表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぶんげいぶ  作者: K1.M-Waki
9/66

高橋舞衣(3)

◆登場人物◆

・岡本千夏:高校二年生、文芸部部長。ちょっと舌足らずな喋り方の小柄な女の子。一人称は「わたし」、しずるも含めて部員を「〇〇ちゃん」と呼ぶ。部員達からは「部長」もしくは「千夏部長」と呼ばれている。お茶を淹れる腕は一級品。

・那智しずる:千夏の同級生、文芸部所属。一人称は「あたし」。人嫌いで千夏以外の他人には素っ気ないが、文芸部の後輩は親しみを込めて「〇〇さん」「〇〇くん」と呼んでいる。丸渕眼鏡と長い黒髪がトレードマークで、背の高い美少女。実は『清水なちる』というペンネームの新進気鋭のプロ小説家。

・高橋舞衣:舞衣ちゃん。文芸部の新入部員。ショートボブで千夏以上に背が低い。一人称は「あっし」。あらゆる方面の作品を読み漁る変態ヲタク少女にして守銭奴。しかもその性格はオヤジだったりする。

・里見大作:大ちゃん。舞衣の幼馴染。一人称は『僕』。二メートルを超す巨漢だが、根は優しい。のほほんとした話し方ののんびり屋さんで舞衣と同様のヲタク少年。

・西条久美:一年生。おっとりした喋り方の双子の姉。一人称は「私」。

・西条美久:一年生。おっとりした喋り方の双子の妹。一人称は「私」。

 今日の午後、最後の授業は体育だった。


「部長ぉー、しずる先輩。大丈夫っすかぁ」

 新入部員の高橋(たかはし)舞衣(まい)ちゃんだ。

「あー、ヒドイ目に遭ったよ」

 今、わたし達は雨を避けるため、屋根のある渡り廊下に避難したところだった。グランドで体育の授業が終わった途端、ゲリラ豪雨に襲われたのだ。お陰で、わたしもしずるちゃんもびしょ濡れだ。

「あっ、しずる先輩、目線こっちで」

 いきなり舞衣ちゃんが叫んだので、しずるちゃんもわたしも、思わず舞衣ちゃんの方を見てしまった。

 と、突然<ピッ>という電子音とフラッシュがわたし達を襲った。

「な、何よ、いきなり」

 しずるちゃんが不平を言う。一方の舞衣ちゃんは、大ちゃんと一緒に小型のデジカメの画面を睨んでいた。

「上手く撮れてるかなー」

「バッチリっすよぉ。この濡れ具合といい、透け具合といい、お宝モンすよ」

「きっと、高く売れるんだなー」

 二人の会話を聞いて何をされたのかを察したしずるちゃんは、水滴を滴らせながらも彼女達に近づいて行った。

「何勝手に人の写真撮ってるのよ! ちょっと貸しなさい。消去よ、データ消去」

 しずるちゃんは、大ちゃんの持っているデジカメを取り上げようと迫ったが、さすがに女子の中では長身のしずるちゃんでも、身長二メートルを超える大ちゃんには届かないようだ。

「ダメなんだなー。もう、クラウドにアップされてるんだなー」

 カメラを持った手を天高く差し上げている巨漢は、その体躯に似合わないのほほんとした(・・・・・・・)声で返事をした。

「何よそれ。何て事するのよ!」

 どうにかして小さな電子機器を掴まえようと、体操着の美少女はジャンプを繰り返している。その度に、彼女の豊満な胸が波打ち、黒い長髪から雫が宙に舞った。肌に張り付いた布が、彼女の身体のラインを白日の下に晒している。頬をほんのりと染めて巨人に追いすがるその姿は、どこかエロチックな雰囲気をたたえて、わたしを魅了していた。

