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ぶんげいぶ  作者: K1.M-Waki
25/66

荒木努(2)

◆登場人物◆

・岡本千夏:高校二年生、文芸部部長。ちょっと舌足らずな喋り方の小柄な女の子。一つ下の大ちゃんの彼氏。お茶を淹れる腕は一級品。無理やりながら写真のモデルを引き受けた。

・那智しずる:文芸部所属。人嫌いで千夏以外の他人には素っ気ない。丸渕眼鏡と長い黒髪がトレードマーク。背が高くスタイルも申し分ない美少女で、成績も全国トップクラス。今では校内のアイドル的存在。撮影には難色を示すが、全てが徒労に終わる。

・高橋舞衣:舞衣ちゃん。文芸部一年生。ショートボブで千夏以上に背が低く幼児体型。どう見ても幼い少女に見えるが、本人はロリータ扱いされることを嫌がっている。変態ヲタク少女にして守銭奴。写真部を巻き込んで、しずるの写真集で大儲けしようと企んでいる。

・里見大作:大ちゃん。千夏の彼氏。二メートルを超す巨漢だが、根は優しい。のほほんとした話し方ののんびり屋さん。意外に手先が器用だったりする。

・西条久美:久美ちゃん。一年生、双子の姉。おっとりした喋り方の可愛らしい女の子。大ちゃんに告白したが振られてしまった。今は失恋から立ち直っている。

・西条美久:美久ちゃん。一年生、双子の妹。おっとりした喋り方の可愛らしい女の子。失恋した姉をいたわる言動をする。

   彼女等は、サイドテールの髪型で違いを出してはいるが、ほとんどの人は二人を見分けられない。二人共オシャレや星占いが好き。小さい頃からイジられてきたので、撮影を楽しんでいる。


・荒木勉:三年生で写真部部長。文芸部の部員をモデルに、写真集を作る企画を進めている。実は舞衣以上の策士で、芸術のためなら悪魔にも魂を売りそうだ。

・花澤彩和:写真部の副部長兼スタイリスト。



 午後からは、外で写真を撮影した。


 写真部の部長である荒木(あらき)さんの提案で、まずは表紙を制服で撮ろうと言うのだ。

 お昼ごはんを食べて一服した後、わたし達は、学校の中庭の木立の下に集まっていた。

「じゃぁ、全員で横一列に並んでみて。レフ、光集めて。カメラ、皆、アングル内に納まっているかい?」

「ちょっと、映像が小さくなりますね」

 と、カメラの係の人が応えた。

「ん〜、じゃぁ、里見(さとみ)くん、後ろに回ってみて。女子は、もうちょっと詰めてくれないかな。ようし、これで試し撮り2〜3枚して。……見せて。ふむ、未だ、少し小さいな」

 荒木さんは、色々と並び方を要求しては、試し撮りを行っていた。

「今度は舞衣(まい)さん、ジャンプしてみて。オーケイ。那智(なち)さん、ちょっと膝曲げて、拝むみたいに……。そうそう、顔こっちね。段々良くなって来たねぇ」

 荒木さんの指示で、徐々に画面がまとまってきたようだ。

「でも、まだ、小さいですね。A4縦サイズになりますから」

「縦長だよね。と、言う事は……、縦に伸びる分にはいいのか。……岡本(おかもと)さん、里見くんの肩に乗ってみようか」

 そう言われて、わたしは、ちょっと戸惑ってしまった。

「あ、あのぅ、肩に乗るんですか?」

「そうだよ。里見くんの体格なら、岡本さんくらいの女の子が肩に座っても大丈夫だよね」

 そう言われて大ちゃんは、

「だ、だいじょーぶ、なんだなぁー。ち、ち、ち、千夏(ちなつ)先輩。ぼ、僕の肩に座っても、い、いいんだなぁー」

 さすがの大ちゃんも、少し戸惑い気味である。そうして、わたしは、いつかの図書室の事を思い出した。あの時も、肩に乗せてもらったんだっけ……。

「大ちゃん、だいじょぶ? 重かったら言ってね」

「だ、だいじょーぶ、なんだなぁー」

 そう言って、彼はわたしの前で屈んだ。わたしは、スカートの裾を気にしながらも、その巨体の肩に座った。大ちゃんは、わたしを怖がらせないように気をつけながら、ゆっくりと立ち上がってくれた。うー、ちょっと照れるなぁ。

