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ぶんげいぶ  作者: K1.M-Waki
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高橋舞衣(1)

◆登場人物◆

・岡本千夏:高校二年生、文芸部部長。ちょっと舌足らずな喋り方の小柄な女の子。一人称は「わたし」、しずるの事は「しずるちゃん」と呼ぶ。お茶を淹れる腕は一級品。

・那智しずる:千夏の同級生、文芸部所属。一人称は「あたし」。千夏以外の他人には素っ気ない。丸渕眼鏡と長い黒髪がトレードマークの長身の美少女。実は『清水なちる』というペンネームで小説を書いている新進気鋭のプロ作家。

・高橋美奈子:千夏の友人でテニス部のマネージャー。妹の舞衣を千夏に紹介する。

・高橋舞衣:舞衣ちゃん。美奈子の妹。ショートボブで、千夏以上に背が低い。姉の紹介で文芸部に入部してくれたのだが……。

・里見大作:大ちゃん。舞衣の幼馴染。二メートルを超す巨漢。舞衣とともに入部したのだが……。

 四月も十日を過ぎて、新一年生が入学してきた。


 文芸部員の勧誘用のポスターも貼った。ビラも、しずるちゃんと二人で頑張って配った。後は、部活動紹介のステージだ。

 わたしは、体育館のステージの袖で、しずるちゃんの作ってくれた原稿を頭に叩き込んでいるところだった。

千夏(ちなつ)、大丈夫?」

 しずるちゃんが、心配そうに話しかけてきた。

「うん、多分だいじょぶ。でも、緊張するなぁ」

「ほら、髪ちゃんとして。リボン曲がってるわよ。千夏は、ちゃんとすれば可愛いんだから」

 しずるちゃんはそう言って、わたしの身嗜みを整えてくれた。

 今は、天文部が紹介をしている。次が、わたしたち文芸部の番だ。上手く出来るかな。心配になってきた。


<次は文芸部の部活動紹介です>


 会場にアナウンスが響き渡った。わたしは、原稿を手にしてステージ中央の演壇へ歩いて行った。マイクを少し近づけると、会場を見渡してみた。うわぁ、いっぱい人がいるよ。ううう、だいじょぶかなぁ。わたしは、チラッとステージの袖の方を見た。しずるちゃんが、手を振って応援してくれている。よし、行くぞ。わたしは、マイクに向かって喋り始めた。


「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。皆さんも、高校に入学して、部活動は何処に入ろうかと決めている方も、未だ決まってない方もいると思います。わたし達は文芸部です。皆で本を紹介しあったり、感想を交わしたりしています。最近、若者の活字離れが色々と取りざたされていますが、皆さんも、わたし達と一緒に活字を楽しんでみませんか。国語の教科書とは違う、小説の面白さを一緒に共有しませんか。わたし達は、普段は図書準備室で活動しています。興味がある方は、……」


 そして、兎にも角にも、わたしは文芸部の部活動紹介を終えた。

 うっわぁ、頭の中が真っ白で、何喋ったか覚えてないよ。

「千夏、上手く出来たじゃない。もう、バッチリよ」

 ステージの袖で迎えてくれたしずるちゃんは、そう言ってくれた。

「ホント? もう、人はいっぱいいるし、ライトは眩しいし。汗かいちゃったよ」

「兎に角、やれるだけの事はやったんだし、後は部室で待つくらいね。それでも、部員が集まらなかったら、もう一度ビラ配りとかしましょう」

「うん。そだね。しずるちゃん、原稿ありがと。アレなかったら、今頃死んでるよぉ」

「何言ってんのよ、部長。ちゃんと出来てたから、安心して」

「うん。じゃぁ、教室戻ろっか」

 二年生になっても、わたしはしずるちゃんと同じクラスだった。一年生の時に同じクラスだった人達は、「人嫌い」で有名なしずるちゃんとわたしが仲良くしているのを、不思議そうにしていた。そして、生暖かい目で見守ってくれているのだった。



