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ぶんげいぶ  作者: K1.M-Waki
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岡本千夏(2)

◆登場人物◆

・岡本千夏:高校二年生、文芸部部長。一人称は「わたし」。ちょっと舌足らずな喋り方の小柄な女の子。ひとつ下の大ちゃんが彼氏。

・那智しずる:文芸部所属。一人称は「あたし」。人嫌いで有名だが、学業優秀の上、長身でスタイルも申し分のない美少女。丸渕眼鏡と長い黒髪がトレードマーク。舞衣の策略で、学校のアイドルへと祭り上げられた。

・高橋舞衣:舞衣ちゃん。一年生。一人称は「あっし」。身長138cmの幼児体型。変態ヲタク少女にして守銭奴。しずるの隠し撮り写真集で大儲けをした。今回は、「語り」を担当。


・矢的武志:しずるの彼氏。千夏達とは、合コンで出逢った他校の三年生。











 へい、舞衣(まい)ちゃんでござんす。先回から、この章はあっしが担当させて頂いておりやす。


 さて、文化祭で文集を発行することになった文芸部。さて、その活動を見ていきましょう。って、言いたいところっすが、今日は日曜日。学校も部活も休みっす。果てさて、初っ端から内容が無くなっちまった。


 さてどうしよう……。


 と言う事で、あっしも暇なもんだから、駅前の某本屋に行くことにしたっす。

 この本屋は、こんな田舎の地方都市にしては、三階建ての三フロア全部が本棚という、あっし達文芸部御用達の由緒ある本屋っす。って、あっしが自慢しても始まらないっすが。


 あっしは、一階の新刊本のコーナーを、ぶらりぶらりと眺めて歩いていたっす。お、清水なちるの最新刊が出ているぞ。これはチェックしておかなければ。

 他には……目ぼしい(ぶつ)は無いっすねぇ。あっしは、平積みの山から清水なちるの文庫本を一冊取り上げると、それを持ってレジへ並んだ。今日は全国的に日曜日なので、結構な人数が並んでいる。五分位待たされちまったが、あっしは会計を済ませて列を抜けることが出来た。カバーもかけて貰ったし、帰りの電車で読もうかなっと。

 あっしがホクホク顔で本屋を出ようとすると、見覚えのある顔に出会った。文芸部の岡本(おかもと)千夏(ちなつ)部長だ。あっしが声をかけると、彼女はすぐにこっちに気がついて近寄ってきた。

「あれえ、舞衣ちゃん。どしたのこんな所で」

 部長に訊かれて、あっしはこう応えた。

「新刊本のチェックでやんす。今日はこの通り、清水なちるの最新刊をゲット出来たでやんす」

「あ、本当だ。もう出たんだね」

「やっぱ、清水なちる、良いっすねぇ。噂では現役高校生って聞いてやんすが、目線があっし達と同じで、価値観が共有出来ているような気にさせられるっす。そういうとこが、『買い』っすかね」

