表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

私は番に愛されず死んだはずなのに。目覚めたのは、あの日の結婚式だった。

作者: にのまえ
掲載日:2025/11/17

「君は僕の番ではない」

「君を愛することはない」

「いい加減、待つのはやめろ」


そのたび、心は深く抉られ、悲鳴をあげた。



ここは、緑豊かな獣人の国エスラエル。

彼の番として選ばれ、王妃となって三年目の午後。


いつものお茶の時間に、彼の好きなクッキーを焼き、執務室へ向かった。


「スノー王妃、陛下は今、大切なお話を……」


耳のいい猫獣人メイドが制する。

けれど扉の前まで来てしまった私は、否応なく中の会話を聞いてしまった。


「……レイアー嬢が妊娠した。だから彼女を側妃に迎えようと思う」


「レイアー嬢が懐妊とは、おめでとうございます。それで王妃スノー様には? 陛下の“番”ではありませんか」


「違う。――彼女は、僕の番ではない」


胸の奥で、何かが音を立てて崩れた。


それ以上聞きたくなくて、私はそっと扉から離れ、自室へ戻る。


――やっぱり、認められていなかった。


(そうよね。三年間ずっと“白い結婚”だったもの)


結婚式の夜、彼は夫婦の寝室に来なかった。

悲しかった。

それでも私は彼が好きだった。


私は、エスラエル国とスーズラン国の協定祝宴で、一目で恋に落ちた。


嬉しいことに、“番印”が浮かひ、番だけが持つ癒やしの力も宿った。私がエスラエル国の民を癒やし続ければ、いつか彼が振り向いてくれると信じていた。


(それでも三年、何も変わらなかった)


あの執務室の話を聞かれたと、執務から去る足音を耳のいい彼が聞いたはずなの。


“弁明にも来ない”

“会いにも来ない”


――それが答えなのだと悟った。


私は“番”となったが、彼にとっては重荷でしかなかった。ならば、生まれてくる子のためにも――離縁しよう。


(一定の距離なら、番の力は維持される……書庫の本にそう書いてあった)


彼と離縁し、慰謝料を受け取り、国の端でひっそり薬屋を開こう。


もう誰かの幸せを願うだけでいい。

そう決めた。



それから一か月後――彼との夕食。


食事が喉を通らない日々が続き、かなり痩せた私を見て、彼が珍しく声をかけた。


「……王妃、痩せたな。どこか、具合が悪いのか?」


私は「いいえ」と首を振る。

あの日から笑えなくて、作り笑いで返した。

その顔を見た彼の目が、一瞬だけ揺れた。

けれど――何も言わない。


彼は食事が終わると、そのまま執務へ戻ろうとした。いま止めなくては、決意が揺らぐ。


「お待ちください、ローレンス陛下。私から、お話があります」


「……話し? 王妃、話とは」


「陛下、レイアー様のご懐妊、おめでとうございます。――それと、私たち離縁いたしましょう」


彼の眉間に皺が寄る。

“番”である私から離縁を切り出されたことが、よほど癪に障るらしい。


「王妃、離縁だと?」


低い声。

私は気付かないふりをして続けた。


「えぇ。三年経っても“白い結婚”のまま。そんな中で他の令嬢との間に子ができたのなら……その方を王妃としてお迎えになった方が、国のためにも良いでしょう」


私は微笑んだ――淑女の仮面で。

三年、あなたがいたから耐えられたのよ。本当に、あなたのことが好きだった。


(それなのに……“番ではない”と否定された。

この胸に浮かんだ番印は、あなたには煩わしいだけだったのね)


「国のため、離縁はできない」


「大丈夫ですわ、ローレンス陛下。私はこの国から出ません。国の端でひっそり暮らします。遠くに離れなければ、この番印も有効に働くでしょう?」


一定距離なら、番の力は消えない――そう、書物には書かれていた。


「そうだが。……王妃は、それでいいのか」


「ええ。結婚して三年経っても、名前すら呼ばれない“王妃”ですもの。ローレンス陛下、食後に書類を整えてください。準備ができ次第、私はここを去ります」


そう言って、私は礼をして食堂を後にした。

話さなくてはと緊張して、食事には一口も手をつけられなかった。



パタン。扉が閉まるまで、僕は私の背中を見ていた。


「離縁……か」


――あの日の足音。きっと、会話を聞かれたのだな。僕は彼女に会いにもいかず、弁明もしていない。


それが原因か。

あれ以来、彼女の笑顔は消えた。

僕に話しかけることも、会話も少なく、見えるのは作り笑いだけ。


三年間、彼女を“番”と認めず、初夜にも行かず、最低限の言葉だけを交わしてきた。

そして、他の令嬢との間に子を作った。


離縁を切り出されて当然だ。


彼女と離縁しても、ある距離なら番いの効力は保たれる。なら、一人になる彼女のために、国の端の別荘を譲り、慰謝料も払おう。


僕は執務室に戻り、離縁の書類を整え、王妃に送った。彼女がやはり嫌だと言ったら、離縁はやめようと思っていたが、王妃の判の押された書類がすぐ返ってきた。


「本気だったのだな」


――この日、僕たちは離縁した。



「もう、持っていくものはないわ」


彼からもらった物はすべて置いていき、私は慰謝料としていただいた、国外れの別荘へ向かう。


その道中、賊に襲われた。


近くに止まっていた馬車の紋章は、レイアー嬢の実家、ヤーバル公爵家のもの。


ローレンス陛下は“王妃は療養に向かった”としか伝えていない。彼女はそれを誤解し、私が“陛下の子”を宿したと考えた。


彼女は自分の子を守るため、事故に見せかけて私を殺そうとした。


馬車の外では、護衛の騎士同士が争い、怪我人が増えていく。私はたまらず馬車から出てしまい……放たれた矢が胸に突き刺さった。


グッ、痛い。

痛いのに、声を張った。


「レイアーさん……大丈夫よ。あなたの子は王になる。私は……陛下と離縁したわ。あなたの敵にはならない……! だから、騎士を止めなさい!」


私の言葉が届き、騎士達の動きが止まった。

だが、怪我を負ったもの、重傷者がいる。

癒しの力を使い、彼らの傷を癒やすか、自分を癒やすか――そんなの、決まっている。


「『――エリアヒール!』」


傷付いた騎士達、全員を癒やし、私は吐血して倒れた。


目が開かず、徐々に体が冷えていく。

あんなに痛かった、矢の痛みが遠のく。


ーーそっか、私は死ぬのね。


認められなかったが、ローレンス陛下の番の片割れが消える――陛下にも激痛が走るはず。


(今頃、苦しんでいるかしら……? ふふ、ざまぁみろ)


ここで、私の生は終わった――はずだった。



……まばゆい光?


まぶたを上げると、純白のタキシードを着た彼と、ウェディングドレスの私。


――これは、三年前の結婚式。


(どうして? 私はいま死んだはず……これは、夢? よりにもよって……こんな夢は見たくない)



「どうした?」


「え、あ……陛下、お気になさらず……」


い、嫌だ。

もう傷つきたくない。

寂しい思いも、泣きたくもない。


陛下が番と認めず。

周囲の冷たい視線、陰口、――白い結婚。


もう、三年も耐えられない。

現実を受け止められず、視界が暗く沈む。


そのとき――


「スノー!」


初めて、彼が私の名前を呼んだ。

その響きに、心が揺れ、胸の奥が熱くなり。


何故か、泣きたくなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