表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぶんげいぶ  作者: K1.M-Waki
3/66

那智しずる(2)

◆登場人物◆

・岡本千夏:この春から高校二年生、文芸部部長。ちょっと舌足らずな喋り方の小柄な女の子。一人称は「わたし」、しずるの事は「しずるちゃん」と呼ぶ。お茶を淹れる腕は一級品。

・那智しずる:千夏と同じ二年生で文芸部所属。一人称は「あたし」。人嫌いで他人には素っ気ない。丸渕眼鏡と長い黒髪がトレードマーク。女子としては長身でモデル体型の美少女。実は『清水なちる』というペンネームで小説を書いている。

・高橋美奈子:千夏の友達。テニス部のマネージャー。

・矢的武志:千夏達が合コンで出逢った他校の男子生徒。しずるの知り合いらしいのだが……

 三学期が終わって春休みに入ったばかりのとある日の朝、わたし、岡本(おかもと)千夏(ちなつ)は文芸部の新入部員──那智(なち)しずるを電話に呼び出していた。


「あ、しずるちゃん、今日時間空いてる?」

<まぁ、特に予定は入ってはいないけれど、何?>

「あのね、合コンに誘われてるんだけど、一緒に行かない」

<何で、あたしが合コンに行かないとならないのよ>

 那智しずるは、相変わらずちょっと苛ついた声で返事をして来た。

「あのね、友だちが合コンをセッティングしてたんだけど、ソフトボール部の二人が試合で来れなくなったんだって。うちの学校のソフト部、弱いから今年も一回戦負けだって思ってたら、思いもよらず勝っちゃってさぁ。それで試合と被っちゃったんだってぇ」

<で、その穴埋めが、あたし達ってワケ>

「ご名答。さすが高校生プロ作家。呑み込みが早いねぇ」

<ふぅ。しようがないわね。行ったげるわよ。今、恋愛絡みの本書いてるから、取材に行くと思えばいいしね>

「そうそう。それでカッコイイ人がいたら、お持ち帰りされてもらうとかぁ」

<別にそんな事、思ってないわよ。千夏さん、男欲しいの?>

「う〜ん、どかな? 別に困ってはいないけど。彼氏いると、高校生活楽しくなるかも知れないじゃん」

<相変わらず、お気楽ねぇ。文芸部員の募集はどうしたのよ>

「あれぇ。それを言われると辛いんだけど。まぁ、穴埋めの交換条件として、部員を何とかしてもらう事になってるから、いんじゃないかなぁ」

<それを先に言いなさいよ。そういう事情なら仕方ないわね。それで、何時? 何処で?>

「えーとねぇ、午後一時に、駅前のファミレスで」

<十三時に駅前のファミレスね。分かったわ。それで、相手は誰が来るの>

「T高だって。五対五だよ」

<T高か……。県内一の進学校で有名ね。頭でっかちな男ばかりじゃないといいけど>

「うん。ごめんねぇしずるちゃん。強引に誘っちゃって」

<新入部員がかかってるんでしょう。適当に話し合わせるから。それから、あたしが『プロ作家』ってことは秘密だよ。分かってる>

「分かってる、分かってるよぉ。ネタになんかしないから」

<ちょっと、本当に分かってるんでしょうね。変な噂がたつと困るのよ、あたしは>

「大丈夫だよ。秘密は守るからさぁ」

<本当に大丈夫なんでしょうね。不安だわ>

「大丈夫だよぉ。じゃぁ、しずるちゃん、現地集合って事で」

<了解。千夏さん>

 そう言って、彼女は電話を切った。


 さぁて、合コンだって。なぁに着って行こうかなっと。迷っちゃうな。へへっ、何浮かれてるんだろう、わたし。好きな人が出来るって、どんな感じなのかな? あれぇ、何かドキドキしてきちゃった。わたしの恋愛、もしかして今日から始まるとかぁ。なぁ〜んてね。


 ちょっと早いけど、今のうちにお昼食べとこう。それで歯磨きとかちゃんとして行こう。髪の毛はどうしよかな。いつもはお下げに縛ってるから、今日は下ろしてみよかな。可愛く見えるといいなぁ。