「そだよね。わたしも好きだよ。今度、感想訊かせてね」

「ガッテンだ。ところで部長もお買い物っすか?」

 あっしの質問に、部長は持っていた紙袋の中をゴソゴソと(まさぐ)り始めた。

「そなんだ。これを買いに来たの。わたしの近所じゃ、手に入らないんだよね」

 そう言って見せてくれたのは、プリンタの交換インクとUSBケーブルだった。

「うちの機種、古いからさ、大型店舗じゃないと置いててくれなくて。ケーブルも断線したらしくって、交換。これも、近所の小さな電気屋じゃ、適当な長さの物が無くって」

 それで、あっしも合点がいった。

「そぉっすねぇ。細々したものは、大型店かパソコン専門店じゃないと無理っすよね。それで、ここまでお買い物っすか」

「そう。文集の準備もあるしで、家のプリンタをチェックしたら、調子悪くって。調べたらケーブルだったみたいなの。そういや舞衣ちゃんは、文集に何書くか決まった?」

 うっ。今日ここで、その質問は、心臓をえぐられるっす。見事な攻撃っす。

「え、えと。あ〜、なかなか決まんなくって。それもあって、本屋さんに来たっす」

「そかぁ。舞衣ちゃんは努力家だね」

「そ、そんなこと無いっす。部長やしずる先輩みたいに、感動する文章なんて書けないし。未だまだ修行中っす」

 あっしは、慌てて部長の言葉に曖昧な返事をした。変に期待されても困るっすからねぇ。

「随分遅い時間だけど、舞衣ちゃんはまだいるの?」

 そう言えば、外がちょっと暗くなってるっすねぇ。

「本を眺めていたら、時間を忘れちまったっす。もうこんな時間っすか。それじゃぁ、あっしは帰るとしましょう」

「じゃぁ、駅まで一緒に行こ」

「オーケイっすよ」

 ということで、あっしと部長は、ちょっと暗くなった商店街を、駅の方向へ並んで歩き始めた。

「あ、そだ。舞衣ちゃん、この公園を横切ると、近道なんだよ」

「そうっすか。じゃぁ、公園を通りましょう」

 そうして、薄暗い中、あっし達は公園へ入ったっす。


 しばらく遊歩道を歩いて、茂みの角を曲がろうとした時に、部長が何かを見つけたのか、あっしを制したっす。

「どうしたんすか?」

「しっ。静かに」

 部長に言われて、あっしは息をひそめると、そっと茂みの影から部長の見ている方向を眺めた。


 そこに居たのは、腰まである長い黒髪を一本の三つ編みに編み込んだ大人っぽい女性だった。丸淵の眼鏡をかけた見覚えのある顔は、しずる先輩だった。

「し、しずる先輩?」

「そだよ」

「じゃぁ、何で隠れる必要が……あれ? 隣にいるイケメンさんは、誰っすか?」

 こんな時間に、こんなところで、しずる先輩を見つけたことにも驚いたっすが、先輩が一人じゃなかったことには、もっと驚いた。

「あのね、あの人、しずるちゃんの彼氏なんだ。秘密だから、黙っといてね」

「え? か、かか、彼氏ぃ」

「舞衣ちゃん、声が大きい。見つかっちゃうよ」

「すんません。しかし、しずる先輩に彼氏がいるなんて、ぜんっぜん知らなかったっす。これは、スクープっすよ」

「秘密にしてって言ったでしょ。舞衣ちゃん、もっとこっち寄って。しずるちゃん達に見つかっちゃう」

「スマンです」

 あっし等は、茂みの影い隠れて二人を観ていた。美男美女のカップルは、とても親しそうで、あのしずる先輩が柔らかい笑顔を垣間見せていた。学校では、とても見られない表情だった。

「こら、舞衣ちゃん。写真なんか撮るもんじゃないよ。それでなくても、しずるちゃんには秘密が多いんだから。しずるちゃんの生活をかき回すような事はしないの」

 あっしが、自慢のデジカメを構えようとすると、部長に怒られちまった。

「むぅ。折角のトクダネだったのにぃ」

「そんなパパラッチみたいな事しなくっても、舞衣ちゃんは、しずるちゃんの写真で充分儲けたでしょ」

「そうっすが……、うう、仕方ないっすね」

 そうやって、しずる先輩と彼氏さんを観察していると、暗がりの中、二人の影が重なった。しずる先輩は、長身の彼氏さんに合わせるように爪先立つと、その両腕を男性の首に回した。暗がりでよく分らなかったっすが、二人の顔が重なったように見えた。

「も、もも、もしかして、キスっすか?」

 あっしが驚いて小声で訊くと、千夏部長は、首を縦に振った。


 うおおぉぉぉ、恋人同士のキスなんて初めて見たっす。しかも、モノスゴク絵になってるっす。まるで、恋愛映画みたいっす。……しかし、


「長いっすね」

「うん。長いね」


 いったい何分経ったんだろう。二人は、いつまでも唇を重ねていた。彼氏さんの両腕は、しずる先輩の背中を這い、撫でさすっていた。その一方が、自然に下に降ろされた。ちょうど、三つ編みにした髪の毛の少し下の辺り。彼氏さんは、その部位を優しく撫でさすっているようだった。しずる先輩の身体がピクッと身悶えしたように見えた。