「何をボウっとしてるの。千夏も手伝ってよ」

 彼女のその声で、わたしは我に返った。未だ少し、耳が熱い。

「え、だって……。わたしみたいにチッコイのが、大ちゃんに届く訳ないもの」

 どうにも助けてあげられないので、わたしは両手を振って雨滴を跳ね飛ばしていた。

「ウヒヒヒ。しずる先輩のピンナップは、凄い人気なんすよ。このデジカメも、その売上で買ったものっす。おっと、しずる先輩、もう一枚いいっすかぁ。その体操着の乱れ具合が、そそるっす」

 そう言われて、しずるちゃんは両腕で胸元を隠すと、わたしの後ろに隠れるように逃げ込んだ。

「これ以上はダメよ。もうっ、近頃の若い子は何て事考えてるのかしら」

 あはは、しずるちゃん。歳一つしか違わないよ。と、言いたいのを堪えて、

「舞衣ちゃんも大ちゃんも、そのくらいにしときなよ。うちは文芸部であって、アイドルクラブじゃないんだから。さ、しずるちゃんも、早く更衣室行こ。このままじゃ、風邪ひいちゃう」

 これ以上、渡り廊下で晒し者になるのはゴメンだ。わたしは、この小さな悶着を収めにかかった。

「分かったわ、千夏。もうっ、あなた達。今度見つけたら、ただじゃおかないんだから。憶えておきなさい」

 強く鋭い声でしずるちゃんが釘を刺すと、二人は臆面もなく、

『うぃ〜す』

 と、応えていた。ほんとに分かったのかな?



 そんな騒動の後の放課後、わたし達は図書準備室に来ていた。

「全く、もうっ。酷い目に遭ったわ」

 しずるちゃんは、そう愚痴をこぼしながら、長い髪を乾かしているところだった。

「災難だったね。じゃぁ、今日は久しぶりに熱いコーヒーでも淹れようか。名付けて『千夏スペシャル』だよ」

 彼女の言葉の意味するものが、雨に祟られたことなのか、写真を撮られたことなのか。わたしは、少しでも慰めになるようにと、いつもと違う『特別』を用意しようと思った。

「お願いするわ」

 丸渕眼鏡を外して、今はほどいてあるロングヘアをタオルで拭いながら、彼女は了解した。

「皆もコーヒーでい?」

『はーい、お願いしますぅ』

 と、ハモった声が返ってきた。これは新入部員の西条(さいじょう)姉妹。双子の久美(くみ)ちゃんと美久(みく)ちゃんだ。未だ、全然見分けがつかないけどね。

「千夏、ドライヤーとかは置いて無いわよね。プールが始まっていれば、持って来るんだけど。こういう時、髪が長いのは鬱陶しいわね。……ん? あなた達、何やってるのよ」

 しずるちゃんが指摘したのは、舞衣ちゃんと大ちゃんの事である。

「今度は、音出ないよーに設定したんだなー。これで大丈夫なんだなー」

「おお、眼鏡とったしずる先輩も超美人っす。これで、本人のサインがあれば、お値打ちモンなんすがねぇ」

 どうやら、彼女はまたあられもない姿(・・・・・・・)を写真に撮られたようだ。それを認めて、しずるちゃんの怒りは頂点に達した。

「いい加減になさい! これ以上、あたしの写真をバラまくのは止めて」

 悲鳴のような言葉が、不届き者達を叱咤した。しかし、彼女等は何の反省もしていないようだ。

「バラまいてなんかいないんだなー」

「そうっすよ。限定モノだからこそ、お値打ちが上がるんすから」

「屁理屈を言うなー」

 いつもは冷静なしずるちゃんだったが、さすがにこれには、相当お冠のようだ。

「も、もしかして……、あたしのことが校内で話題になっているのって……」

 だが、そこはいつもの(・・・・)しずるちゃんだ。頭に血が上っていても、その重要ポイントは逃さなかった。

「え? そりゃー、商材を見つけたら大々的にプロデュースして、皆の注目が集まったところを見計らってぇ、売る! 商売の鉄則じゃないっすか」

 そう言いながら舞衣ちゃんは、ヘラヘラと笑っていた。ああー、ほんとにもう、こいつらわ……。

「やっぱり、舞衣さん達の所為だったのね……。何をニヤけているのよ。本当にもうっ、ぶつわよ!」

 彼女の予想が当たった為か、舞衣ちゃんの態度の所為なのか。とうとうしずるちゃんは、ものすごい剣幕でそう言うと、右手を振り上げた。だが、次の反応で、それは無駄に終わることとなった。

