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4.事後承諾(前編)

サイト名: Dream of Butterfly

URL:http://hatune.finito.fc2.com/x-kotyou-enter.html

↑↑こちらからお借りしました。ありがとうございます。


モノ書きさんに30のお題

1、星屑 2、完全犯罪 3、花に嵐 4、事後承諾 5、返り討ち 6、ヒステリー 7、灰色の街 8、魅力的な選択肢 9、+α 10、言葉の綾 11、etc 12、天使か悪魔 13、時効 14、きれい事 15、チェックメイト 16、秘密 17、紳士の条件 18、夜想曲 19、寝空言 20、non title 21、宣戦布告 22、君に幸あれ 23、不可抗力 24、レクイエム 25、螺旋階段 26、99.9% 27、惚れた弱み 28、禁断の果実 29、夢とか希望とか 30、願わくば

4.事後承諾


「だから、御神託なのです!!」

 サクラの背後から、熱を込めて少女は言いつのる。

「御神託は何より優先されなければなりません。そういう訳で、是非、姫さまの護衛をお願いします! っていうか、貴方に拒否権はありません、だって御神託ですから!!」

 ローズと名乗り、神家の姫アマリリスの侍女だというその少女は、サクラに向けて熱心に仕事の契約を迫っていた。

「だから、何度も断っているだろう! ヒッペアストラムの常識など俺が知るか! 無理と言ったら、無理だ!!」

 一方のサクラは、さっきから彼女に背を向けたままきっぱりスッパリ断っているのだが、それでも彼女は諦める様子もなく食い下がっている。

「何故ですか?! 貴方は何でも屋でしょう? 依頼料だってはずみますし、何より、か弱い2人の美少女が、こんなにお願いしているのですよ? 男ならむしろ食いついてきませんか? 凄く美味しい話じゃないですか?!」

 まぁ確かに。

 彼女の言葉にはうなづけなくもない。

 ローズはなかなか愛らしいメイドさん仕様だし、その主人である幼いアマリリスは類い稀に見る美少女であり、そういう趣味の人なら大喜びで喰らいついてくるに違い無い。

 確かに見た目だけは美味しい二人組であるかもしれない。

「俺は忙しい。受けられない。無理だ! 気が散る、邪魔だ、消えろ!!」

 しかし、にべもなく断るサクラ。

 鉄面皮の彼もいい加減息が切れてきたらしく、背後に返す言葉がだんだん荒くなっている。

「そこを何とか。婚約者優先サービスってことで、いかがです?」

「無理だ!」

「実は、年上のほうが好みとか?」

「お前ッ、いい加減に、しろよ! 消えろ、っつってんだろーが!!」

 ローズを見向きもせず、彼は手にした剣を振りかぶると、鋭く斬り下ろし間髪いれずに斬り上げ、そしてさらにまた渾身で斬り下ろす。

 その都度飛び散ってくるねっとりした得体の知れない体液に、少女が、きゃん、とか、いやーん、とか言いながら、スカートをふんわり翻して軽やかに飛び離れる。

「つか、弟(仮)! 笑ってないで その女を、下がらせろ!」

 そのローズのさらに後ろで、呑気に高見の見物を決め込んでいた弟の方に矛先が回ってきた。

 あ、やっぱり? と、弟は苦笑する。

 まぁ、サクラが怒るのも無理ないとは思う。

 彼は今、纏わりつく少女を振り向く暇すら無い状態であり、息を切らせる状態であり、さらにはわりと命掛けの状態だったりもする。

 サクラの目の前には、巨大な怪物の巨大な足首があった。彼は渾身の力で分厚い皮膚に斬り付けてそいつの足止めをはかっている真っ最中だ。

 彼はつまり、モンスター討伐の真っ只中なのである。

「ああ、はいはい。ここは危ねぇってよ、ローズさん。俺たち部外者は安全圏へ下がってようぜ」

「ええ~、でもぉ」

 抵抗する気配を見せたローズを、弟は腕力にものを言わせてズルズルと安全圏まで引き摺っていく。その先の小高い丘では、ローズの主人であるアマリリスが大岩にちょこんと腰掛けて、サクラが所属する数人のパーティの怪物狩りを見物していた。


