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ぶんげいぶ  作者: K1.M-Waki
23/66

西条美久(6)

◆登場人物◆

・岡本千夏:高校二年生、文芸部部長。ちょっと舌足らずな喋り方の小柄な女の子。彼氏は一つ下の大ちゃん。お茶を淹れる腕は一級品。自分も写真のモデルになることを知って狼狽えている。

・那智しずる:文芸部所属。人嫌いで千夏以外の他人には素っ気ない。背が高くスタイルも申し分ない美少女で、成績も常に学年トップ。今では校内のアイドル的存在。撮影には難色を示すが、全てが徒労に終わっている。

・高橋舞衣:舞衣ちゃん。文芸部一年生。ショートボブで千夏以上に背が低く幼児体型。どう見ても幼い少女に見えるが、本人はロリータ扱いされることを嫌がっている。変態ヲタク少女にして守銭奴。写真部を巻き込んで、しずるの写真集を作って大儲けしようと企んでいる。

・里見大作:大ちゃん。千夏の彼氏。二メートルを超す巨漢だが、根は優しい。のほほんとした話し方ののんびり屋さんだが、衣装を自作したり、双子の西条姉妹を見分けたり、素手でクマを倒したりと、色々な特技を持つ。

・西条久美:久美ちゃん。一年生、双子の姉。おっとりした喋り方の可愛らしい女の子。大ちゃんに告白したが振られてしまった。今は失恋から立ち直っている。

・西条美久:美久ちゃん。一年生、双子の妹。おっとりした喋り方の可愛らしい女の子。失恋した姉をいたわる言動をする。

   彼女等は、サイドテールの髪型で違いを出してはいるが、ほとんどの人は二人を見分けられない。二人共オシャレや星占いが好き。

・荒木勉:三年生で写真部部長。文芸部の部員をモデルに、写真集を作る企画を進めている。実は舞衣以上の策士で、芸術のためなら悪魔にも魂を売りそうだ。




 撮影本番まで、あと数日。今日は衣装合わせであった。


「何であたしだけ、こんなに露出度が多いんですか!」

 しずるちゃんは、写真部の部長である荒木(あらき)さんに突っかかっていた。

「だって、夏だから。夏は暑いよねぇ。分厚い服なんか着てると、熱中症になっちゃうよねぇ」

 だが、荒木部長は、そんな彼女の様子など歯牙にもかけずに受け流した。

「だからと言って、何で、あたしだけが、こんなに薄着なんですか。上は、ノースリーブだし、スカート丈も短いし。どうして、あたしだけ(・・)なんですか」

 尚も衣装に文句をつけたしずるちゃんだったが、

「そうかぁ。なら、上はタンクトップにして、おヘソ出してみようか」

 と、その妄想を広げるだけだった。

「更に薄着になっているじゃないですか!」

「だって、那智(なち)さんみたいな美人さんを前にしたらさぁ、皆、太ももとかおヘソとかさ、見てみたくなるよねぇ。そうか、なら下は、スカートよりもショートパンツの方がいいかな」

「更に露出度がアップした! そんな恥ずかしいの、あたし出来ません」

 しずるちゃんは、頑として拒んでいたが、

「いや、那智さんなら、きっと大丈夫。何を着ても、きっと似合うと思うよ。そうだね……。もういっその事、全部脱いじゃおうか」

「ヌードは絶対イヤです!」

「あははは、冗談だよ、冗談」

 のらりくらりと躱す彼に、しずるちゃんは、顔を真っ赤にして怒っていた。


 そんなところへ、わたしと舞衣(まい)ちゃんが、苦情を持って行った。

「荒木さん、何であっしはゴスロリなんすかぁ。もっと大人っぽい服、着せて下せい」

「わたしもです。どして、猫耳メイドなんですか? これじゃぁ、コスプレです」

 そうなのである。わたしが想像してたのは、もっと可愛い系(・・・・)の服だった。決してコスプレじゃない!

