぎ、時間の無駄遣いをする、哀れな僕が、ここにはいたわけで。
「はい」
時間稼ぎのつもりだったのに、それさえも彼女は応じない。二文字のみ声を発し、彼女はそれ以上何も言わなかった。
血で濡れた手を彼女の肩にのせる。制服は汚しても大丈夫だったろうか。…あ、死ぬから関係ないのか。
意識が朦朧としている中、僕は呑気なことを考える。そして、そのままナイフを彼女の首筋につけ、力を抜く。
「精々……幸せに死にな」
「はいっ…!!」
血が飛ぶ。彼女の愛くるしい声が響く中で、血もまた、舞い散る。首筋から垂れる紅い液体は、紅く、黒い液体は。至極美しいものだった。
力の抜けた彼女の身体は、やたらと重かった気がする。そんな意識のない、生き物ではなくなった彼女に、僕は声をかけた。
「ばいばい、向こうで会えたら、また会おう」
そして、僕はまた、ナイフへと手を伸ばす。
どうでしたでしょうか。
個人的には予定通りの終わらせ方ができたので、ちょっとした達成感がございます。
次回は、少女の過去編ができたらなと思っておりますが、もしかすればこれで終わりとなるかもしれません。
皆様からの評価で変わるかなと……。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。