 その日の放課後、わたし達は図書準備室でお茶を沸かしていた。

 いつもはパソコンで創作活動をしているしずるちゃんでさえ、そわそわして、片方が開け放たれた準備室のドアの方を見つめていた。

「ポスターも貼ったし、ビラも配ったし、演説もしたし。やれる事はみんなやったから、だいじょぶだよね」

 わたしは、しずるちゃんに確認するように訊いた。

「そうよね。あたし達だけでそわそわしてても、しようがないわね。……あ、そう言えば、高橋(たかはし)美奈子(みなこ)さんの妹さんが入部するって件は、どうなったの?」

 しずるちゃんは、思い出したようにわたしに尋ねた。

「うん。あれはね、美奈子ちゃんが「放課後に連れて来る」って言ってたよ。そう言えば、もうそろそろ来てくれてもいいんじゃないかな」

 わたしは、左手首を裏返すと、そう応えた。

「取り敢えず、お茶淹れるね」

 わたしは、待っている間に何もしないのも落ち着かないので、お茶を淹れることにした。

「ええ、お願いするわ……」

 と、しずるちゃんは、籠のチョコレートを指で転がしながら、そう返事をした。少し、『心ここに有らず』の状態であった。


 そうやってしばらく待っていると、準備室の入り口で誰かが覗き込んでいる気配があった。

「ヤッホー、千夏。妹を連れて来たよ」

 やって来たのは、一年の時同じクラスだった高橋美奈子ちゃんだった。

「あ、美奈子ちゃん、来てくれたんだ。どうぞ、入って入って」

 わたしがそう言うと、彼女は準備室の中に入って来た。

「やぁや、待たせたね。妹を紹介するね。ほら、舞衣(まい)、入ってきなよ。それから、大ちゃんも」

 そう言われて入って来たのは、ショートボブの小柄な女の子だった。小柄と言うか、背はわたしよりもちっちゃいくらいだ。高校の制服を着ていないと、中学生と間違えられそうな顔立ちと背格好である。

「千夏、この子が妹の高橋(たかはし)舞衣(まい)。本好きだから、即戦力になると思うよ」

 美奈子ちゃんは、妹の舞衣ちゃんの両肩に手を置いて貢物を差し出すように言った。まぁ、実際、人身御供だけどね。よく考えたら、ヒドイ姉である。

「あっしが、高橋舞衣でござんす。本なら、純文学から戦記、SF、ミステリー、サスペンスやホラーから、BLもエロ鬼畜もオーケイでござる。特に縛り物には、造詣が深いのでござる」

 あ、あれ? 何か……変な子来たなぁ。しずるちゃんも、さすがに目を丸くしている。

 そんなわたし達を気にもせずに、舞衣ちゃんは更に続けた。

「そいで、こいつはあっしの幼馴染で、一の子分の里見(さとみ)大作(だいさく)でござる。気軽に『大ちゃん』と呼んで下せい」

 すると、舞衣ちゃんの後ろから、ものすっごく大きな男子が<ヌッ>と進み出た。

「僕が里見大作ですー。よろしくお願いしまーす」

 その巨体は二メートルを優に越しているだろう。だが、高みから降ってきた声はのほほんとしていて、穏やかなものだった。でも、その時のわたし達は、彼の見かけの巨大さに圧倒されていたのだ。

