発現
「それでは次のコーナー、今日のにゃんこ!!」
「昨日の今日によくこんなもん放送できるな」
俺たちはテレビ番組を見ながら朝食をとっていた。
「この状況を平然と受けいれらる時点で、ムシャムシャ、すでに日本は終わってたようなのかもな」
兄貴が、目玉焼きを食べながら話す。
「ねぇ、お兄ちゃんたち闘うの?」
「そうだな。ま、あいつの言ってる言葉が本当ならな。だとしても千秋はまだ12歳だから闘わなくてもいいんだぞ。ま、ありえないだろうけどな」
「えぇーあたしも闘いたいー」
「ダメダメ、ちーちゃんをそんな危険な目に合わせられるもんか、な、真」
兄貴は千秋の頭をなでながらこちらを見た。
「そうだな」
「それにしても」
俺が話を切り替える。
「まだ全然信じられねぇよな。魔法使いやら日本が征服されたやら。大体自衛隊はなにしてるんだよ。それに暴動のひとつも起こらないのか?どうなってるんだか。そもそもこの出来事ってホントに起こっているのか?やらせじゃないか?」
「自衛隊は即座に向かったって聞くよ、それで謎の力によって一瞬の内にやられてFBIに助けを求めたけどFBIまでイチコロ、だってさ。そこで、外国に一言『お前たちには手を出さないから今後一切日本に関わるな』。そんなの見たら暴動も起こす気にならないでしょ。全くたいしたタマだね、僕も見習いたいよ」
「あんなの見習ってどうすんだよ」
「あたしは今のいずにぃがいい!」
「ホント!?うれしいなぁ!ちーちゃん大好きだよぉ!!」
「えへへ~」
こんな状況にでも相変わらずな兄貴の千秋愛をスルーして俺は続ける。
「それに、武器をとれ!なんて言われてもこの時代に武器なんかあるはずないだろ。ハサミやカッターで闘えってか?そのうえ、殺しあえだの県対抗だの、冗談もほどほどにしてほし」
ピンポーン
俺の言葉をさえぎるかのようにインターホンが鳴った。
すいませーん。宅急便でーす。
はーい
兄貴が返事をするとすかさず千秋が駆け出した。
ガチャ
結城 和泉 様 結城 真 様 宛てに荷物が届いてます。ここにサインを・・・
1、2分したら千秋が小さな箱状の荷物を二つもってきた。
「お兄ちゃんたちにって」
「僕たちに?なんだろう」ガサゴソ
俺たちは同時に荷物を開封すると中からは全く同じペンダントがでてきた。
「ペンダント?そういえば誰からだろう?」
兄貴が差出人を確認しようとした瞬間ー
「どうかね、諸君。私からのプレゼントは気に入ってもらえてかな?というか暇を削って対象者全員に送ったんだ、気に入ってもらえないと困る」
と急にテレビから大音量で声がした。
どうやら、このペンダントの差出人は例の魔法使いらしい。
「それでは、早速そのペンダントの使い方を説明したいと思う」
いきなり現れてわけのわからないことを言い出した。
使い方?ペンダントの?
「おっとその前に、ペンダントの真ん中の穴に宝石がはまっているか確認してほしい」
宝石?これのことか?ペンダントには5つ穴が空いておりそのうちの真ん中に赤い宝石がはまっていた。
「真のは赤色なんだね。僕のは緑だよ」
「ホントだ、きれーい」
兄貴のペンダントには確かに緑の宝石がはまっており、それを見て千秋が喜んでいる。
だが、この宝石がどうしたと?