「おお! さすが、里見(さとみ)くんの技術だねぇ。直しが全くいらないくらい、ピッタリ合ってるよ」

 荒木さんが賛辞を述べた……つもりなんだろう。でも、着る方のわたし達には、何の救いにもならなかった。

千夏(ちなつ)。あなた達なんか、未だまだ良い方なのよ。あたしなんか、着替える度に布が減っていくんだから」

 しずるちゃんは、もうこれ以上無いくらいに、打ちひしがれていた。

 そこへやって来たのは、双子の西条(さいじょう)姉妹だった。

「部長、部長。私達、こんなに可愛いのを着せてもらいましたのよぉ。どうですかぁ?」

「二人がお揃いでぇ、色違いなんですよぉ」

 二人の言う通りに、久美(くみ)ちゃんも美久(みく)ちゃんも、普通に(・・・)可愛い服だった。

『あんなのが良い!』

 わたしも、しずるちゃんも、舞衣ちゃんでさえ、同じことを口を揃えて言った。

「あっ、部長達、超似合ってますわよぉ。オッホホホ」

 美久ちゃんが、少し見下した感じで、そう言った。

「ま、舞衣さん。服の寸法が、あたし達にぴったり合ってるって事は、大作(だいさく)くんが作った訳よね。どうして、その段階でチェックしなかったのよ」

 半ば涙目になりながら、しずるちゃんは舞衣ちゃんを責めた。

「あっしは……、あっしは、しずる先輩の衣装に夢中だったんす。他のは、あまり見てなかったんす」

 舞衣ちゃんも、半分涙目で返事をした。

「そうだったのね、舞衣さん。こ、この布の少ない衣装は、……全部お前の所為かぁ!」

 とうとう、しずるちゃんは、舞衣ちゃんを烈火の如く叱りつけた。

「ウフフフ、僕が思った通りだ。皆さん、素晴らしく似合ってるじゃないですか。これこそ芸術。これこそアートだよ。そう、アートなんだよ」

「何がアートっすか。こんなの、あっしのキャラじゃ無いっす。あっしは、ロリータじゃないっす」

 荒木さんの発言に、舞衣ちゃんが文句をつけた。

「別に、良いじゃないかぁ。似合ってるんだから」

「あっしは、単純に背が低いだけっす。せめて、高校生に見える服が、欲しいっす」

「それは、制服で撮る分があるから、大丈夫だよ。気にしなくていいんだよ。気にしなくて」

「何の慰めにも、ならないっす」

 あの舞衣ちゃんですら、騙し討ちにしてしまうなんて。荒木部長、恐るべし。

 そうやって舞衣ちゃんと口論している荒木さんの後ろには、大ちゃんの巨体が見えた。のみならず、何か超うっとりして顔を赤らめている。

「部長は、やっぱり、超可愛いんだなー。頑張って作った甲斐があるんだなぁー」

 し、しまった。大ちゃんは、舞衣ちゃんの幼馴染だったんだっけ。それで、趣味も同じような傾向があるんだ、きっと。

「だ、大ちゃんって、こういうの、好きなの?」

 わたしは、恐る々々大ちゃんに訊いてみた。

「猫耳もバニーガールも、とっても大好きなんだなぁー」

 ああっ、やっぱりそうなんだぁ。って、バニーガール? まさかとは思うけど……。もしかして、バニーガールも、あるのかな?