「うおっ、デッカイ……」

「巨人だ……」

 わたしもしずるちゃんも、一瞬呆気に取られてしまった。その隣にはちっちゃい舞衣ちゃん。何だ、この凸凹コンビは……。

「あっ、わ、わたしが文芸部の部長の岡本(おかもと)千夏(ちなつ)だよ。よろしくね」

 わたしは、我に返ると、自己紹介をした。

「あ、あたしは、二年の那智(なち)しずる。よ、よろしく……」

 しずるちゃんも、ようやくそれだけを言うことが出来た。

「あっと、そうだ。皆、座って座って。今、お茶淹れるねぇ。美奈子ちゃん、ゆっくりしていけるんでしょう」

 丁度、お茶を淹れていたところだったので、わたしは彼女達を誘った。

「あっと、ゴメン。私、テニス部の方があるから。そいじゃ、この子達をよろしくね」

 残念ながら、美奈子ちゃんはそう言うと、そそくさと準備室から飛び出して行ってしまった。

「ありゃりゃ……。そっか。じゃぁ、二人共座ってよ。適当にお菓子とかつまんでていいからね」

 わたしは取り敢えずそう言って、追加で二人分のお茶も淹れようと、部屋の隅に向かった。

 すると、

「おっと、部長にそんな事をさせちゃあ、仁義が立たねぇ。ここはあっしが……」

 と、舞衣ちゃんが言ったんだけど、やっぱり他の人には任せられない。

「いやいや、いんだよ。ここじゃあ、わたしがお茶当番だから。それより二人共、無理に入ってもらってごめんねぇ。嫌だったら、そう言っていいからね」

 折角紹介してもらったものの、なんか美奈子ちゃんのコネで無理やり入部してもらったようで、わたしは心苦しかったのだ。それに、この子──舞衣ちゃんの話し方も妙ちきりんで、「なんとはなく嫌な予感がした」っていうこともあった。

 でも、舞衣ちゃんも大ちゃんも、快くこう言ってくれた。

「そんな事ぁ、ありやせん。あっしは、はなっから文芸部に決めてたんすよ。な、大ちゃん」

「そうでーす。僕も本読むの大好きだから、これから楽しみでーす」

「そっか。なら、いんだけどね」

 入部は自分たちの意志のようだ。でも、この二人……、だいじょぶなのかな?

 そんな時、またもやヌボ〜っとした声が、高みから降ってきた。

「部長さん、先輩、これからよろしくお願いしまぁーす。それで、先輩。先輩のことを「しずる先輩」って呼んでいーですかぁ?」

 例の大男──大ちゃんが、ヌボ〜っとした声でしずるちゃんにそう話しかけてきたのだ。

 一方で、いきなりそんな事を言われて、しずるちゃんは一瞬言葉に詰まった。

「え? えーっと……。ああ、良いわよ。好きに呼んでくれて」

 彼女の返事に、舞衣ちゃんは、

「そんじゃぁ、遠慮なく呼ばしていただきやす。しっかし、しずる先輩、超美人っすねぇ。惚れちまうぜ。……時にしずる先輩。ちょーっとお願いが有るんでゲスが、よろしいすかぁ?」

 高校生にしては幼い顔立ちの中で、クリクリとした瞳が悪戯小僧のように光っている。いったい、しずるちゃんをどうしようと言うのだろう。まさか、彼女が『清水(しみず)なちる』であると気づいているのか? わたしは、舞衣ちゃんが突拍子のないことを言い出しそで、ビクビクしていた。

 だが、しずるちゃんは、彼女の方を見ると、こう応えた。

「えっ? いいわよ、あたしに出来る事なら」

 まぁ、拒否するのも変だし、こう言うしかないよね。だが、二人の要望は、とんでもないものだった。

「では、遠慮なくお願いするっす。しずる先輩、『女王様とお呼び』って言って下せい」


(え? えーっとぉ……。今この子、何て言った?)


 あまりの事に、しずるちゃんもわたしも、目が点になってしまった。

「えっ? へ? ……な、何で、あたしが、そんな台詞(せりふ)を言わなきゃならないのよ」

 元々人嫌いのしずるちゃんだけど、それはないだろう。思った通り、彼女は、露骨にイヤそうな顔をしていた。

「あー、僕も聞きたいんだなー。きっと、素敵だと思うんですー」

 野太い声が、しずるちゃんに追い打ちをかけた。

「そうでしょ、そうでしょーとも。しずる先輩は、絶対Sが似合うと思いましたぜぃ。間違いなし」

 妙ちきりんな要望だが、折角入ってくれた一年生なのだ。困った──というよりも嫌悪感を丸出しにした顔をしているしずるちゃんに、わたしは両手を合わせて拝むようにしていた。それを見て、彼女は、更に不機嫌そうな顔になった。丸渕眼鏡の向こうから、キッという感じの鋭い視線がわたしに向けられている。

