Prelude
闇夜に佇む廃れた町の一角。物寂しくポツリと周りから切り離されたように建っているその家は、今はもう亡き両親の母親とその孫だけが静かに細々と暮らしている。
薄暗い部屋の中、安っぽい電灯の下でベッドに寝ている少年に老婆は毎晩物語を語る。時には童話。時にはミステリー、はたまた時にはファンタジーと見境無く毎日少年のために読み続ける。
「ねぇねぇ、今日はどんな物語を読んでくれるの?」
少年は心から待ち遠しそうに老婆にたずねる。
「そうだねぇ、今日はこれにしようか」
老婆はにっこりと笑って手に持っていた古ぼけた一冊の本を少年が見えるように翳す。
「今日はおとぎばなしなの?」
「そうだよ。」
「どんなお話なの?」
「このお話はね、今からはずっとずっと未来の世界で、ある家族のお話なの」
老婆は少年の両親が亡くなって、もう治療代や薬代さえも払えなくなり、衰弱しきった少年に優しく語りかける。
「おもしろそうかい?」
「うん!早く聞きたいな」
老婆はそうかい、と優しく語りかけ、ゆっくりと本を開き物語を紡ぐ。少年は静かに耳を澄ませて、耳を傾ける。老婆はその間ゆっくりと何枚も何枚もページをめくり、物語を読み続ける。
そして終にその御伽噺は終わりを告げる。
「……そして、その少年は家族に捨てられてしまいました。」
これで本編はおしまい。そう言って老婆は本を閉じる。
「面白かったかい?」
「……うん。面白かったけど。……あんなに頑張ってたのに男の子がかわいそうだよ」
少年は最後の終わり方が納得できないようで少し残念そうに呟く。
「そうだねぇ。これはとても惨めで残酷な物語さ。……続きが無いならね」
そう老婆が呟くと少年の目が瞬く間に光りだす。
「続きがあるの!?」
「ふふ、続きというかねぇ、一応この物語には後日談って言うのがあるんだよ」
「ごじつだん?」
「そう。後日談さ。まぁでも、やっぱり続きって言ったほうが分かりやすいのかねぇ」
そう言って老婆は背中に隠してあったもう一冊の本を取り出す。
「勘違いしてはいけないよ。これは後日談であり、先の本の続きだけど、この本の内容は私も他の人も、誰も知らない。
この男の子がこの先どうなるのかも、ハッピーエンドなのかも分からない。
もしかしたら少年が絶望のまま死んでいく姿が描かれてるかもしれない、そういう本だよ。……それでも聞きたいかい?」
老婆は少年に語りかける。少年が思い描く物語じゃないかもしれない。それでもお前は聞くのかと。
「……うん。聞きたいよ。だって今のままだと、その男の子はまるで僕みたいだ。そうはなってほしくないな」
頭の良い少年は自分の死が近いと知ってか知らずか、必死に老婆に語りかける。自分と同じような絶望の人生を過ごして欲しくないと。その可能性があるのなら縋ってみたいと。
「……そうかい。じゃあ続きを聞くんだね」
老婆はもう一度少年に確認し少年が頷いたのを見ると、優しそうに微笑んで、先ほどと同じようにゆっくりと本を開く。
「それじゃあ、始めるよ。誰も知らない御伽噺の続きを――」