「それもいーんだなー。Sなしずる先輩は、そそるんだなー」

 大ちゃんにそう言われて、しずるちゃんは上げた手を振り下ろせないまま<ガタン>と音をたてて椅子に座り込んでしまった。

 ダメだ。こいつらには何をやってもダメだ。わたしは、標的が自分じゃないので、ちょっと心に余裕があったものの、舞衣ちゃん達のあまりに奇怪な行動に、呆れていた。

 そんな時、

「しずる先輩、お手伝いしますわぁ」

 と、可愛らしい声がした。双子ちゃん達である。二人で左右から、櫛で丁寧にしずるちゃんの髪を整えていた。

「あ、ありがとう」

 二人共、手馴れている。そんな優しい彼女達に癒やされたのか、しずるちゃんも一旦大人しくなった。

「私達、家でもお互いに髪の整えあいっこしてるんですよぉ」

「髪は女の生命(いのち)ですからぁ。しずる先輩の髪、長くてツヤツヤしてて羨ましいですわぁ」

「あ、ありがとう、久美さん、美久さん」

 そんな微笑ましい光景に、わたしもなんだか癒やされていた。そんな時ふと前を見ると、茶褐色の液体がガラスのフラスコに満たされていた。フィルターには湿気ったツブツブのみの状態。

 おっと、そろそろだな。

 わたしは、並べてあった人数分のマグカップに出来たてのコーヒーを注ぐと、お盆に乗せてテーブルまで運んだ。

「皆、コーヒーが入ったよ。熱いから気をつけてね。お砂糖やミルクは、お好みでね」

 そう言いながらテーブルにお盆を置くと、手慣れたもので、コーヒーで満たされたカップを皆で手分けして配ってくれた。

「千夏部長、毎度、ご苦労でやんす」

「ありがとうございますぅ」

「いい香りですねぇ」

 と、いう言葉が聞こえてきた。えへへ、そう言われると、わたしも嬉しくなっちゃう。

 だが、そんな声に混じって、ちょっと異質な内容も聞こえた。

「髪おろした部長もカワイイんだなー。きっと、メイド服が似合うんだなー」

 いつもは両耳のところでお下げに結んでいるのだが、今はさっき雨で濡れた所為で髪をほどいてある。その事を言ってるのだろう。だが、大ちゃんにいきなりそんな事を言われて、わたしは一瞬<ギョッ>となった。

「そうっすねぇ。うん、なかなか萌えると思うっす」

「今度作ってくるんだなー」

 あ、あれ? 今まではしずるちゃんに注目が集まっていたところなのに、それがわたしに向かおうとしている。メイド服? それは、ちょと恥ずかしいな。

「えっと、それは勘弁して欲しいかな」

 と、わたしが狼狽えたようにしていると、

「いいんじゃない、千夏。あたしも、千夏ならきっと似合うと思うわ。女の子なんだから、オシャレはしなくっちゃ」

 しずるちゃんの予想外の発言に、わたしは焦った。


(おのれ、しずるちゃん。わたしを防波堤にしようとしてるな)