「だ、大ちゃん。念のためだよ。念のために訊くんだけど。も、もしかして、バニーガールの衣装もあるの?」

「勿論あるんだなぁー。ちゃんと、部長にピッタリ合うように作ってあるんだなぁー」

 その答えに、わたしは、一瞬気が遠くなってフラァーとしかけた。

「大丈夫なんだなぁー。ちゃんと網タイツも、手作りしたんだなぁー。しずる先輩とお揃いで、作ってあるんだなぁー」

 だが、それを聞いたしずるちゃんは、血相変えて聞き直した。

「あ、あたしも、バニーガールやるの?」

「荒木さんに言われたから、作ってあるんだなぁー。舞衣ちゃんも、確認してくれたんだなぁー」

 それを聞いたしずるちゃんも、ちょっと貧血気味の顔色になった。

「ま、舞衣さん……。どうして、あたしの分だけは、そんなに入念に用意が良いの? ねぇ……、ちょっと教えてくださるかしら」

 もはや、しずるちゃんのお怒りモードは、最高状態に達しつつあった。

「い、いやぁ、しずる先輩だったら似合うと思ったんすよ。まさか、あっしがハメられるとは、思いもよらなかったんす」

「あ、あああ、もうダメ。ダメだわ。千夏、あたし、立ち直れないかも知れない……」

 舞衣ちゃんの言葉に、しずるちゃんは失意のドン底に急降下したように見えた。

「も、もしかして、美久ちゃんや久美ちゃんの分とかも、ある?」

 何を聞き出したいのか、失意の美少女は、ニヤケ顔の巨体に質問した。

「当然、あるんだなぁー」

 大ちゃんの答えに対して、久美ちゃんと美久ちゃんは、特には驚かなかった。

「私達の分も、あるんですねぇ」

「楽しみですぅ」

 これが、彼女達の答えであった。

「久美ちゃん達、恥ずかしくないの? バニーガールだよ。肌とかの露出もあるんだよ」

 わたしは驚いて、反射的に訊き返した。

「別に、私は気にしませんけれどぉ」

「私達、双子ということで、小さい頃からイジられてきましたからぁ。着せ替え人形には、慣れていますのぉ」

 何かわたしは、それを聞いただけで負けたような気になった。着るものは同じなのに、全然平気だなんて。有り得ないよぉ。

「う〜ん、いいねぇ。撮るからには、とことん追求しなけりゃ」

 文芸部側の様子を見て、写真部の荒木部長はそう言った。

「追求の方向が、間違ってます!」

 わたしは、脊髄反射で抗議した。

「あれえ? でも、舞衣さんは「この方が萌えるから」って、言ってたけどなぁ」

 それを聞いて、わたしとしずるちゃんは、同時に舞衣ちゃんの方を向くと、

「舞衣ちゃん!」

「結局は、全部、お前の所為かぁ」

 と言って、わたし達は二人で、彼女の頭をゲンコツでグリグリしていた。

「あぁぁぁ、ごめんなさいぃぃぃ。自分がされてみて、初めて分かったっす。今度から、もうしませんから。ゆ、許して欲しいっすー」

 さすがの舞衣ちゃんも、かなり反省したようである。

「久美、バニーガールの衣装もあるなんて、すっごく楽しみだよねぇ」

「そうよねぇ。こう言う刺激がないと、学校生活って単調になっちゃいますからぁ」

 一方の双子達はと言うと、二人共、普通に喜んでいた。何で? 何で恥ずかしくないんだ?

「部長、これも高校生活の良い思い出ですよ。頑張って、やってみましょうよぉ」

 美久ちゃんが、わたしを励ますようにそう言った。

「でも、これじゃぁ、『思い出』じゃなくって『黒歴史』だよう」

 わたしは、美久ちゃん達が平気な分、負けたような気がして、悔しくなった。

「よおし。じゃぁ次は、バニーガールをやってみようかぁ」

 写真部の荒木部長は、何の罪悪感もなく爽やかにそう言った。なんか、良い顔をしている。


 くっそう。こうなったら、腹をくくるしかない。もう、バニーガールでもバドガールでも、何でも来いだ。ちょっとだけ、どっかに行っててくれ、わたしの羞恥心。


 撮影まで、あと数日。

 本番がまともに進むとは、到底考えられない。一体、どうなるんだろう。




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