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ぶんげいぶ  作者: K1.M-Waki
15/66

西条久美(1)

◆登場人物◆

・岡本千夏:高校二年生、文芸部部長。ちょっと舌足らずな喋り方の小柄な女の子。一人称は「わたし」、部員を「〇〇ちゃん」と呼ぶ。後輩からは「部長」と呼ばれている。告白されて大ちゃんのことを意識し始めている。お茶を淹れる腕は一級品。

・那智しずる:文芸部の二年生。一人称は「あたし」。人嫌いで千夏以外の他人には素っ気ない。部の後輩からは「しずる先輩」と呼ばれる。丸渕眼鏡と長い黒髪がトレードマークで、成績も常に学年トップクラス。背の高い美少女で校内のアイドル的存在。実は『清水なちる』というペンネームのプロ小説家。

・高橋舞衣:舞衣ちゃん。文芸部の一年生。ショートボブで千夏以上に背が低く幼児体型。一人称は「あっし」。あらゆる方面の作品を読み漁る変態ヲタク少女にして守銭奴。その上、性格がオヤジ。しずるの写真集を作って大儲けしようと企んでいる。

・里見大作:大ちゃん。舞衣の幼馴染のヲタク少年。一人称は『僕』。二メートルを超す巨漢だが、根は優しい。のほほんとした話し方ののんびり屋さん。メイド服を自作したり、見ただけでスリーサイズが分かるなどの特技をもつ。千夏のことが好き。怒るとヒグマをすら素手で殴り殺すほどの豪腕を持つ。