 そうやって、わたしはルンルン気分で支度を始めたのだった。



 わたしがファミレスの近くに来た時、那智しずるはファミレスのドアの前に立っていた。

「しずるちゃーん」

 わたしは彼女に声を掛けると、ファミレスの入り口まで走って行った。

「あら、千夏さん、こんにちは。あたしも今来たところよ」

 わたしは少し息を切らしていた。改めてしずるを眺めると、すごく大人っぽく見えた。白のブラウスに、浅葱色のロングスカート。上にはクリーム色のカーディガンを羽織っている。今日は背中まである長い黒髪を下ろして、前髪は左右に分けてピンで止めていた。何かいかにも文学少女って感じで、すごく綺麗だなぁって、思わず見惚れてしまった。

 そのくせわたしは、チュニック丈のワンピースとデニムのパンツ姿だった。もうちょっとおしゃれしてきた方が良かったかなぁ。

「しずるちゃん、その服すごく似合ってるね。何か大人っぽく見える」

 わたしが彼女の事を褒めたというのに、しずるはツンとした表情を崩さなかった。

「これでも見てくれは気にする方なのよ。編集部に行ったら、周りは皆大人だからね。子供だって思われて、甘く見られるのは嫌なのよ」

 彼女は、少しばかり憮然とした態度でそう話した。

「ふぅん、そなんだ。作家さんって思った以上に厳しいんだね」

 わたしは、彼女がどうしていつも頑なにして周りを寄せ付けないか、解ったような気がした。そうやって、じっとしずるのことを見ていると、

「千夏さんも可愛くて素敵よ」

 と、彼女は、わたしの事を可愛いと言ってくれた。まぁ半分くらいお世辞かも知れないけど。それでも、わたしはちょっとだけ嬉しかった。

「しずるちゃん、中入ろう」

「そうね。入りましょう」

 いつまでも店の入り口に立ってると、邪魔になっちゃう。わたしは、那智しずると一緒にファミレスに入った。


 お店に入って中を見渡すと、奥の方の席で手を降っている女子がいた。わたしの親友の高橋(たかはし)美奈子(みなこ)ちゃんだ。わたしは、しずると一緒にその席へ向かった。

「遅かったじゃん、千夏」

「ええ、未だ一時きてないよぉ」

「折角の合コンなんだから、張り切って来なきゃ」

「そんなこと言われても、わたし達代打だし」

「何言ってんのよ、千夏。はい、ここ座って」

 美奈子ちゃんに言われて、わたしは彼女の隣に座った。そのわたしの隣に、しずるが座った。彼女が座った時、男子側でどよめきが起こった。う〜ん、女のわたしが見ても美人さんだし、スタイルもいいもんね。今日は、しずるが全部持ってくかな?