「姫さま! 早めに婚約解消するべきです。アイツ外見はそこそこだけど中身は最悪ですよ。冷血漢で無愛想で、なんか感じ悪いです」

 走り寄るなり勢い込んで訴えるローズに、アマリリスはやれやれと苦笑する。

「安ずるな、ローズよ。あやつは昔からああだ。育ちが良いわりには変にヒネておってな、そこに趣きがあるのだ」

 いったいどんな趣きだよ? と、弟が内心で首を捻っていると、アマリリスがこちらをじっと見つめて手を伸ばしてきた。

「鯨が動きだした。もっと見晴らしの良い場所へ移動だ、弟(仮)よ」

「あのなぁ。少しは自分の足で歩こうとか思わねぇのか、嬢ちゃんよ?」

 当然のように抱っこを要求してくる少女に、呆れを含んだ調子でとりあえず反論してみた。

「だって、ゴツゴツしてて歩き難いのだモン」

「姫さまはお小さいのです。今日一日分のバイト代はお支払いしたんですから、ちゃんと働いて下さい。あ、これもお願いしますね、弟(仮)さん」

 にっこり笑って大荷物を指し示すローズ。

 いや確かに今日一日の荷物持ちのバイトは引き受けたけどね、アマリリスを肩車する仕事なんて引き受けた覚えは無いのだが。

「へいへい、言ってみただけだよ。んじゃ、移動しますかね、お嬢さん方?」

 もう反論するのが面倒くさい。何より戦闘の続きが早く見たいし。

 弟はやたら重い荷物とアマリリスを抱えると、石くれの小高い丘を下り次の丘へ移動を始める。後ろから軽い足取りのローズがバスケット片手についてきた。


 弟と会うより少し前、サクラはギルドを通してある仕事を請け負っていた。内容はモンスター老山鯨の撃退もしくは討伐である。

老山鯨とは、体長30m、山のようにデカい鯨に似たフォルムの巨大モンスターである。鯨と呼ばれているくせに太く短く頑丈な6本足で水の外を擦り歩く。モンスター危険指数maxを100とするなら、鯨は指数60。突然火を吐くといったような特殊な攻撃はないもののデカい図体でいきなり暴走を始める、という厄介な特性がある。本人に悪気は無くとも、老山鯨が通り過ぎた後には、建造物はことごとく崩壊し草木は根こそぎ倒され地形すら変わる。

 そんな老山鯨が街の近くで発見されたとなれば一大事。いつ老山鯨が暴走して街が通り道になるかもわからない。ここは少しでも早めの撃退が必至なのである。

 そこでハンターギルドが募った定員は8名。モンスターの大きさに対して少人数と感じるかもしれないが、これ以上になると一人当たりの報酬が不十分になるし、プロならこれで十分こなせる人数だ。ハンターにとって老山鯨は特別に珍しいモンスターではない。

 8人のハンター達は分業して老山鯨を攻撃していた。サクラ他2名は足止めを、残りの5人は高台より毒矢を打つ。とにかく相手が巨大過ぎるので普通の攻撃ではびくともしないし、そもそもひたすら毒矢を撃ち続けても、巨体に効いてくるまで三日はかかる。

 味方の攻撃が有利に運ぶようにベストの位置で足止めするのがサクラ他2名の役目だが、老山鯨はひたすら前進しようとするため、足元にいる者は踏まれる危険性が大。なにしろ図体がデカ過ぎて接近すると足しか見えない。不慣れなハンターが近寄った途端、速攻踏まれてお陀仏なんて事はざらにあった。


