情報収集は大人にまかせた
学校行ったら、即、担任に呼び出された。
「学級委員の宮村から聞いたんだが、育児放棄されてるんだって?」
ちくりやがったな、宮村。余計なことしやがって。
とりあえず、朝から簡単な面談となる。俺が立ちっぱなしなのは可哀想になったようで、担任は椅子を持ってきてくれた。さっさと終わってほしいな。
「ご両親に電話をかけているんだが、誰も出ないのはどうしてなんだ?」
「すみません、その電話番号、見せてください」
転校の手続きで、色々と書いただろう書類を見せてもらった。
「俺の部屋、電話ないですよ。これ、以前、住んでたとこの電話番号ですね。携帯電話の番号も、昔のです。今のは知らないけど」
「え? え??」
「面倒だから、昔、パソコンで作った書類の情報そのままコピーアンドペーストしたんでしょうね。さすがに住所は正しいですね」
よし、事件は解決した。終了だ! 俺がさっさと教室に帰ろうと立ち上がるも、担任は止めた。
「待って! それじゃあ、ご両親との連絡は?」
「え、知らないですよ。新学期始まってから、帰って来てませんし」
「それ、大問題じゃないか!! そうだ、万が一の連絡先が……海外?」
電話番号の一番、先頭に+がついている。あれだな、海外にいる祖父の電話番号だな。
「丁度いいので、メモしていいですか? 帰ったら、電話してみます」
「え、でも、電話ないって」
「光電話の契約しているので、帰ってからつなげてみます」
「ちょっと待て、それ、君がやるの?」
「? でないと、じいちゃんに連絡がつけられない」
何言ってるの、この人。僕は心底、この担任の頭を疑った。育児放棄されちゃうような子どもは、色々と出来るようにならなきゃ、生きていけないんだよ。
放課後には、じいちゃんに連絡をいれたいので、さっさと帰る準備をしていたら、声をかけられた。
「おい、転校生」
ガキ大将クラスの持村くんだ。昨日の今日で、距離近いな。
「何か用ですか?」
「母ちゃんにさ、育児放棄されてるヤツがいるっていったら、食い物わけてやるってさ。ほら、行くぞ」
「え? え??」
いきなり、お友達の家かい。友達ゼロの俺には、ハードル高いな。
引きずられる途中、学級委員の宮村くんにも遭遇。持村くんが、どうして俺と一緒にいるか話すと。
「実は、僕の母からも同じこと言われて。僕も一緒に行きましょう」
増えた!? 妙な仲間意識が二人の中に芽生えて、僕は二人に引きずられて、それぞれの家でおかずをいただいた。
「洗って返します」
「いいんだよ。明日もおいで」
「そうそう、遠慮しないでね」
意外にも、持村くんと宮村くんは家が近かった。近所というほどではないが、俺が取りに来る話になっていたようで、学校から近い宮村くんの家で待っていてくれた。
「それじゃあ、ありがとうございます」
それで解散となるはずが。
「よし、俺が家のこと、手伝ってやるよ」
いらない。
「一緒に宿題をしましょう」
それも、いらない。
何故か友情じみたものが芽生え、俺のアパートまで着いてくる持村くんと宮村くん。俺、友達は欲しいな、とは思うけど、今はいらないかな。
家庭の味抜群のおかずを貰ってしまったので、部屋にあげるしかなくなった俺は、観念した。
まだ、明るい時間なので、御剣あのんはうらめしやしない。良かった、いなくって。
それなりの育ちの家なのだろう。一部屋だけのアパートに興味津々だ。
「あれ、ご両親は?」
「いないよ。新学期始まって早々、帰ってこなくなった。育児放棄といったって、虐待されているわけではない。ただ、家に帰ってこないだけだよ」
「それって、育児放棄でしょう」
「お金は持ってきてくれてるし、アパートの家賃とか光熱費はしっかり支払われているから、まあ、生きてはいける」
帰ってきたら、ただでは済まさんがな!
二人には適当に座ってもらって、俺は押し入れに片づけた荷物を出した。ここに全部、一括でいれたんだよな。
「何やってるの?」
「PCとか電話とか設置するの。両親いなくなるまでは、必要なかったから、片づけちゃったんだよ」
「え、ネットとかしないの?」
「ゲームとか」
「………」
黙秘権だ。そういう話はしない。けど、しないはしないで、哀れみの目で見られるのはどうしてかな?
大人がやる作業を子どもがやる。横で興味津々と見ている二人をそのままに、電話とネットとパソコンを繋げる。IDとかパスは一緒にいれておいたので、ダンボール一箱で終わった。
「すげぇ。お前、頭いいんだな」
「慣れだよ、慣れ。何回も育児放棄させられると、こうなる」
「え、これが初めてじゃない?」
「………」
黙秘権だ。絶対に口を開いちゃだめだ! また、明日、担任に呼び出されちゃうよ!!