「確認してもらえたかな?では、ペンダントの使い方に移ろう。使い方はいたって簡単。ペンダントを片手で握り、こう叫ぶだけ『魔力、発現!』とね」
かなり怪しい説明受けたあと、俺がどうするか迷っていると、
「じゃ、まずは僕からいくね」
と兄貴が言い出した。
「おいおい、何言ってるんだよ。あいつが本当のこといってるかわからないし、罠かもしれないぞ!大体この歳にもなってあんなこと叫ぶなんてはずか」
「魔力、発現!」
そう叫ぶと、兄貴は眩い光に包まれた。
(それにしてもこんな中二くさいことを叫ぶなんて、恥ずかしいったらありゃしない。
でも、この光。まさか本当に魔法が存在するのか?だとしたら俺は・・・)
「わぁー」
千秋が光にみとれていると、徐々に光が薄れていき兄貴が姿を現した。
そして、その手には美しい緑色の弓がにぎられていた。
「すごーーーい、いずにぃかっこいい!!」
「そ、そうかな」
兄貴は照れくさそうにしながら自分の武器をまじまじとみつめていた。
さっきまで怪しい、恥ずかしいといっていた俺もその弓に目を奪われていた。
「気に入っていただけたかな諸君?」
テレビからまた例の声が聞こえてきた。
「それが、君たちの戦闘に使ってもらう武器だ。大事にしてくれたまえ」
どうやら、この武器を使って殺し合いを行うらしい。
「この力は扱いが難しい。慣れるまで時間がかかるだろう。よって、県対抗の殺し合い開始は今日からちょうど3ヵ月後、7月18日より開催する!奮って参加するように。では、健闘を祈る」
そう言い終えると画面はニュース番組に切り替わりエンディングの占いコーナーが始まっていた。
「ところで、真の発現はどんなのかな?」
思い出したように兄貴が言った。
実はさっきから自分でも気になってウズウズしてたのだ。
しかし、先ほどまでの言動からか俺は強がり
「こ、こんな恥ずかしいことできるかよ」
などといってしまう始末。
「そうか」
(そんな簡単に諦めるなよ、兄貴!ホントは俺もしたいんだよ。もう一押し、もう一押しをくれ!!)
「あたし、まこにぃのも見てみたいな!」
(ナイス千秋!!)
「しょうがないなぁ。仕方なく、仕方なくだからな。それじゃ、いくぞ」
俺はペンダントを強くにぎりしめた。
「ま、魔力、発現!!」
体が光に包まれていく中で俺は高揚していた。
実は中学二年生のころ俺は思いっきり中二病にかかっていた。
自分は特殊な人間だと思い込み。魔法や超能力が実在すると本気で信じていた。
しかし、そのことでクラスメートからいじられて恥ずかしい思いをして以来、昔の自分に反抗するかのように、ひねくれ、そういった類のものを馬鹿にし、見下すかのようにふるまっていた。
しかし、実在するとなれば話は別だ。本当はそういうのが大好きだし、カッコいいものには目が無いのだ。
だから今、胸が高鳴って仕方が無い。わくわくが止まらない。
さぁ、俺の武器はなんだ?日本刀か?ランスか?双剣いや、鉤爪もありだな。
まてよ、武器といったが炎や光といった形がないものかも。闇の力、とかだったりして。
数秒後には徐々に光が薄れてきた。ドキッドキッ
さぁ!俺の武器は!?
俺の両手には
ーなにも握られていなかった
なるほど、やはり俺は選ばれし人間のようだ。
風や水が自由自在に操れるに違いない。
(しかし、どうすればいいのかな。力を込めればよいのだろうか。)
俺は集中して自分の内側から何かが溢れてくるのを想像しながら、腹に力を込めた。
「はああぁぁーあ」
・・・・・
・・・・・
・・・・・
もう一度、
「はああぁぁーあ」
・・・・・
・・・・・
・・・・・
しかし何かが起こる気配はない。
(どうなってるんだ?まさかこのペンダント、不良品か?)
「真、さっきから何やってるんだ?」
「なにって、能力を・・・」
「えっと、まこにぃ。あたしはその服すごく似合ってると思うな。ダンサーみたい!」
(服?ダンサー?急に何を言ってるんだ千秋は)
首をかしげていると、兄貴が指をさしていた。
その方向を見てみると姿見があり、鏡に映っている俺は
赤い衣装に身を包まれていた。
もしかして俺の武器って、これ?
この衣装が、俺の武器なのか?
「今日の運勢がもっとも悪いのは、ごめんなさい、うお座のあなたで~す」
ご閲覧ありがとうございました。是非続編もよろしくお願いします。