表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

第1話 『痛みと記憶と薬の香り』

「痛みは、いつも言葉より正直だ──だから私は薬を調べる。」


咲は目を覚ますと、見知らぬ天井を見上げていた。

白木の梁、煤けた壁、そして小さな木製のベッド。夢かと思ったが、痛む頭を押さえると、確かに体は――重い。

しかも、手足は十六歳の少女のそれだった。


「……ここは……?」


鏡に映る自分を見て、言葉を失った。現代の自分が戻ってきたはずなのに、そこにあるのは柔らかい頬、長く黒い髪、そして小柄な体。

事故に遭った記憶と、ここにいる現実が、頭の中で奇妙に重なる。


「よかった……無事だったのね、お嬢さん」


扉が開き、柔らかい声がした。年配の女性が微笑む。

「薬師の家に生まれたのよ、咲。あなたは今日からこの家の娘です」


──そう、咲は転生していたのだ。しかも、薬師の娘として。


家の小さな薬局には、乾燥した薬草、瓶詰めの薬、煮出した薬液の匂いが漂っていた。

現代の知識があれば、この世界の薬も、より効率的に作れるはずだ――そう思うと、胸が高鳴った。


初めての患者は、隣町から運ばれた幼い男の子。

熱にうなされ、顔は赤く、息も荒い。母親は泣きそうな顔で咲を見た。


「お願いします……どうか」


咲は深呼吸し、昔の記憶を手繰る。解熱の方法、薬草の効能、調合の手順。

「よし……」


手際よく薬草を選び、煎じ、甘みを加えて飲ませる。

子供は嫌がったが、咲の声が優しかったのか、少しずつ薬を口にする。


数時間後、熱は落ち着き、顔色も戻った。

母親は涙を浮かべ、咲を抱きしめる。


「あなたは……魔法使い? ありがとう、ありがとう!」


咲は微笑む。魔法じゃない、これは薬学――現代の科学だ。

けれど、この世界では、それも“魔法”に近いかもしれない。


その夜、薬局の隅で、咲は小さな日記に今日の出来事を書き留めた。

「薬で命を守るって、こんなにも尊いんだ──」


扉の向こうから、静かに人影が現れる。

若く、背の高い男性。深い青の目に冷静な光。

「君が咲か……薬の調合で、誰かを救えるのか?」


咲は小さくうなずいた。

これが、宮廷での最初の出会い──そして、すべての物語の始まりだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