岡本千夏(4)
◆登場人物◆
・岡本千夏:高校二年生、文芸部部長。一人称は「わたし」。ちょっと舌足らずな喋り方の小柄な女の子。ひとつ下の大ちゃんが彼氏。文化祭に向け、文集の作成の音頭を取っている。
・那智しずる:文芸部所属。一人称は「あたし」。人嫌いで有名だが、学業優秀の上、長身でスタイルも申し分のない美少女。実は『清水なちる』のペンネームで活動している新進気鋭の小説家。
・高橋舞衣:舞衣ちゃん。一年生。一人称は「あっし」。身長138cmの幼児体型。変態ヲタク少女にして守銭奴。文化祭も文集で一儲けしようとしているらしいが……。今回は、「語り」を担当。
・里見大作:大ちゃん。千夏の彼氏。二メートルを超す巨漢だが、根は優しい。その見かけに反して、裁縫やイラスト、パソコンの組立などの細々としたことが得意だったりする。
・西条久美:久美ちゃん。一年生、双子の姉。一人称は「私」。おっとりした喋り方の可愛らしい女の子。大ちゃんに告白したが振られてしまった過去がある。
・西条美久:美久ちゃん。一年生、双子の妹。一人称は「私」。おっとりした喋り方の可愛らしい女の子。姉よりもホンの少し積極的、かな?
彼女達二人は、髪型をサイドテールに結んで違いを出してはいるが、ほとんどの人は見分けられない。二人共オシャレや星占いが好き。イラストやポスターの作成で活躍していたり、意外と多芸だったりする。
へい、まいど。舞衣ちゃんっす。
文化祭に向け、あっしら、文芸部の一年生部員達も、頑張って文集の原稿を作っているところっす。このまま、順調に進めばいいんすがねぇ。
って事で、今日の放課後も、あっし達は図書準備室で原稿用紙と格闘していたんすよ。
「う〜ん、しずる先輩のアドバイスで、カードでプロットを作るまでは出来たのに、これをちゃんとした文章にするのは、結構難しいっすね」
あっしが、頭を抱えていると、しずる先輩がやってきた。
「どうしたの舞衣さん。困ってる?」
あっしは、用紙から目を上げると、先輩の方を向いた。
「大まかなプロットはできたんすが、なかなか本命のお話に膨らまなくって」
「ちょっと、見せてもらってもいい?」
「お願いします。しずる先輩だけが頼りなんすよぉ」
あっしが、目をうるうるさせて先輩を見上げると、しずる先輩はあっしの原稿を手に取って、ゆっくりとそれに目を通していた。
「ふぅ〜む。キャラ設定が少し甘いようね。小説はマンガと違うの。文字だけを使って読者に伝えなけりゃならないから。だから、今誰が喋ってるのか、ここで考えているのは誰なのか、をはっきり分かるようにしなくちゃならないの」
「もっとキャラが立つようにする、ってことっすか? それこそ、マジで難しいっす」
「あら、キャラ立てなんて、ちょっとの工夫で何とかなるものよ。例えば、登場人物に関西弁の人をいれるとか」
「関西弁っすかぁ。それは目立ちますねぇ」
「あとは、一人称を工夫するとか。女の子でも、『わたし』、『あたし』、『ボク』とか、色々あるでしょう。それに、ちょっと田舎だと『オラ』ってのもあるわ。それから、『あたし』って平仮名で書くところを、『アタシ』って片仮名にするだけで、読む人の印象が変わるでしょう」
「確かにそうっすねぇ。男の子の方も、漢字の『俺』を片仮名の『オレ』ってすると、印象変わりますよねぇ」
「そうそう。それでモブの方は普通に『私』とか『僕』とかにしてやると、脇役って事が区別しやすいわよね」
「ちょっとの工夫で、キャラが立ってくるんすねぇ。勉強になりました」
「何とかやれそうね。じゃあ、あたしは戻るけど、また何か難しいところがあったら、呼んでね」
と、しずる先輩は、あっしにアドバイスして去って行った。
ふ〜ん。何でも工夫次第なんだなぁ。よし、もちょっと頑張ろう。
あっしがしずる先輩に指導してもらってる時、久美ちゃんと美久ちゃんの双子の姉妹は、千夏部長にアドバイスをしてもらっていた。
「あのね、久美ちゃん、このお話の流れを考えると、このエピソードは前の方にしておいた方が良いと思うんだ。ちょうど伏線にもなるしね」
「あ、本当ですわぁ。話の筋も、上手く通るようになりますわねぇ」
「ど? 上手く書けそかな?」
「頑張ってみますわぁ、部長」
そうして部長は、次に、美久ちゃんの原稿を校閲していた。
「大分良くなって来てるよ。この主人公のサポート役の女の子を、もっとミステリアスに仕立てると、面白いかもよ」
「そうですわね、部長。でもぉ、設定を考えるのは、少ししんどいですのねぇ」