「さすがに大物は見ごたえありますねー」

「うむ。サクラも頑張っている」

 さて、鯨討伐見物に最適なスポットに移動してきた弟とアマリリスとローズであったが、ここでお茶の時間がやってきた。

 弟が大荷物の中から出した折りたたみテーブルと椅子を草叢に設置すると、ローズはレースのテーブルクロスを広げてお茶の準備に取り掛かる。水筒からお茶を注いだカップを並べ、テーブルの中央に焼菓子のバスケットと摘みたての野の花を飾る。フレーバーティーと菓子と野の花とが混ざりあった甘ったるい香りに包まれて、優雅なお茶の時間が始まった。

 ちなみに今日のお菓子はマドレーヌである。

「(〃▽〃)わーいわーい」

「おぉ、旨そう!」

 テーブルを飛び交うホタテ貝型の焼き菓子。

「はいはい。たくさんありますから、焦らないでね」

「(>▽<)わーいわーい」

「うおぉ、旨ぇぇ!」

「ちょっと、一人でたくさん食べないで下さいよ、弟(仮)さん」

「ふん。意地汚い奴だな。弟(仮)よ」

 一口で豪快に食していた弟は、おやつ製作者のローズから注意を受け、さらにアマリリスからも非難される。

「あぁ? ケチんなよ。……つか、”弟(仮)”って何なんだよ?! 何で、俺はあんたらにまで、”弟(仮)”呼ばわりされてんだ?!」

 というか、むしろサクラより彼女達のほうに多く連呼されてる気もする。

「仕方なかろう。お前が名を明かさぬのだから」

「そうですよ。名無しだと、こちらだって不便なのです。勿体ぶってないで、さっさと名乗ちゃって下さいよ」

 成り行きでなんとなく同行している彼女達に、まだ自分は名前を明かしていない。当然、あのクソ兄貴にも教えていない。

「苦情なら奴に言ってくれ。それに、俺の名前なんかどーでもいいんだろうが?」

「駄々っ子か?!」

 アマリリスが呆れたように言うが、別に自分は子供っぽく意地を張っている訳ではないのだ。

 たまたま兄とアマリリスの再会の場に居合わせてしまい、本当に成り行きで今回の荷物持ちのバイトを引き受けてしまったが、自分は、サクラを含む彼らとはこれ以上関わるつもりは全然無かった。この仕事が終わったら縁もゆかりもない無関係な者同士。いっそ名前など知られないほうが後腐れが無くていいと考えたのだ。

「あー、もしかして! ……とても人に言えないような、恥ずかしい名前なんじゃないですか?」

 大正解を思いついた的に手を叩いたローズに、アマリリスが大真面目にうなづいた。

「なるほど。モザイク無しには語れぬ名なのだな?」

「おい! 人の名前をワイセツ物扱いすんの、止めてくんねぇ?! っていうかお前、それが上流のガキの台詞か? もっと穢れの無ぇ無垢な台詞使ってくれよ、頼むから」

「外見が無垢でいたいけゆえ、何を言っても許されるのだ。なんかちょっとおませさん? で通せるのだ。わかったら、名前ごときで四の五の言うな、弟(仮)よ」

「なんか無茶苦茶な理屈だな、おい? あ、ローズさん、紅茶おかわりな」

 何だかんだ言いつつも、ティータイムは和やかにすすんでいる。

「ほんとによく食す奴よ」

「仕方ねぇだろ、俺ァ育ち盛りなんだよ。嬢ちゃんだって、喰いまくってるじゃねぇか。だいたい身体の割合から言って、お前、食いすぎなんじゃねぇの? 腹こわすぞ」

「菓子は別腹という言葉を知らぬか、愚か者」

「美少女はお菓子が好きなものなのですよー、ねー姫さまv」

「ねーv」

「おい、貴様ら……いい加減に……しろよ」

 いきなり背後から、

 温度の冷めた低い声音が一連の会話に割って入る。

 一同が振り向くと、そこには下の谷で戦っていたはずのサクラがゼイゼイ息を切らせて立っていた。

「場所、と……状況と、節度を……わきまえ、ろ」

 彼はつかつかとお茶のテーブルに近づいてくると、ばんっと両手を置いた。

 カップの中の液体が揺れる。

 テーブルで体重を支えたサクラは、がくりと頭を垂れたまましばし荒い息を整えていた。顔は長めの前髪に隠れて良く見えないが、どうやら相当疲れている様子。それに、わりと怒っているらしい。

