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ぶんげいぶ  作者: K1.M-Waki
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ぶんげいぶ(3)

◆登場人物◆

・岡本千夏:高校二年生、文芸部部長。一人称は「わたし」。ちょっと舌足らずな喋り方の小柄な女の子。ひとつ下の大ちゃんが彼氏。雑誌の小説紹介コラムのイメージガールに抜擢された。

・那智しずる:文芸部所属。一人称は「あたし」。人嫌いで有名だが、学業優秀の上、長身でスタイルも申し分のない美少女。実は『清水なちる』のペンネームでヒット作を世に送り出す新進気鋭の小説家でもある。

・高橋舞衣:舞衣ちゃん。一年生。一人称は「あっし」。身長138cmの幼児体型。変態ヲタク少女にして守銭奴。千夏やしずるのマネージャー気取りで、仕事の手配にも手を出し始めた。

・里見大作:大ちゃん。文芸部にただ一人の男子で、千夏の彼氏。一人称は「僕」。2mを越す巨漢だが、根は優しいのんびり屋さん。

・西条久美:久美ちゃん。一年生、双子の姉。一人称は「私」。おっとりした喋り方の可愛らしい女の子。髪の毛は左で結んでいる。

・西条美久:美久ちゃん。一年生、双子の妹。一人称は「私」。おっとりした喋り方の可愛らしい女の子。髪の毛は右で結んでいる。

   彼女達二人は、髪型で違いを出してはいるが、ほとんどの人は見分けられない。二人共オシャレや星占いが好き。


・鍋丘:青年誌部門の編集員。しずるの小説を原作にコミカライズを企画した。











「いいお天気ですねぇ」

「いいお天気なのですぅ」


 双子の西条(さいじょう)姉妹は、図書準備室から中庭を見下ろしながら談笑していた。


「何が、いいお天気よ。あたしの心は曇りっぱなしよ。あ~、もっと自由な時間が欲しい!」

 しずるちゃんは、舞衣(まい)ちゃんのゴリ押しで発生した過密スケジュールの中、猛スピードでキーボードを叩いていた。彼女の愛機(パソコン)が文章を生み出す速度は、某専用機のように通常の三倍はあろうかと思えた。

「ダンダンダダンで、ダン。それからっ、こうして、これでっ、終わりっ! よっしゃ、試し刷り、っと」

 しずるちゃんが勢い良くキーを叩き終わると、プリンターが<しゅるしゅる>と音を立てて動き出した。

「しずる先輩、もう書き終わったのですかぁ」

「すごい速さなのですぅ」

 印刷の音に気がついた双子達は、驚きの声を上げていた。

「え? ええ、そうよ。と言っても、これは生徒会誌用の短編なの。だから、早めに仕上げちゃおうと思ったのよ」

「しずる先輩、……あのう、その短編、読ませてもらってもいいですかぁ」

 久美(くみ)ちゃんが、おずおずとしずるちゃんにお願いをした。

「いいわよ。でも、未だ第一稿だから、誤字とか文章の誤りとかが、未だまだあると思うの。それに、あんまり面白くないかも知れないわよ」

 眼鏡の美少女は、ノートパソコンから目を離すと、少し肩をすくめた。

「そんな事は無いですぅ」

「しずる先輩の小説は、どれも面白いのですぅ」

 そう言って、西条姉妹はプリンターのところへ歩み寄ると、吐出されてくる原稿を取っては二人で眺めていた。

 しずるちゃんはというと、一区切りついたからか、両手を組んで大きく背伸びをしていた。

「あ~~~、やっとこさ一段落。今度は新聞部の連載かな」


「しずるちゃん、ご苦労様。お茶などいかがでしょうか?」

 わたしは、淹れたてのダージリンをお盆に乗せて、しずるちゃんの傍に歩み寄った。

「ありがとう、千夏(ちなつ)。うーん、いい香り。生き返るわぁ」

「えへへ、褒められちった。嬉しいな」

「千夏さんは、お茶を淹れるだけじゃなくて、インタビューも上手なんだなぁー。今週号の対談も面白いんだなぁ」

 そう言う大ちゃんは、テーブルの上に『週刊ヤングフラッシュ』を広げて、悦に浸っていた。


(う~ん、それを褒められても、恥ずかしんだけれど)