 しばらく、そうやって二人で抱き合っていたが、ようやく、しずる先輩は彼氏さんから離れた。遠目にも、先輩の頬が上気しているのが分かった。


 彼氏さんは、しずる先輩の頭を両手でそっと引き寄せると、もう一度軽いキスをした。


 そして、二人は分かれ、彼氏さんは薄暗い路地へと消えていった。

 しずる先輩は片手を上げてさよならをすると、彼氏さんが歩いて行った方向をいつまでも眺めていた。


 そして、もう充分に見送ったからだろうか、先輩は、しばらくするとあっし達の方に向いて歩いて来た。

「あ、こっち来るっすよ」

 あっしと部長は、急いで茂みの影から逃げようとしたっすが、運悪く先輩に見つかってしまったっす。

「えっ。千夏、……それに舞衣さんも。な、なんで、こんなところに」

 しずる先輩に訊かれて、部長は、こう言った。

「い、いやぁ、ここ通ると駅への近道になるんだ。ゴメンね、覗きみたいな事して。良いところを邪魔しちゃいけないかな、って思って」

「な、何か、お二人が親し気で、声をかけづらかったんす」

 しずる先輩は、少しオドオドした様子で、顔を赤らめていた。

「あ、あなた達、……もしかして……見てた?」

 あっし等は、首を縦に振ると、部長が、

「うん。見てた」

 と言った。

「そ、そう。見たの……」

 しずる先輩は、観念したように俯いていた。

「しずるちゃん、キスしてたよね」

 部長が訊くと、しずる先輩は顔を項垂れたまま、

「うん」

 と、小さな声で返事をした。

「長かったね」

「う、うん」

「おしり触られてた?」

「あ、え〜と、……そうだったかしら」

 千夏部長の質問は、止まなかった。

「しずるちゃん、気持ち良かった?」

「あ、え、え〜と、……そうね。良かった……かな」

「いつも、あんな事してるの?」

 部長は更に追求した。

「い、いつもいつもじゃあ、ないけどぉ。最近は少し……」

「そ、……なんだ」

「あ、そうよ。最近、つい最近よ」

「しずるちゃん、もうエッチした?」

 さすがにこの質問には、しずる先輩も、ガバッと顔を上げると、

「未だに決まってるじゃないっ!」

 と、大きな声で否定した。

「しずるちゃん、声、大きい」

「あ、え〜と、……ゴメン、千夏」

 あっしは、この二人のやり取りの中で、一人取り残されて気不味い思いをしていた。何しろ、しずる先輩に彼氏がいたのだから。しかも、濃厚で熱烈なキスをして、身体まで触らせるのだから。

 しずる先輩も、しばらく気不味そうにしていたが、あっしに気が付くと、

「あ、ま、舞衣さん、この事は秘密にしておいてちょうだい。お願い」

 と、あっしの両手を取ってしっかと握ると、そう言った。

「な、何でですっか?」

 あっしの手を握る力が強まった。


(ちょ、しずる先輩、手が痛いっす)


 少しして、しずる先輩はこう言った。

暴動(・・)が起こるからよ」

「ぼ、暴動(・・)、っすかぁ?」

 あっしは、しばらく呆気に取られていたが、よくよく考えると、しずる先輩は学園のアイドルであった。そのアイドルに彼氏がいて、濃厚なキスをしたり、公園で抱き合っていたりしていたのである。そりゃぁ皆に知れたら暴動になるわなぁ。

「舞衣ちゃんが、あんなに煽ってしずるちゃんをプロデュースしてなければ、こんな事、秘密にしなくてもよかったんだけどね」

 千夏部長は、最初から知っていたのだろうか。その言葉には、少しだけ非難めいたところが含まれていた。

「そうよ。だから、解ってちょうだい、舞衣さん」

 しずる先輩の目は真剣だった。瞳の奥で、言外に『極秘にしてね』と語っているのが分かった。


 こんな調子で、しずる先輩と部長の二人に説得されては、あっしは黙って首を縦に振る事しか出来なかったのだ。




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