本
私の部屋にあるカラーボックスの上には1冊の本がある。さして厚くも薄くもない普通の本が。中身は小説である。
難しい内容の書かれた小説では無い、本に触れる事が多い人なら小一時間もあれば読破出来る程度の本だ。
この本は私が【小説家になろう】と言うサイトで初めて書いた長期連載作品が元になっている。
書いてる時は私に小説なんて書けるんだと自分でビックリしていた。難しい物語なんて書けるはずも無いと思った私は、過去の実体験を元に物語を書いた。
丁度なのか分からないが、同じようなジャンルの小説が無かったからか私の書いた物語は少しずつ人の目に触れられる事が増えた。
気付いたら毎日のように日間1位を取り。
毎週のように週間1位を取り。
毎月のように月間1位になっていた。
最終的には。
日間1位
週間1位
月間1位
四半期1位
年間4位か5位
と言う輝かしい記録をもたらしてくれた。
ある日、我が家に1つの封筒が送られて
きた。その中身は某出版社からの物だった。
「自主出版で本を出してみませんか?」
と言う内容だった。その頃の私は少しだけお金の余裕もあった事から、記念になるかな?と本を作ってみる事にした。
本を作る上で私がした最初の事は、物語の全てをメモリーに落とし込み、出版社に送る事だった。
「なろうの私の作品を勝手に読んでくれよ面倒くさい」
私が思った最初の事はこれだった。
その後、私の担当だと言う編集の方とLINE通話を通して何度も打ち合わせをした。
プロの校正が入った。
その中である1つの文章について編集の方と少しだけモメた。
私は絶対に外したくないと思った。
何故ならば、そこに登場する女性の名前は私が今でも片想いを続ける名前だったから。
貴女が愛してくれた男はここで今でも貴女を想っています。
何かのキッカケで私の本が売れた時に彼女の目に留まるかも知れない。そんな浅ましい考えの元に。
結果的に私の本は、全国の本屋さんに並ぶことが出来た。
今では作者ですら読み返す事の無い売れなかった本がカラーボックスの上にホコリを被り存在していた。
今日、本当にたまたま本を読み返してみた。
駄作だなぁ……等と思いながら。
物語の終盤にふと彼女の名前が現れた。
今でも片想いをする女性の名前が。
ふと涙が頬を伝う……