「千夏、それ先月の対談(やつ)? もう掲載されたのね」

「うん。対談の連載は前半後半の二本撮りなの。ヤングフラッシュは週刊だから、月二回は対談するのね。結構、大変なんだよ」

「まぁ、写真も載るからね。スタイリストさんがいるけれど、身なりは気になっちゃうわね」

「それでさぁ、今週末は、舞衣ちゃんとショッピングなんだ。リボンや小物なんかを揃えときたいんだって。あの()、経費で落ちるからって、バンバン買っちゃうんだ。時々恐ろしくなっちゃうよ」

 自分の腹が傷まないとなると、豪華な買い物をするところが、金の亡者の真骨頂だ。そのうち、しっぺ返しが来ないといいけれど。


「やっぱり、しずる先輩の小説は面白いのですぅ」

「今回は、卒業生と在校生の恋物語なのですねぇ」

『感動しましたぁ』


 おっ、ハモった。さすがは双子。


(そなんだ。今回はラブストーリーか。あれ? その前のはSFだったし、コメディもあったよな。しずるちゃん、本当にどんなお話でも書けちゃうんだぁ。凄いや)


「そ、そんなに面白い?」

 しずるちゃんは、少し頬を赤らめて、西条姉妹に訊いた。

『面白いですぅ』

「本当に?」

「本当ですわぁ。この、主人公の二人が卒業式で最後を迎えるところなんか」

「思わず、涙ぐんでしまいますぅ」

『感動ですぅ』

 久美(くみ)ちゃんと美久(みく)ちゃんは、口々に感想を述べていた。


(そか。今度の生徒会誌は、三年生の卒業記念のためのものだったっけ。それで、卒業生と在校生の恋愛を題材にしたんだ。さすがは、しずるちゃんだ)


「ところで、しずる先輩。この小説に、モデルはいるのですかぁ?」

「劇的なので、なんか気になっちゃいますぅ」

 読み終えた二人は、最後にそう質問した。

「そうね。漫画になっている『萌える惑星』は千夏をモデルにしたけれど、今度のは、特にモデルとかはいないのよ。でも、確かに、実際にモデルとなる人物がいれば、もう少し表現が現実的かつ細やかに出来るんだけどなぁ。まぁ、それも、八千字じゃ表現できないかもね」

 そう言うと、しずるちゃんは、ティーカップを口元に運んだ。

「そうですよねぇ。言われてみれば、人物の説明がちょっと薄いかもですぅ」

 そんなしずるちゃんに、久美ちゃんがそう返事をした。

「でも、短い中に、ちゃんと起承転結や謎解きがあって、上手にまとまっていると思いますわぁ」

 と、美久ちゃんの方は、持ち上げる批評をした。

「ありがとう、美久さん」

「ああん、美久だけずるいですぅ。私だって、本当に面白いと思ってるのですよぉ」

「うんうん、久美さんも感想をありがとう。二人の意見を参考に、これをもっと面白いお話に仕上げるわね」

 しずるちゃんは、そう久美ちゃんと美久ちゃんに言うと、二人から試し刷りの原稿をもらって、席に戻った。彼女は、印刷された紙をテーブルに置くと、赤ペンを持って添削を始めた。何気に真剣である。やはり、これがプロ意識というのだろうか。


 かく言うわたしは、大ちゃんの隣の席で、新刊のフラッシュ文庫の斜め読みをしていた。今度の対談相手の作家さんの最新刊である。

 わたしの対談コーナーは、『週刊ヤングフラッシュ』でも人気のようで、鍋丘(なべおか)編集員も非常に喜んでいた。瓢箪(ひょうたん)から駒とは、このことを言うのかな。わたしも、最近では自信がついてきた。もしかして、わたしってイケてる女の子? しずるちゃんの言うように、ほんとはカワイイのかな?