・西条久美:久美ちゃん。一年生、双子の姉。おっとりした喋り方の可愛らしい女の子。一人称は「私」。

・西条美久:美久ちゃん。一年生、双子の妹。おっとりした喋り方の可愛らしい女の子。一人称は「私」。

   サイドテールの髪型で違いを出してはいるが、ほとんどの人は二人を見分けられない。二人共オシャレや星占いが好き。

 その日も、わたし達は、いつものように図書準備室でお茶をしていた。


「部長の淹れるお茶って、凄く美味しいですよねぇ」

 双子ちゃん達のどっちかが言った。う〜ん、いい加減に見分けられないと、当人達に失礼だよな。

「部長、どうしたんですかぁ?」

 今度は違う方が訊いた。

「いやぁ、未だに双子ちゃん達の見分けがつかなくって。申し訳ないなあと思ってるんだけど」

 わたしは正直に話した。

「語呂合わせで覚えとくんですよぉ。美久(みく)の『み』で右縛り。だから、反対側の久美(くみ)は左で髪を縛ってるんですよぉ」

 あ、なるほどね。

「じゃあ、こっちが美久ちゃん」

「当たりでぇ~す」

「でも、時々気分転換で髪の結び方を変えるんですよねぇ」

「そうなんですよねぇ」

 何だよそれ。そんな事されりゃぁ、マジで分からんわ。

「久美さん達って、好みとかも一緒なの?」

 今度は、しずるちゃんが尋ねた。

「ええ。基本的に同じDNAですから。でも、小さい頃から、出来るだけ違うものを選ぶようにしてるんですよぉ」

 ええっとぉ、左縛りだから、答えたのは久美ちゃんか。

「だって、同じ物を欲しがったら、一つしか買って貰えませんからねぇ。別々の物をねだると、ちゃんと二人分買ってもらえるし、取り替えっこも出来ますしねぇ」

 今度答えたのは、……美久ちゃん、だよな。まだ、自信がない。

「それでも困るのは、やっぱり彼氏ですよねぇ。これだけは、半分こも取り替えっこも出来ませんからぁ」

「いつも同じ人を好きになって、喧嘩しちゃうんですよぉ」

「それに、彼の方が、見分けが付けられなくって、別れちゃった事もありますしぃ」

 そなんだ。双子は双子なりに苦労しているんだな。

「久美さんも美久さんも、結構、大変なのね」

『そうなんですよぉ、しずる先輩』

 うおおぉ、見事にハモった。双子ってすごい。

「でも、完全に同じって訳じゃ、ないんだよね」

 今度は、わたしが、二人に訊いた。

「その筈なんですけどねぇ」

「美久は、少し砂糖多めが好きよねぇ」

「そう言う久美の方は、ワサビを少し多めだよねぇ」

 そんな違いじゃ分からんわ。彼氏の好みも一緒なら、二人共一生独身かも知れんなぁ。

「二人共まとめて好きっていう人なら、いいんじゃないのかしら?」

 また、しずるちゃんが訊いた。

「それは私達が抵抗が有るんで、却下なんですぅ」

「やっぱり女の子だったら、自分一人を好きになって欲しいじゃないですかぁ」

 まぁ、そりゃそうだな。おっとりしていながらも、ちゃんとした考えを持っていることに、わたしは驚いていた。伊達に十何年二人で生きて来たわけじゃあないんだあ。

「自覚なしに、気が付かないうちに浮気してるなんて、我慢できませんわぁ」

 えーっと、今度は久美ちゃんが言ったのか。

 そんな二人の恋愛観を聞いて、しずるちゃんは鋭い一言を放った。

「そんな事言ってたら、一生男とか出来ないわよ」

『そうなんですよねぇ』

 二人は、同時に同じ返事をした。このハモるところが凄いんだよな。

 そんな時、図書準備室のドアをノックする音が聞こえた。

「はーい」

 と、わたしが返事をして、ドアを開けた。すると、そこには一人の女子が立っていた。

「す、すいません。こちらに西条(さいじょう)美久(みく)さんがいると、聞いたんですけど」

「あ、はい、いますよ。美久ちゃん、お客さんだよ」

 わたしはそう言って、美久ちゃんの方を見た。

「あ、いたいた……って、どっち?」

「私の方です。何か御用ですかぁ?」

 その()は、同じ顔が二つあって戸惑っているようだった。

「あの、えっと、学年主任の先生が、日直の事でお話があるそうなんですが……」

 そこまで言って、口ごもっている。

「ああ、明日は私が日直でしたね。今行きますよぉ。職員室ですかぁ?」

「あ、はい。そうです」

 美久ちゃんに言われて、その娘も我に返った。

「では、先輩達、ちょっと席を外させてもらいますわねぇ」

 おっとりとした調子で、美久ちゃんはそう言い残すと、部室を出て行った。

「うん。じゃぁ、行ってらっしゃい」

 そうして、偶然だが、久美ちゃんだけが部室に残ることになった。


 いつも同じ顔が二つあったのに、今はそれが一つだ。それはそれで、何か違和感があるような気がした。

「美久ちゃん、行っちゃったね」

「はい」

 わたしの言葉に、久美ちゃんがニコニコして応えた。

「寂しくないの? いつも一緒にいるけど」

「これでも、私も一人の人間ですよ。死ぬまで二人っきりって訳にはいきませんからぁ」

 そっか。いいのか。

 わたしは、釈然としないものの、一人になった久美ちゃんを見ていた。やっぱり、一人しか居ない方が違和感を感じてしまう。

 その時、準備室のドアを開けて巨体が侵入して来た。大ちゃんである。

「こんにちわぁー。今日は少し遅れちゃったんだなぁー」

 入ってきたのは、大ちゃん一人だった。

「大作くん、舞衣さんはいないの?」

「掃除当番なんだなぁー」

 こちらも、今まで舞衣ちゃんと二人でセットだったから、片方だけだと少し違和感を感じる。しかし、その前に、わたしは大ちゃんを意識してしまって、未だにまともに顔が見られずにいた。


(ううう、これってヤッパリ恋なのかなぁ。大ちゃんが嫌いじゃないのは確かなんだけど。なんか、好きっていうより、恥ずかしいって感じなんだけどなぁ)


 偶然か必然か、大ちゃんはわたしの方にやって来ると、隣の椅子に座った。

「えっと、あっと、……そうだ、大ちゃんの分のお茶、淹れてくるね」

 わたしは大ちゃんの近くにいるのに耐えられなくなって、お茶を淹れる口実をつけて立ち上がった。自分でも、顔が火照っているのが分かった。

「あれぇー。西条さん、今日は一人なんだなぁー」

「そうでぇーす。どっちだか分かりますかぁ?」

 一人で残っていた久美ちゃんが、大ちゃんにクイズを出した。はぁ、あんなにそっくりなのに、見分けなんかつくはずないよなぁ。ところが、大ちゃんは、

「うーんと、お姉さんの方の久美ちゃんなんだなぁー」

 と、ズバリ正解を当ててしまった。

「ええっ、何で分かったの、大ちゃん?」

 わたしは驚いて、思わず大ちゃんに訊いてしまった。

「久美ちゃんの方が、一センチくらい胸が大きいんだなぁー」

 そう言われた久美ちゃんが、思わず両腕で胸を隠すと、ちょっと赤くなってしまった。

「む、胸で区別しないで下さいぃ」

「悪かったんだなぁー、久美ちゃん」

 悪いと思って反省したのかどうか、よく分からない。そんな大ちゃんの口調だった。

 しっかし、恐るべきは大ちゃんの観察眼。そんな些細な違いが見分けられるとは。

「い、今まで、誰も区別出来なかったのにぃ、……何か、ズルいですぅ」

 久美ちゃんにそう言われた大ちゃんは、少し複雑な顔をすると、

「何がズルいか、よく分からないんだなぁー」

 と、応えた。

「この事は、美久には内緒にして下さいねっ」

 久美ちゃんはそう言った。いつものおっとりとした口調ではなく、少し強い感情が籠もっているようだ。更に彼女は、<キッ>という鋭い視線で、大ちゃんを睨んでいた。

「分かったけど、理由がよく分からないんだなぁー」

 未だに状況を分かっていない大ちゃんに、しずるちゃんが声をかけた。

「女の子の気持ちは複雑なのよ。分からなくてもいいから、大作くんも黙ってればいいのよ」

 彼女の口調は、いつもの通り強く威嚇するものであった。それで、大ちゃんもそれ以上は口を結んだ。

 さすがは文芸部の智将。何かを察したようである。わたしには、それが何なのか、ちょっと分かんなかったけどね。


 しかし、こんな些細な事が後々事件になるとは、この時は全然思ってもいなかったのである。




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