 それでも、わたしが肩をすくめながら拝んでいるので、遂に意を決したのか、彼女は椅子から立ち上がった。

「ふぅ。何をさせるのかと思えば……。それって、どうしても言わないといけない?」

 深く溜息を吐いた長身の美少女は、心底嫌そうに確認をした。

「是非ともお願いするっす」

「絶対、聞きたいんだなぁー」

 と、新入生達は期待の眼差しで、『しずる先輩』を凝視している。

「もうっ、しょうがないわね。一回しかやらないわよ!」

 今二人に辞められたら、一からやり直しになる。そういう危惧もあったのだろう。渋々だが、しずるちゃんは、舞衣ちゃん達のリクエストに応える気になったらしい。

 彼女達の前に立って両腕を組むと、少しだけ背を反らす。そして、いつもの冷たい視線で新人二人を見下(みくだ)すように眺めると、

「女王様とお呼び!」

 と、台詞を喋ったのである。

「あ…………」

 わたしは、しずるちゃんのこの芝居がかった台詞に、頭の芯が痺れるような感覚が走った。室内が、しばしの間、静寂で満たされる。そして数秒して、

「うっわぁ〜、やっぱしずる先輩は凄いっす。ゾクゾクしましたっす」

 と、賞賛の声が彼女に送られた。

 だが、次のリクエストは、更に過酷なものだった。

「しずる先輩。僕、もう先輩の虜になってしまいましたー。お願いですから、足で踏んづけて下さい」

 しずるちゃんは、勢いで言ってしまったものの、この二人のリアクションが更に変態じみていたので、一歩引いてしまっていた。

「ええーとっ……。さすがにぃ、そこまでは出来ないわ。あたし、Sじゃないもの」

 彼女は、さも困ったようにしていた。


(えっとぉ、ここ文芸部だよね。文芸部で間違いないよね。どしてこうなるの? それとも、わたしの頭が変になったの?)


 この変な状況に着いていけなくて、わたしはチラッとしずるちゃんの方を見てみた。

 さっき自分が発した台詞が恥ずかしかったのだろう。腕は組んだままだったが、その頬には紅がさしていた。不機嫌? というか、本当に困ったような顔をしている。普段なら物凄い剣幕で怒るのだろうが、この妙ちきりんな状況が、それをさせてくれない。

「まぁまぁ、ここは、あっしに免じて、どうか踏んづけてやっておくんなまし」

 幼馴染位が足蹴にされそうだというのに、舞衣ちゃんは逆に懇願するようにしずるちゃんにお願いしてきた。


(ひぇぇぇぇぇぇん。これじゃ、文芸部が変態の巣窟になってしまうよぉ)


 わたしは何とかして、この事態を収拾しようとした。

「あ、あのさ……。お、お茶、淹れたんだ。ほ、ほら、皆座って、ティータイムにしようよ」

 そう言って、わたしは急いで四人分のティーカップをお盆を乗せて返ってきた。

「お茶っすか。がってんで。大ちゃんも、こっち来て座るっすよ」

「ういっす」

 そう言って、ちっちゃな舞衣ちゃんとデッカイ大ちゃんは、やっとこさ席についてくれた。

 ふぅ、やっとまともな方向に話が進みそうだ。

「はい、どうぞ。お砂糖やミルクは、お好みで使ってね。そこに有るお菓子も食べていんだよ。えっと、それから……、それから……」

 わたしは、思っても見なかった珍妙な新入部員の気を逸らすために、思いつく限りの言葉を並べようと躍起になっていた。

 けれど、そこまでの心配はしなくて良かったようだ。

「へい、ゴチになりやす」

「じゃぁ、僕もー。いただきまぁーす、なんだなぁー」

「ど、どうぞ。冷めないうちにね」

 椅子に座っても尚巨大な大作くんが、大きな手でティーカップを掴むと口元へ持っていった。何か、ティーカップがやけに小さく見える。

「あっ、そうだ! 入部届けを書いてもらわなくっちゃ。えーとね、この紙に学年やクラスと一緒に名前を書いてね」

 入部届の事を思い出したわたしは、二枚の用紙を持ってくると二人に手渡した。

「了解っす、部長」


(はぁ、取り敢えずは部員二名確保だぁ。これで四人集まったぞぉ。後一人)


 とは思ったものの、何か凄い濃い一年生だな。この先、上手くやっていけるのかな?

 返って心配になってしまった、わたしなのであった。




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