「おいおいオメー、鯨は? 放って来たのかよ?」

 マドレーヌに食いつきながら訪ねた弟に、サクラはギロリと冷たい目線を上げる。

「一時的に……抜けて来た。いくら、俺たちが足止めしても、貴様らのせいで、ぜんぜん、矢が……当たらないからだ」

「は? なんで? あんなに大きな的だろ?」

「とぼけるなよ。知ってんだろう、硬い老山鯨は、背中のごく一部分しか、ヒットしない。だから、集中力が必要だ……なのに、あれを見ろ!!」

 サクラが視線を向けた先には、こちらをチラチラ気にしながらも必死に鯨に弓矢の狙いを定めている気の毒なハンター達の姿があった。

「わざわざ射手の後ろで、ティータイムするか? それとも嫌がらせか?」

 弟はサクラをにんまりと見返した。

「ありゃ? 見えたんだ?」

「丸見えだ!!」

 こちらから見晴らし良く眺められるということは、当然、相手からも見える訳で、サクラの苛立ちはもっともだろう。

 ところが当のアマリリスは悪びれもせず、紅茶をすすりながら高圧的にのたまった。

「どこで茶を飲もうが私の勝手だ。そも、そなたへの依頼ゆえ、このような場所にまで出向いてやっているのだ。元をただせばそなたが悪い」

「完全に嫌がらせだな。何のつもりだ、アマリリス?」

 相手が小さな少女なだけに勢いは多少和らぐも、それでもサクラは怒り顔だ。

 いくらアマリリスに頼まれようが、既に老山鯨討伐を請負っていたサクラには(本人が望む望まないにかかわらず)その依頼は受けられない。ギルドを通して受けた契約を破棄すれば高額の違約金を支払わされるし、サクラは普通に貧乏だしで、即、護衛しろというアマリリスの依頼は無理なのだ。

「鯨討伐には最低数日かかる。貴女が邪魔をするならもっとかかる……だから貴女の依頼は無理だと―――」

「サクラよ、私を誰だと思っているのだ? 既に契約書はギルドで受理されておる。何の契約書かだと? そなたと私の契約済み書類に決まっておろう。そなたが私の護衛をする事は、もう決まっているのだ。大奮発した依頼料の250%の違約金が払えれば別だがな」

「それは、どういう意味―――」

「はーい。私、サインとか真似するのって大得意なんですぅ」

 えへっ、とか小さく舌を出してローズが得意そうに片手を上げた。

「……ッ……。」

「だから、既に、私の護衛はギルドで正式に承認済だと言っておる」

 テーブルに置いたサクラの腕がずるっと滑る。その弾みで倒れそうになったカップを救い上げ、弟は首を捻った。

「あれ? それって二重契約じゃね? まぁ両方こなせれば問題ねぇんだろけど、そりゃ実質不可能というか」

「両方こなす必要はない。重ねて言うが、私を誰だと思っているのだ?」

 にんまり笑ったアマリリスが自信に満ちた声ですっくと立ち上がった。

「……何を、する気だ?」

 疲れきった表情のサクラが顔を上げて投げやりに問いかける。

「ま、見ておれ」

 背の低いアマリリスが不思議といつもより大きく見えた。まぁそれでも小さいものは小さいのだが。

 そして彼女は老山鯨を見下ろすと、「えいゃ!」と軽く腕を振るったのだった。


 カッ、と、一条の鋭い光が鯨の身体を貫く。

 ど、どーん!!


 大地が揺れる。

 大音響と砂塵を舞いあげて鯨の超巨体が倒れ、

 そして、老山鯨はそのままぴくりとも動かなくなった。




すみません><;

やたら長くなってしまったので、途中で切ります。

候編はすぐUPできるんじゃないかな、と思います。

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