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犯人はお前だ

 次の日には、やっぱり平和ではない。朝から職員室に呼び出され、なんと、市職員まで来た。保護者と連絡がー、みたいな話になった。

 いきなり保護対象にするには、それなりの手続きが必要だ。そういうところがお役所仕事、というものなんだろう。大変だな。というわけで、保留的扱いだ。定期的に市役所の誰かが見に来るらしい。あと、受け入れ先の準備がいるという。話がどんどんと大きくなってきてるよ!!

 そういう話になっているかなんて知らない宮村くんと持村くんは、今日も俺の部屋に遊びに来た。もう、俺が取りに行かなくても、二人がおかず持ってきてくれるよ。有難いね。

 宿題もそこそこに、暇だろうから、俺はパソコンの電源をいれた。古いから、起動に時間がかかるなー。

「使えるんだ」

「セットアップは父さんがやってくれるから、あとはつなげて電源いれるだけ。あ、じいちゃんからメールきてる」

 復讐か? むっちゃ重いファイル送ってきやがった。向こうとこっちでは、環境違うんだよ!! 察しろ!!!

 物珍しいように眺める二人。その間に携帯タイプのプリンタをつなげて、印刷だ。

「これ、通り魔事件の?」

「じいちゃんに、類似の事件をネットで探してもらったんだ。たぶん、他にも出てるんじゃないか、と思って。実際には、出てた」

「え、すごい!」

「なんか、探偵みたいだな!!」

 ああ、言われちゃった。俺はそれだけは避けたかった。それもこれも、こんな生霊憑きの部屋なんか借りた両親のせいだ! 帰ってきたら、説教だ!!

 じいちゃんは本当にきっちりやるタイプで、なんと、通り魔事件が起きた場所を地図にチェックして、文書ファイルに貼り付けてくれた。もっと早く、じいちゃんに頼めばよかった。

「じいちゃんはここら辺と推理かー」

「何が?」

「通り魔の住んでる家? こういうのって、行動範囲の中心にいることが多いって、テレビとかでも言われてるんだよ。通り魔、半年前からちょくちょくとあちこちに出てるから、移動してるか、この地点を根城に動いているか、どっちかだろうね。日付からいって、移動してる説が高いけど、てどうしたの?」

 じっと見てくる宮村くんと持村くん。そんなに見られると、恥ずかしいんだけど。

「なんか、探偵みたいだよな」

「うん、探偵っぽい」

「そういう本、いっぱい読まされたから。あと、ドラマとかもいっぱい見させられた。父さんが好きなんだよ、そういうの」

 父さんがいれば、もっと面白い話になるけど。俺なんか、ただ、知識を並べただけだよ。

「それでもすごいよ。僕、全然、思いつかなかった」

「情報開示が限定的だからだよ。警察も、この可能性を見て、あえて、出していないだけ。じいちゃんが、ネットニュースを一生懸命拾ってくれたから、ここまで出ただけ。まあ、素人の横好きだよ。

 余談はともなく、生き残っている御剣あのんのことを調べないと」

 あの生霊をどうにかするためには、解決しないといけないんだよ。本当に面倒臭い。

 一通り、俺と宮村くんは事件の記事を見て、持村くんは、パソコンで遊んでいた。こんなの、楽しくないよね。俺も楽しくない。

「なんで、御剣あのんは、桜並木にいたんだろう?」

「えっ?」

「何?」

 びっくりしたように見てくる宮村くん。俺は迂闊なことを言ってしまったような気がするが、わからない。

「なんでもないよ。もうそろそろ、帰ろうか。ほら、遅くなる」

 急に宮村くんが帰る準備をする。

「え、まだ遊びたい」

「ご迷惑だよ。じゃあね」

 イヤがる持村くんを引きずって、宮村くんは帰っていった。

 何か言ってはいけないことを言ったのだろう。俺は記事を読み返し、やってしまったことに気づいた。

 たぶん、犯行現場についてだ。宮村くんが持っていた新聞記事では、犯行現場はぼかされていた。たぶん、秘密の告白みたいになったのだろう。

「はやく解決しなきゃ、安眠出来ない」

 もう少しすると、あの生霊が部屋に姿を表す時間だ。






 予想通り、宮村くんと持村くんは俺を避けた。まあ、転校したばかりで、俺が何か空気を読めないことをやったんだろう、とクラスメイトは思ったはずだ。実際、気まずくはない。