 その手には乗らない。

「えっとぉ、コスプレとオシャレは、違うんじゃ無いかと……」

 と、わたしは訴えたが、何故か話はどんどん横道に外れて行った。

「この学校、結構、校則厳しいですわねぇ」

 フゥと溜息をついて、双子ちゃんのどっちかが言った。

「私達も、普段の家の中では、違う色のリボンとか付けてるんですけどぉ……。学校じゃぁ禁止ですものねぇ」

「仕方がないから、サイドテールにして、左右反対にして見分けがつくようにはしてるんですぅ。でも、たまには違う髪型にしたくなりますぅ」

 そっか。彼女等なりに、苦労してるんだ。

「ああ、それ、あたしにも分かるわ」

 意外なことに、しずるちゃんも賛同した。ああーっと、そう言えば、以前「見てくれには気を使ってる」って聞いたような……。

『ですよねぇ、しずる先輩』

 双子ちゃんがハモった声で応えた。

「男子はもっと厳しいんだなー。制服は詰襟だし、長髪もNGなんだなー」

 そう言う大ちゃんの言葉に、

「そんな事無いよ、大ちゃん。学ラン、カッコイイと思うよ」

 と、わたしはフォローした……つもりだった。でも、返ってきたのは、こんな悲しい言葉だった。

「僕みたいなウスノロを構ってくれるのは、舞衣ちゃんだけなんだなー」

 あ、あれ? そんなつもりじゃ無かったんだけど。わたしは、少し責任を感じてしまった。それでだろうか。

「そ、そんな事無いよ。大ちゃんは背高いんだから、猫背を何とかして背筋を伸ばせば、見栄えがしてカッコイイと思うよ」

 わたしは、そんな事を口走っていた。ところが、

「なら、部長ー。僕と付き合ってくれるかなー」

 と、思いもよらない答えが返ってきた。

「え? あれ? な、何で、そうゆー話になるの? わたし、大ちゃんは、舞衣ちゃんと付き合ってるのかと思ってたけど……」

 いきなりの告白に、わたしは戸惑っていた。

「大作くんはロリコンなの?」

 ああ、しずるちゃん。いくらなんでも、そんないきなりの直球はヒドイよ。それに、わたしだって、ちょっと背が低いだけで、ロリータじゃないもん。

 だが、そんなわたしの心情を無視して、話は転がって行く。

「僕からすれば、女の子は皆チッチャイんだなー。それと、舞衣ちゃんは幼馴染で、お姉さんみたいなもんなんだなー」

 う……うう。そうなんだ。

「えらいチッチャイお姉さんだわね」

 ここぞとばかりに、いつもは守勢にまわっているしずるちゃんも、攻撃に出ていた。

「あ、そ、そなんだ……」

 そんな状況で、わたしはますます焦っていた。

「だ、大ちゃん。わたしじゃなくって、しずるちゃんはどなの? ほら、すんごい美人さんだし、背だって高くて……。ほら、わたしなんかより、よっぽどステキじゃない」

 何とか話の矛先を外らそうと、わたしは四苦八苦して言い訳を続けていた。ところが、

「しずる先輩は、貴重な商材なんだなー。それに、アイドルは皆のものなんだな。彼氏なんか許されないんだなー」

 それを聞いて、一瞬しずるちゃんが<ドキッ>とするリアクションをした。


(あ、そか。しずるちゃんには、合コンの時の彼氏さんがいたんだっけ)


 そんなことを知られたら、舞衣ちゃんや大ちゃんに何をされるか分かったもんじゃない。それで、しずるちゃんは彼氏さんのことを隠すように、

「い、いいじゃない、千夏。大作くんが彼氏なら、どんな強敵からも守ってくれるわよ」

 と、話の矛先をわたしに振ってきた。確かにそうかも知れないけど、急にそんな事を言われもなぁ……。

「わたし、大ちゃんの事、全然知らないよ。今すぐ決めなくても、良いんじゃないかな」

 別に大ちゃんの事がキライな訳じゃない。でも、突然に告白されたりしても、急には決められないよ。

「そーですかー。そりゃそうですねー。じゃぁ、しばらく保留(・・)にしましょー」

 そう言う大ちゃんの顔は、ちょっと寂しげだった。悪いことしちゃったかな。


 わたしはそんな事を思いながら、出来立てのコーヒーを口に含んだのだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