「よーし、いい感じだね。それじゃぁ、残りの女子は詰めてみて。うん、だいぶ良くなって来たな。絵面、どうなってる?」

「入るようになってきました」

「見せて。……光、もっとあてて。……ようーし、じゃぁ、西条(さいじょう)さん達、向かい合って。……そうそう。両手タッチしてみようか。おっと、顔、こっち。良い表情下さい。那智さん、もっかいさっきのポーズ。うーん、よーしよし。舞衣さん、ジャンプしてみて。いいねぇ、今の取れてる? メモリ充分あるから、気にしないでどんどん撮っていって」

 わたし達は、色んな格好をさせられながら、写真を撮られていた。


「オッケイ。ありがとう。……絵、見せて。……ふむん。じゃぁ、この中から表紙を選ぼう。よぉーし、皆、ちょっと休憩しようか」

 やっとこさ、荒木さんが、オーケーを出した。上手く写ったかな? わたし、可愛く写ったかなぁ。ちょっとだけ、心配になっていた。


「お疲れさんでーす。これ、飲んで下さい」

 写真部の人が、スポーツドリンクのPETボトルを配ってくれた。

「ひゃぁー、表紙のたった一枚なのにぃ、随分かかりましたわねぇ」

 久美(くみ)ちゃんはそう言って、ドリンクを口に含んだ。

「あっしも疲れたっす。結構動いたんで、制服にシワが寄っちゃったすよ、もう。荒木部長、あっしにも、見せて欲しいっす。可愛く撮れたっすか?」

 舞衣ちゃんは、スタッフの集まっているところに入り込むと、荒木さんに尋ねていた。彼は、ちょうどノートパソコンに転送されたデータを確認していたのだ。

「ハイスピードシャッターだし、レンズも明るいのを使ったから大丈夫だよ。ブレも白飛びも無いし……。うん、元気の良いところが撮れてるよ」

 それを聞いて安心したのか、舞衣ちゃんは、

「さっすが、プロっすね。あ、この写真、上手く写ってるっすねぇ」

「うん。実際には、もうちょっと大きなモニタで吟味するけどね。お疲れ様」

「お疲れっす」

 わたしには、よく分らなかったけれど、順調なように見えた。


 しばらくすると、荒木さんから声がかかった。

「次、個人別、やろうか。那智さんの方、出来てる?」

「大丈夫です、部長」

 わたしが木陰で休んでいた間、しずるちゃんは次の撮影のための準備をしていたのだ。肌の微妙な色調や、髪型も変わっていた。

花澤(はなざわ)さん、西条さん達を頼んだよ。外光に合わせて、少し肌を直して。……そうそう、大丈夫? うん……、よーし、じゃぁ、那智さん、お願いします」

 その声で、しずるちゃんは、庭の中に出てきた。


 ホンの少し直しただけなのに、彼女の歩く姿は、まるで映画の中の女優さんのようで、わたしを魅了した。庭を散策したり、樹の幹に手を当てる様子は、日常から切り離されているようだった。要求されたポーズをする彼女の周りだけ、時間が流れる速度が違うみたいだ。だからかも知れない。彼女を見つめるわたしの視界には、薄ぼんやりとした(もや)がかかっているような気がした。わたしは、自分の胸の鼓動が早くなっているのを自覚していた。


「那智さん、手、後ろで組んでみて。オッケイ。今度は少し俯いて。……うん、三つ編み、手にとって。そうそう。そのまま胸の前に垂らしてみようか。よーしよし。少し、伸びしてみよう」