「設定なんて無くてもダイジョブ。『何かこの人は謎めいてるな』って思わせといて、彼女の謎解きは敢えてしない。最後までミステリアスのまんまでも、物語は成立するよね。それに、読者の想像も膨らむでしょう」
「へー、そうなんですのね。じゃぁ、その方針で修正してみますわぁ」
「うん、頑張ってね」
部長も二人に色々とアドバイスをすると、自分の席に戻ってきた。部長は、自分用のノートパソコンを開くと、スイッチを入れて、原稿を書き始めたようだ。
この前の写真集が、重版に重版を重ねて、結果的に文芸部の取り分だけで百万円を超えたのだ。そこで、ワープロ用のノートパソコンを新たに三台導入することが出来たのだ。お陰で手際よく原稿が進む進む……はずなんだがなぁ。
まぁ、それは置いといて、大ちゃんの手作り無線LAN環境で、データ共有も、インターネット接続も出来たし、やりたい放題である。
ついでにプリンターも、スキャナー付きの最新型複合機に入れ替えて、便利便利。一気に最新のIT環境になったっす。
実は、このバージョンアップで一番喜んだのは、最後まで写真集を嫌がっていたしずる先輩だった。今までは、スマホのテザリングでネット接続していたらしく、新しい環境でサクサクにつながるのに驚いていた。今も、絶好調でパソコンのキーを叩いている。
しかし、しずる先輩は、いつもパソコンを操作しているけど、何をしているのだろう? 入部した時からなので、あっし達はあまり気にしてなかったっすが、よく考えると謎である。
写真集の時も、かなりの量の文章を作っていたけれど、四六時中パソコンを操作している割には、少ないように思う。マウス操作じゃなく、打鍵なので、明らかに何か文章を作っているはずなんすが、いったい、何を何のために書いてるのかが分からない。不思議っすねぇ。今度、訊いてみようかしら。
一方の大ちゃんの方は、文集のイラストや構成を主に担当していた。
お裁縫もそうだが、コイツは昔っから、こういった細々したことが得意だった。あの太い指で何でこんな細かいことが出来るのか、これも不思議なことっす。
「う〜ん。やっぱり千夏さん達が作った新入部員勧誘のチラシのイラストの方がカッコイイんだなー。僕には、アソコまで上手くイラストを描けないんだなぁー」
お、珍しく大ちゃんが音を上げている。
「そんな事無いよ。大ちゃんのイラストも素敵だよ」
部長が、なんとか大ちゃんを褒めて、持ち上げようとしていた。
「一体、誰に描いてもらったんですかぁー。もう、ほとんどプロですよねぇー」
それを聞いていた部長としずる先輩は、一瞬目を合わせると、何かバツの悪そうな顔をしていた。
「あ、あれはね、しずるちゃんの知り合いの人に、無理に頼んで描いてもらったんだ。何かプロの絵師さんらしいよ」
部長がそう言うと、大ちゃんは、
「やっぱり、そーですかぁー。どこかで見たような気がしてたんだなぁー。やっぱり、プロの絵師には敵わないんだなぁー」
と、応えた。
「あたしは、大作くんのほのぼのしたイラストは好きよ。えーっと、ゆるキャラ? 的な感じよね。それに、表紙や、各人の原稿の内容によって、イラストの雰囲気を書き分けられているし。よく出来ていると思うわよ」
しずる先輩も、こうフォローしていた。
「そぉーですかぁー。僕は、今からでも、その絵師さんに頼んだ方が、良い文集になると思いますがぁー」
さすがの大ちゃんも、プロの絵師さんには敵わないということだろう。
しかし、
「えっと、それがね、彼、今本業で忙しいみたいなの。それに前に頼んだ時に『次からは有料だからねー』なんて言われたし。まぁ、文芸部の皆で手作りするところが部活動の要だと、あたしは思うのよね」
しずる先輩は、そんな事を言っていた。
「わ、わたしもそう思うな。手作り文集、いいじゃない。美久ちゃん達のワンポイントイラストも可愛いし」
「え? そうですか? えへへ。久美ぃ、褒められちゃったわよ。嬉しいのですぅ」
「えー、私だって、描いてるのにぃー」
「久美ちゃんのも、可愛いよ」
「そうですか? 私も褒められちった。何か嬉しいのですぅ。えへへ」
なんて、久美ちゃんと美久ちゃんは、素直に喜んでいた。
あっしだって負けないぞ。
「あっしは、文章で頑張るっす。本格ミステリーに仕上げるのだぁ」
「舞衣ちゃん、その意気だよ」
「その代わり、しずる先輩。ちぃとばかし手助けして下せい」
「いいわよ、舞衣さん。あたしでいいなら」
「助かるっす」
よっし、これで、秋の文化祭には、ミステリー作家の高橋舞衣ちゃんがデビューっす。頑張るぞ。
そんなそれぞれの思いをよそに、〆切りは刻一刻と近付いてきていたのだったっす(汗)。