長く使っていなかったこともあり、パソコンのほうが、アップデートやらなにやらで起動画面で停止中だ。ちゃんとやっといてよ、父さん。
そういう時間のかかる作業は放置して、宿題して、ごはんだ。せっかくなので、持村くんと宮村くんにご飯だけ食べていってもらう。
「なんか、何もやることないな、ここ」
「ゲームないと、暇じゃない?」
「本読むか、ぼうっとしているかくらいかな。テレビは、ほら、受信料云々が煩いから、ないし」
「テレビないと、生きていけないよ!!」
「新聞あれば、情報はどうにか。あ、今日の新聞、読まなきゃ」
玄関に放置したままの新聞を読む俺。うん、小学生ではないな。
「明日はさ、外であそぼうぜ。ほら、メシはどうにかなるだろう」
「そうそう、一緒に遊ぼう」
「通り魔事件が解決したら、そうしよう」
面倒臭そうな約束は先送りが一番だ。
そうしていると、やっぱり御剣あのんがやってくる。
「あああーーーーー、美味しそうーーーーーー!!!」
物凄く叫んでいるのだけど、何故か、持村くんも宮村くんも気づいていない。ていうか、目の前に居るのに、見えてもいない。これは、あれか。住人しか見えないっていう縛りかい!!!
実は、他の人にも見えるかなー? なんて試しに持村くんと宮村くんを晩御飯に誘ったのだ。結果、見えていないことが判明。ちくしょー、仲間がいない!!
御剣あのんは、空気読めない人なので、僕にしか聞こえない声で歌ったり、踊ったり、とやりたい放題だった。
「もう、出てけ!」
我慢するのがいっぱいいっぱいだ。俺の叫びに、舌なんか出して「てへ」なんて笑っているが、可愛いじゃん、ちくしょー。
「もう、お客様がいる時は、隅っこでのの字でも書いててください!!」
「それって、ひどい!! 私だってお話したいのに!!!」
「さっさと体に戻れば、いくらだって人様と話せるよ。さあ、戻れ!!!」
「戻れないのにーーーーーー!!!」
最低だ、この女。泣けばどうにかなると思ってるんだろう。どうにかなっちゃうんだろうな、この女は!!
僕は御剣あのんを無視して、パソコンの画面を確認する。どうにか、使える程度にはなっている。もっと新しいのにしようよ、父さん。古いから、色々と大変なんだよ。
僕はマイクつきヘッドフォンをつけて、じいさん宛の国際電話にかけた。遠いから、ちょっと時間がかかる。ついでに、御剣あのんが邪魔だ。画面が見えない。くそ、触れないからどかせれないよ!
『おうって、お前か。どうした』
「父さんと母さんが消えた」
『え、また? 今度はどうした!?』
「その前に、これ、見える?」
俺の前に居座る御剣あのん。見えていたら、じいちゃんはまず、気づくはずだ。
『可愛くもない孫が見える』
知ってる! 本当は女の子の孫が欲しかったんだよね!!
「その、可愛くもない孫の目の前には、なんと、可愛い女子中学生の生霊がいます」
『何!? なんて羨ましい話だ!! 今すぐ代われ!!』
「アホなこと言ってないで、手伝ってくれ! メールでそっちに、今の状況、送るから、ネットで情報集めてよ!!」
『ええー、自分で集めろよ。ほら、もう、俺、年寄りだし』
「明日には、学校から連絡がいくかもしれないな。育児放棄の件、ばれてるから。俺から担任に訴えてやろうか?」
『よし、まかせろ! 可愛くない孫のために、調べてやろう』
学校は、よほど面倒臭いんだろうな。じいちゃんは素直に、連続通り魔事件の情報を集めてくれることとなった。
話は終了、とじいちゃんのほうが切られた。俺の身内って、冷たい。
会話が終わり、メールで現状報告。ついでに、昨日、コンビニでコピーしてデータ化した新聞の切り抜きも添付ファイルで送ってやった。むちゃくちゃ重いから、苦しめ。
操作が終わって、パソコンをきってから気づく。御剣あのんが静かだ。
見てみれば、じーと俺がやっている動作を静観していた。そうか、この人でも静かに出来るのか。
「もう終わったよ」
「すごいね! 何、これ!! 君、天才なんだね!!!」
「育児放棄され続けると、こういうことも出来るようになるの。もういいから、今日は静かにしてくれ。眠い」
「わかった! 子守歌、歌ってあげる!!」
「え、いらない」
拒否しても、この女、大音量で歌いだした。俺にしか聞こえないから、煩いんだよ!!