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ぶんげいぶ  作者: K1.M-Waki
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里見大作(2)

◆登場人物◆

・岡本千夏:高校二年生、文芸部部長。ちょっと舌足らずな喋り方の小柄な女の子。一人称は「わたし」、しずるも含めて部員を「〇〇ちゃん」と呼ぶ。部員達からは「部長」もしくは「千夏部長」と呼ばれている。お茶を淹れる腕は一級品。

・那智しずる:千夏の同級生、文芸部所属。一人称は「あたし」。人嫌いで千夏以外の他人には素っ気ない。部の後輩からは「しずる先輩」と呼ばれる。丸渕眼鏡と長い黒髪がトレードマークで、背の高い美少女。一年生を中心に人気があるアイドル的存在。実は『清水なちる』というペンネームのプロ小説家。

・高橋舞衣:舞衣ちゃん。文芸部の一年生。ショートボブで千夏以上に背が低く幼児体型。一人称は「あっし」。あらゆる方面の作品を読み漁る変態ヲタク少女にして守銭奴。しずるの写真集を作って大儲けしようと企んでいる。

・里見大作:大ちゃん。舞衣の幼馴染。一人称は『僕』。二メートルを超す巨漢だが、根は優しい。のほほんとした話し方ののんびり屋さん。手先が器用でメイド服も自作してしまう。千夏のことが好き。