 しずるちゃんの撮影の間に、久美(くみ)ちゃんと美久(みく)ちゃんが、お化粧や、制服の具合を整えてもらっていた。

「こんなに塗っちゃって、大丈夫でしょうかぁ?」

 美久ちゃんが、スタイリストさん達に問いかけていた。

「ええ、大丈夫ですよ。ちょっとコントラストが出るようにしてるだけです。とっても可愛いですよ」

「美久ぅ、私、こんなお化粧なんて、今日が初めてだよぅ。可愛く写るかなぁ?」

「久美、こっちを見てぇ。私、可愛い?」

 すると、久美ちゃんは、

「うん、凄く可愛いくてよぉ」

 と、妹を評した。

「だったら、久美だって、可愛いはずですよねぇ」

「そっかぁ。良かったですぅ」

 それで、姉の方は納得していた。おんなじ顔だもんね。


 その間にも、舞衣ちゃんは、大ちゃんとちょっとヒソヒソ話をしていた。

「何の相談してるの?」

 少し気になったわたしは、舞衣ちゃんに尋ねてみた。

「文芸部のサイトに、写真集の予約ページを作ろうと思ってるんす。取り敢えず、今回はぁー……、まずは300部くらい刷る予定っすがね。予約の数によっては、増刷したり、逆に抑えたり出来るっすからね。あーと、荒木さん、良さげな絵があったら、サムネもらっていいっすかぁ?」

 すると、荒木さんは、

「良いねぇ、それ。写真部のサイトからも、リンクをしよう。山田さん、サンプルデータ、用意しといて」

「分かりました、部長。USBに作っておきます」

「よろしく頼んます。あっしの方でも、生徒会にナシつけて、リンク張ってもらいましょう」

「オッケイ。じゃあ、生徒会の方は、舞衣さんにお願いするね」

「了解っす」

 売上に直結するからだろう。舞衣ちゃんは、いつも以上に、手際よく話を進めていた。


 一方、しずるちゃんの撮影は、ほぼ終わりに近づいたようだった。

 しかしその時、アクシデントが起こった。一迅の風が、しずるちゃんを襲ったのだ。濃紺のプリーツスカートが、一瞬、茶碗を逆さにしたように膨らむと、大きく翻ったのだ。

「きゃぁ」

 と悲鳴をあげて、しずるちゃんは反射的にスカートの前を両手で押さえ込んだ。

「カメラっ、今の入ったかっ!」

「オッケィです! データ残ってます」

「よし、RAWデータ、確保して。容量(メモリ)足りなかったら、古いアーカイブ消していいから」

「確保しました、部長!」

 思わぬショットに、写真部は大急ぎで対応していた。

 一方のしずるちゃんは、顔を真っ赤にしていた。

「ちょ、ちょっと待って下さい。そんなの、データで残されたら困ります!」

「惜しいなぁ。肝心な部分は隠れてるかぁ」

「いや、でも部長。このショットなんかは、微妙な感じで、いけてますよ」

「そうだね、ナイスだ、カメラ。これは、なかなか撮れないハプニング映像だな。那智さんも、グッジョブ」

「何がグッジョブですか! 全然よくありません。そんな恥ずかしいのは、すぐ消して下さい!」

 しずるちゃんは、断固、データ削除を主張し続けたが、それは虚しくスルーされた。

「ナイスです、那智さん。これはいいものが撮れたよ」

 荒木さんが、凄く良い顔をしている。

「な、何で? 何で、あたしだけ、こんな目に合うの。ああ、もう立ち直れないかも」

 そうやって庭の巨木にもたれかかる美少女の憂いは、想像に難くない。

「那智さん、一旦休憩入って下さい。次、西条さん達入ります」

「オーケイです。入って下さい」

 しかし、ここは撮影の現場であった。打ちひしがれた彼女を無視するように、撮影は続けられていた。


 他の皆が、久美ちゃんと美久ちゃんの撮影にかかりっきりになっていたので、わたしは失意の美少女に近づくと、声をかけた。

「しずるちゃん、だいじょぶ?」

千夏(ちなつ)、あたし、もうダメかも……」

 そう言って、彼女は中庭のベンチにフラリと倒れ込んだ。


(しずるちゃんには悪いけど、ハプニングなんだからしょうがないよ)


 とは、さすがに口に出せない。わたしもベンチに座ると、しずるちゃんを介抱していた。

「しずるちゃん、だいじょぶ。落ち着くまで、わたし、ここに居るから。だいじょぶだよ」

 そう話しかけながらも、


(わたしの時には、あんなハプニングは起きませんように)


 と、自分の心の中では、強くお願いをしていたのだった。




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