 でも、大ちゃんは、雑誌の仕事をしているわたしの事を、どう思ってるんだろ? 最初は勢いで始めちゃったけれど、回数を重ねて慣れてくると、色々と考えることが増えてきちゃった。こうやって、対談相手の既刊本を予め読み通すことも、その一つだ。まぁ、舞衣ちゃんが、『仕事しろ』って、うるさい事もあるけれどね。しかし、これはこれで時間と手間のかかる作業なんだな。おかげで、最近は勉強をする時間も、容易には取れなくなってきている。こんなんじゃ、しずるちゃんと一緒に東京の大学に行けないかも知れない。わたしは、できるだけ無い暇を探しては、勉強を進めるようにしていた。


「うぃ~す」

 そんな時、全ての元凶(・・)が図書準備室に入って来た。

「部長、こんちわっす。今日は、部長に『ファンレター』が届いていたので持ってきたっすよ」

 と、舞衣ちゃんはそう言いながら、手提げ袋の中から、はがきやら封筒やらの紙束を取り出すと、わたしに渡してくれた。

「え? ええ! これ、全部わたしに? す、凄い量だね……」

「まぁ、ざっと百通くらいはあるっすかね。電子メールで届いたやつも印刷しておいたんで、ちゃんと目を通しておくっすよ。ファンは大切なんすから」

 珍しく舞衣ちゃんがまともなことを口にしていた。

「だけど、こんなすごい量、すぐには読めないよ。あ~ん、ホントに勉強する時間が無くなっちゃう」

 わたしが嘆いていると、しずるちゃんは、

「嬉しい悲鳴ね。舞衣さんの言う通りよ、千夏。手紙を書いてくれるファンは、本当に大事なのよ。あたしも、必ず目を通すようにしているわ」

 と、言った。


(スゴイなぁ、しずるちゃん。よくそんな時間があるよ。やはり、生粋のプロは違う)


 わたしは、それだけで彼女を尊敬してしまった。

 でも、わたしなんかを好きになって応援してくれる人って、どんな人なのかな? ちょっと前までは普通の女子高生だったのが、急に有名になったものだから、なんか不思議な感じである。

 っと、その時、わたしは突き刺さるような視線を感じて、<ゾクッ>とした。すぐにまわりを見渡すと、大ちゃんと目があった。彼は、じっとりとした目と複雑な表情で、わたしを見つめていた。

 と、突然ボソリとこう言ったのである。

「千夏さんが綺麗に着飾ったカワイイ写真を見られるのは嬉しいんだけど、それを他の男子が見ると思うと、少し複雑なんだなぁー」

「あっ、そか。ごめんね大ちゃん。相談もしないで勝手に決めちゃって。わたしは、大ちゃんの事が、誰よりも一番好きだからね」

 わたしが真剣な顔をしてそう言うと、大ちゃんは顔を赤らめて、

「こ、こんなところで、面と向かって言われると、ちょっと恥ずかしいんだなぁー。でも、嬉しいなぁー」

 と、呟いた。

「えっ? あっ、そか。やだな、恥ずかしぃ」

 わたしは、自分の迂闊な発言に、赤面していた。テーブルを挟んで真正面に座っている舞衣ちゃんが、ニヤニヤしている。


 そんな舞衣ちゃんが、帰り際にそっと近づいてきて、ヒソヒソと話しかけてきた。

「千夏部長。明日の夕方はフリーにしておいたっすから、大ちゃんと放課後デートしてくるっす」

 驚いたわたしは、思わず大きな声で、

「え、いいの!」

 と、叫んでしまった。

「部長、声が大きいっす。とにかく、明日は二人っきりで、のんびりラブラブしてくるっすよ」

 ああ、舞衣ちゃんありがとう。さすがは敏腕マネージャー。こんなプライベートなことまでマネージメントしてくれるとは。大大、大感謝である。

 でも、この言葉の裏で舞衣ちゃんがこんな事を考えていることまでは、わたしは思い至らなかった。


(クックック。たまには上手い餌を与えておくことが、いい馬の飼い方っす。その分、思いっきり働いてもらうっすよ。フヒヒヒヒヒ)


 恐るべきは、やはり舞衣ちゃんであった。




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