 わたしはそんな事を考えていたが、彼女が、ふと目の前の男子を眺めた時、「えっ」と言う顔をして突然叫んだ。

「あ、あなた、矢的(やまと)武志(たけし)じゃない! 何でこんなところにいるのよ」

 そう言われた彼も、<ギョッ>とした顔で言い返した。

「そう言うお前は、那智しずる! お前こそ、何でこんなとこいるんだよ。お前、合コンなんか来る性格じゃないだろうが」

 いきなりの事に、皆が注目することになってしまった。それを察してか、彼女は、(くだん)の男子を捕まえると、無理やり隅の方へ引っ張って行った。

「あんた、ちょっとこっち来て」

「何だよ、いきなり」

 そして、二人は皆から離れた所で、何か口論していたようだった。わたしも皆も、二人の様子をそぉっと伺っていた。

 しばらくすると、しずるは、ちょっと<ムッ>とした顔で戻って来た。その後から、矢的なにがしが、しかめっ面で着いて来ていた。

 そして、二人は、席に戻ると何事もなかったようにすましていた。わたしはちょっと気になって、彼女に小声で聞いてみた。

{どうしたの、しずるちゃん。あの人、知り合い?}

 すると、彼女も、小声でヒソヒソと応えてくれた。

{知り合いも何も、あたし達同期なのよ、小説大賞の。あたしが大賞で、あいつが銀賞。年下のあたしが自分より上の賞をとったものだから、顔合わすたびに絡んで来るのよ}

{ああ、それで}

 わたしは、彼女の応えを聞いて、成る程と思った。

{変に話振らないでね。あたし達が『プロ作家』って事は、秘密にするよう話つけてきたから}

{了解}

 しずるは、ちょっとお冠のようだった。

 わたしとしずるの打ち合わせが終わった頃あいに、幹事役らしい男子が声を掛けた。

「そっちはもういいかな? 取り敢えず何か頼もうよ。で、頼んだ物が来る間に、自己紹介なんかしよう」

『はーい、賛成』

 皆は同意した。

「おい、矢的、そこのボタン押して店員さん呼んでくれよ」

「うぃーす」

 例の矢的なにがしは、テーブルの端っこの丸まっちいボタンを、不貞腐れたように押した。ピンポンと音が鳴ると、

「はーい、ただいま参ります」

 と声がして、店員さんがやって来た。

「オーダーお願いしまーす。君たち、何頼んでもいいよ」

 と、言われたので、わたし達は順番に欲しい物を頼んでいった。

「私、チョコレートパフェ」

「あたしは、抹茶とバニラのアイスお願いします」

「わたし、このクリームみつ豆ってやつ」

 おっと、わたしの番だ。

「わたし、イチゴサンデー下さい」

 次がしずるの番だ。

「レアチーズケーキのセット。紅茶をホットで」

 さすがは那智しずる嬢。上品なオーダーだ。

 で、次は男子の番である。

「オレ、カフェオレ下さい」

「僕はアメリカンで」

「俺は、バニラアイスのセット、ほうじ茶で」

「ボクは、アイスティーでお願いします」

 でぇ、次は、例の矢的クンだな。

「オレ、カレーの大盛りとコーラで」

 皆が、一瞬「えっ」と言う顔になった。

「バカ、矢的、何頼んでんだよ。流れってもんがあるだろう。空気読めよ」

「オレ、昼飯食って無いんだ。いいだろう、腹減ってんだから」

「だけどよう……」

「もうちょっと考えろや」

「なら、ラーメンだったらいいのか?」

「いや、そういう問題じゃなくて。……まぁ、こいつ変わってるから、ちょっと勘弁してやってくれ」

 男子側がフォローしようとしていたが、ちょっと無理があるよね。しずるも、さも哀れな者を見るような目をしている。

「まぁ、取り敢えず、自己紹介でもしようよ。俺、T高三年、武田(たけだ)(さとる)。バレー部でセッターやってます」

 てな感じで自己紹介が始まった。ふむふむ、一番手が武田くんで、その次が佐藤くん。で、佐野くんがいて、吉田くんと。で、最後が例の矢的くんね。わたしは、男子の顔と名前を頭に刻んでいった。

 次に、わたし達女子の番になった。

「私は、K高二年の浅葱(あさぎ)志保(しほ)です。テニス部やってます。まだ補欠だけど、レギュラー目指してます」

「あたしもテニス部です。岡村(おかむら)直子(なおこ)って言います」

「わたしは高橋美奈子。テニス部のマネージャーです」

 で、次がわたしの番だ。

「わたし、岡本千夏です。文芸部の部長してます」

 最後が、那智しずる。

「あたしは、那智しずる。同じく文芸部です」

 そう言って、彼女は、ちょこっと頭を下げた。

 肩にかかっていた黒髪が<ファサッ>と揺れて、落ち着いた色の店内の照明を散乱させた。髪の揺らめきに伴って、何かいい香りが漂ってきたような気がした。それは、わたしだけの事では無かったらしい。目の前に座っている男子達も、<ホウ>と見惚れてしまっていたからだ。

 でも、それも一瞬のこと。幹事らしい彼は、すぐに我に返った。

「じ、じゃぁ、頼んだ物が来るまで、ちょっと話でもしようよ」

 てな感じで、今回の合コンは始まった。


 でもなぁ、那智しずるはいつもの如くツンケンしてるし、目の前の矢的くんは空気読めないし、一体どうなるんだろう、この合コン。

 だいじょぶなのかな?




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