 俺は、今日から、やっぱり寂しい晩御飯になるなー、なんて考えつつ、情報の広がりの限界を感じた。

 こういう時は、現場を見に行くのが一番だ。

 放課後、担任の先生に呼ばれたけど、無視した。どうせ、保護施設がどうの、とかの話だろう。もう、そんな時間はない。

 御剣あのんが通り魔にあったのは、桜並木のある公園だ。もう、桜並木ではないそこは、人通りが少ない。桜が咲き誇っていたら、人通りはそれなりだったろうに。そこが、不自然だ。

 これまで、人通りの少ない所を犯行現場にしていた。桜並木なんて、花見客とかいっぱいだろう。通り魔の犯行現場には向かない。

 どこら辺かな、と探してみても、場所がわからない。人が襲われただけで、死んでいないので、花とかお供えされることはないだろう。

 ところが、たまたまかもしれないけど、花を置いている男子学生がいた。ははーん、これは、あれだな。

 僕はわざと走って、花を踏みつけて転んだ。

「何てことするんだ!!」

「ご、ごめんなさい!! 前、見てなくて」

「ここで、人が死んだんだぞ!!」

「俺、春に転校してきたから、知らなかったんだ!!」

「そうなのか。だったら、仕方がないか」

 見れば、御剣かのんと同じ中学の校章を襟首につけている。

「ほら、手」

「ありがとうございます」

 今更ながら、俺が転んだことに手を差し出してくる。男子学生の手を借りて、俺は立ち上がり、服についた汚れを払った。

「盛大に転んだね。ほら、膝がすごい」

「洗えば大丈夫だよ」

「家が近いんだ。簡単だけど、治療しよう」

「え、悪いですよ」

「子どもが遠慮するな。男同士だから、何もないよ」

「それじゃあ、お言葉に甘えて」

 見知らぬ好意を受け取り、俺は男子学生の家にお邪魔する。

 本当に公園から近い。普通の一軒家だ。今日は、保護者はいないようだ。ただいま、と彼が言っても、返事がない。

「救急箱をとってくるよ。そこで足を洗って」

「すみません」

 お風呂場で足についた泥やら汚れやらをとってからリビングに行けば、救急箱を持った男子学生が待っていた。足を見せると、かなり大きな怪我に、男子学生がちょっとびびった。俺もびっくりだ。

「小さいのしかないけど」

「血が止まれば大丈夫だと思います。お兄さんは、あそこで死んだ人と仲良しだったんですか?」

「仲良しっていうか、告白して、振られたんだ。僕のこと、知らないって」

「だから、滅多打ちしたんだ」

「え?」

 凍り付く男子学生。手に持ったガーゼが落ちる。

「君、まさか、見て、た?」

「まだ、死んでないよね。なのに、花なんか供えちゃって。あれ、死んでほしいから、呪いみたいなことしたんでしょ」

 男子学生は僕から距離をとった。武器らしきものは一杯だ。体格差からいっても、俺のほうが不利だ。

 どうしようかな、なんて考えていると、男子学生がやっぱり包丁を持ってきた。やっぱり、相手のテリトリーに飛び込むものじゃない。

「ここで俺を帰さないと、大変だよ。俺、育児放棄で保健士が保護対象として、目がつけられてるから。ここまでの行動、わざと監視カメラある所を通ってきてるから、バレるよ」

