The beginning of the end
薄暗い暗闇の中、月明かりが淡く照らす大きな明かりのついた屋敷の一室。
まだ薄っすらとあどけなさを残した一人の少年と40前後の荘厳な顔つきの男が向き合っている。
左右には多数の召使や親族が座っており、見る人からすれば異常な光景。
そんな状況の中、中央で少年と向き合っている男の口が静かに動く。
「今日を持ってお前はこの家とは無関係になる」
――――その無情かつ非情な言葉は少年に重くのしかかる。
「勘当、というやつだ。お前にも意味は分かるな?」
そんなもの分かってる。
「くれぐれも、もう俺の前には現れてくれるなよ」
かすかに笑いながらそう告げる男に殺気を込めた目で睨み付ける。それでも眼前に佇む男は涼しそうに薄く笑って、煌びやかな装飾が施された椅子の上で蔑むような視線をこちらへ向ける。
今すぐにでもこいつの顔をぶん殴ってやりたいが、俺はこの場でどうすることも出来ない。何かしたとしても周りの奴らに捕らえらるのがオチだろうし、主君への反逆として殺されるってことにもねりかねない。
……俺はもうこの時をもって既に他人なのだから。
「……今までありがとうございました。育ててもらったご恩は一生涯忘れません」
腹にためた憎しみをぐっとこらえ、曲がりなりにも育ててくれた人たちに礼を言う。
「そんな安い言葉などいらん。さっさと出ていけ」
もう俺に興味はないのか、男はこちらをもう見向きもせずに言う。
そんなことお前に言われんでも分かってる。
俺はあらかじめ用意しておいた荷物を背負い、席を立つ。
「失礼します」
最後にそう言って踵を返す。
もうここに思い残すことはない。そうして目線を出口の方へ向けると、右の列の最後列にいる少女と目が合った。もう既に散々泣きはらしたであろう腫れた目で、それでも涙を目に留めながらこちらを見つめてくる少女。
「……お兄ちゃん」
少女が消え入りそうな声で呟く。小柄で甘えん坊な女の子。いつも俺の後ろばかりをついてきた少女。俺の大切な妹。
ごめんな。本当はもっと一緒にいたかったんだけど、無理みたいだ。
最愛の妹に最後に出来る限りの笑みを微笑みかけ、一礼をしてゆっくりと家を出る。
出た途端に家内から叫び声が聞こえてくる。初めて聞く妹の悲痛な叫び声。俺の名前を何度も何度も叫ぶ。
呆然と立ち尽くし、拳を血が滲むまで握る。戻りたい。戻って慰めてやりたい。
それが出来ない己の無力さを噛み締め、やがて重い足取りで門へ向かう。
今日この日、俺は勘当された。