 もうそろそろ衣替えの時期になろうというある日の昼休み、わたしはしずるちゃんと学校の中庭を散歩していた。


 ふと気付くと、(だい)ちゃんと舞衣(まい)ちゃんが、大きな樹の下で何かやってるのが見えた。

「大ちゃん、舞衣ちゃん、何してるの?」

 わたしがそう尋ねると、

「樹の上に登った猫が、降りられなくなってるんすよ」

 と、舞衣ちゃんは、上を指さしながら応えた。

 わたし達も上を見ると、なるほど、確かに小柄な雉猫が枝に乗ってオロオロしている。

「先生に梯子借りてくる?」

 彼女にそう訊くと、次のような返事をした。

「いやいや、そんな物は不要でござんす。大ちゃん、ちょっと頼むっすね」

 舞衣ちゃんはそう言うと、大ちゃんの肩に乗った。大ちゃんがむっくりと立ち上がった。肩の上の舞衣ちゃんも立ち上がった。しかし、あと少しで届かない。

「あはは、ちょっとあっしの身長が足りなかったっす。もうちょっと背が高かったら、楽勝なんすがねぇ」

 そう言いながら、舞衣ちゃんは、しずるちゃんの方を見た。わたしも、思わずしずるちゃんの方を見た。

「え? あたし?」

 しずるちゃんは、わたし達を交互に見比べると、

「まぁ、確かに残りの三人の中じゃぁあたしが一番背が高いけど……、もう、分かったわよ。あたしが乗ればいいんでしょ、あたしが」

 と言って、大ちゃんの背に登ろうとした。すると、彼女はふと気がついたように舞衣ちゃんを睨みつけると、

「舞衣さん、デジカメと携帯を出して」

 と、言った。

「え? 何でですか」

 と、舞衣ちゃんが聞き返すと、

「あなた、下からのアングルで撮るつもりでしょう。そんなことはさせないわ。早く出しなさい」

「ううっ、バレたっすか。しかたないっすね」

 舞衣ちゃんはそう言うと、デジカメと携帯を取り出した。しずるちゃんは、憮然とした態度でそれを取り上げると、わたしに渡した。

「千夏、ちょっとこれ持っててね」

 と言うと、しずるちゃんは、靴を脱いで「よっこいせ」と言いながら、大ちゃんの背中に登った。

「大作くん、大丈夫? 重くない」

「全然ダイジョーブなんだなぁー。肩まで登って構わないんだなぁー」

「登ったわよ」

「じゃぁ、立ち上がるんだなぁー。しっかり掴まってて欲しいんだなー」

 大ちゃんはそう言うと、ゆっくりと立ち上がった。

「うわっ、たっかぁ」

「しずるちゃん大丈夫?」

「樹の幹につかまりながら立ち上がれば、ダイジョーブなんだなぁー」

「分かったわ」

 しずるちゃんはそう応えると、大ちゃんの肩の上で、そろそろと立ち上がった。

「あ、届いたわ。ほら、猫ちゃん、おいでおいで。よしよし、良い子ね」

 しずるちゃんは、子猫を捕まえると、大ちゃんの肩の上で腰を降ろそうとしていた。ところが途中で、足を滑らせてしまった。

「きゃぁぁぁ」

「しずるちゃん、危ない!」

 わたしは思わず叫んでしまった。次の瞬間、肩から落っこちたしずるちゃんを、大ちゃんが受け止めていた。

「しずる先輩、ダイジョーブですかぁー」

 大ちゃんが、姫抱っこをしているしずるちゃんに訊いた。

「ああ、子猫は大丈夫よ。ありがとう、大作くん」

「猫じゃなくて、しずる先輩はダイジョーブですかぁー」

「え? あたし。あたしも大丈夫。大作くんが受け止めてくれたから」

 双方共に大丈夫らしい。わたしはホッとした。

「しずる先輩は、軽すぎなんだなぁー。ちゃんとご飯食べてますかぁー」

「女に、体重と歳の事は訊かないものよ」

 彼女は、そう釘をさすと、大ちゃんに地面に降ろしてもらった。

 そして、子猫を舞衣ちゃんに渡すと、靴を履いた。

「もういいわよ。千夏、デジカメを返してあげて」

 わたしはそう言われて、デジカメを舞衣ちゃんに返そうとしたが、ふと思いついて、

「その前に、猫ちゃんの写真を撮っとこうよ。舞衣ちゃん、そのままじっとしててね」

 と言って、デジカメを構えた。

「撮るからね。……はい。もう一枚。はい、オーケイ」

「上手く撮れたかしら」

 しずるちゃんが、わたしの持っているデジカメの画面を覗き込んだ。

「あっ、可愛い。上手く撮れたわね。舞衣さんもあたしの写真ばっかり撮らないで、こういうもっとほのぼのしたものを撮ればいいのに」

 そう言われて、舞衣ちゃんは、

「それじゃぁ、金儲けが出来ないっすから。それに、あっしは文芸部であって、写真部じゃねえっすから」

「まぁ、それはそうだね。まだ文芸部らしい活動もしてないし。そろそろ何か企画しないとなぁ」

 と、わたしは考え込んだ。

 すると舞衣ちゃんが、

「しずる先輩、詩とかエッセイとか書けないっすか?」

 と訊いた。

「んー、書けないことは無いけど」

 そりゃそうだよなぁ。秘密だけど、プロの小説家なんだもの。

「でも、あたしに詩なんか書かせてどうするの?」

「もちろん、しずる先輩の写真集に載せるんでさぁ。きっと高く売れるっすよぉ」

「何よ。やっぱりあたしで商売するんじゃないの。もう、いい加減にしてよ」

「いいじゃないすか。文芸部らしくて」

「売れた利益で、今度はムービーメーカーを買うんだなー。しずる先輩のDVDなら、すごく売れると思うんだなぁー」

「あなた達は、お金儲けの事しか頭にないのぉ!」

 舞衣ちゃんは「ははは」と苦笑いをすると、

「まぁ、基本は詩集として売るってことで、どおっすか?」

「だったら、あたしだけじゃなく、皆の原稿も載せればいいじゃない。皆、文芸部なんだから」

 と、しずるちゃんは飽くまで反対のようだ。まぁ、そりゃそうだよね。

「ついでに部長もどぉっすかぁ。この間のメイド服、凄く似合ってたじゃないすか。今度は、ゴスロリの衣装もやりましょうよ」

「ええっ、なんでわたし?」

 いきなり自分に振られて、わたしはちょっと戸惑った。

「それはー、僕が嫌なんだなぁー」

 大ちゃんが、珍しく舞衣ちゃんに反対した。

「何でですっか、大ちゃん」

「僕は、部長の写真を他の男が見るのは、嫌なんだなぁー。部長は僕が独占したいんだなぁー」

「大作くんは一途なのね。千夏、この際だから付き合ってあげれば」

「ええっ、そんな事言われても、困っちゃうよ」

 大ちゃんの気持ちには、応えてあげたい気もするけど、好きだとか付き合うだとか、わたしには未だ分かんないよぉ。

「ゆっくりでいいですよー、部長。高校生活は、これからなんですからー」

 と、大ちゃんは言ってくれた。


 これからのわたしの恋の行方って、どうなるんだろう?

 楽しみなような、不安なような、複雑な気持ちだった。



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