 震える男子学生。俺を殺したところで、犯行は隠せない。隠せたとしても、ここら一帯は捜査範囲になる。絶対にバレる。

 しばらくして、男子学生のほうが観念して、包丁を下ろした。なんだ、痴情のもつれだったのか。つまらん。





 男子学生は、俺が言う通り、自首した。衝動的な犯行だったけど、丁度、通り魔殺人事件と勘違いされたので、それに便乗しただけだ。ついでに、御剣あのんが死ねば、完璧だったらしい。どうかな? 警察は、ちゃんとわかっているよ。使用された武器が、御剣あのんだけ違っていることくらい。

 さて残るは御剣あのんである。相変わらず意識不明である。

 犯人が捕まったことで、御剣あのんの警護はなくなった。ちょっと覗きに行ってみると、保護者らしき人たちが、一生懸命、語りかけている。なんで、戻れないんだろう?

 アパートに帰って夜を待つと、やっぱり、御剣あのんが出てくる。

「犯人捕まったんだし、帰れ」

「だって、私がちゃんと受け止めなかったから、犯罪者になっちゃうなんて!」

 ぐずぐずと泣く御剣あのん。居座られてる俺のほうが可哀想なんだけど。

 探偵ごっこも終わって、いつもの静寂に戻りたいのに、この生霊をどうにかしないと戻れない。

「そういうことは、ここで言うな。ちゃんと、体に戻って、相手に言ってやれ」

「でも、どうやって戻ればいいか」

「気持ちじゃないの? ほら、戻りたいって、もっと願えよ」

「そうしたら、ここに来ちゃうの」

「ええー、どういう原理? じゃあさ、これを見ようか」

 俺は、病院での御剣あのんの家族の様子をこっそり盗撮した映像をパソコン画面に映し出した。

 母親が泣いて、たぶん、弟も泣いているのだろう。一生懸命、体をマッサージするのは、血流をよくするためだ。そんなことをしている家族を見て、帰りたくないわけがない。戻れよ、さっさと。

 御剣あのんは涙を流し、じっとその映像を見て、すっと消えた。

 そうして、部屋から、あの生霊はいなくなった。





 数日は静かだったというのに、また、宮村くんと持村くんが遊びに来た。こなくていいのに。

「なあなあ、連続通り魔殺人のほうも解決したんだって」

「へえ、そうなんだ」

 俺は生返事だ。新聞、読んでるから知っている。

「あの、僕、実は」

「知ってる。俺が表に出てない情報知ってたから、疑ったんだろう。仕方がない」

「ん、ごめん」

「いいよ」

 宮村くんの中では、僕を犯人扱いしたことは、かなり気にしていたみたいだけど、俺は気にしない。ほら、犯人じゃないから。

 そういう他愛無い会話をしていると、インターホンが鳴る。とうとう、帰ってきたか、ダメ両親。

「はいはーい?」

 開けてみれば、なんと、生身の御剣あのんがいる。あれ? おかしい。今は昼間だ。

「やっほー!」

「何故、ここに?」

「私ね、隣りに住んでるの」

「は、まさかっ」

「そう、帰るとこ、間違えちゃったの、えへへへ」

 笑って誤魔化す御剣あのん。くっそ、可愛いじゃないか!

 女の声に覗きに来る宮村くんと持村くん。

「え、御剣あのん?」

「本物?」

「あっれー、私って、そんなに有名人なんだ。知らなかった」

「生き証人としてね。もう、部屋、間違えんなよ。じゃあ」

「こらこら! どうして締め出すの」

「煩いから」

「冷た! 最近の小学生って、冷たっ!!」

「煩い!」

 俺の平穏は、まだまだ先のようだ。

企画に参加したくて、頑張って、書いてみました。推理物って、どう頑張っても無理そうだな、と思いながらも、私なりに書きました。推理っぽいですが、誤魔化しまくりです。

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