夜しか出ない幽霊
今日も両親が帰ってこない夜だった。小学五年生を放置して、外で寝泊りする親ってどうなんだろう。
幸い、金は置いていってくれる。家賃も滞りなく支払われている。困るのは、炊事洗濯掃除だが、まあ、そこは頑張った。
今日も一人飯だ。
「美味しそうですね」
僕以外、誰もいない部屋に、宙に浮いた女子中学生が、羨ましそうに俺が作ったチャーハンを見る。
「食べてみる?」
「はい、食べさせてください!」
「あーん」
「あーん」
大きな口を開けたので、そこにスプーンでよそったチャーハンを放り込んであげた。
残念なことに、チャーハンは畳の上に落ちた。
「あああああーーーーーー!!! やっぱり、食べられないいいいいいーーーーー!!!」
俺は落ちたチャーハンを三角コーナーに処分しつつ、ため息をついた。
「幽霊のくせに、煩い」
耳が痛くなるほど叫ぶ女子中学生の幽霊に、俺は辟易した。
この女子中学生の幽霊の名は御剣あのん。女子中学生だとわかるのは、俺に近所の中学校の制服と校章が同じだからだ。だから、女子中学生だとわかった。
この幽霊との出会いは、安アパートに引っ越してきたばかりの頃だ。親の都合で三月に引っ越してきた。引っ越したばかりの頃は、両親は確かにいたのだが、俺が新学期を迎えるとすぐ、外で寝泊りし始めた。
原因はなんだろう、と不思議に思っていたら、その原因が俺の枕元に出現した。
「うらめしや、です」
「あ、痴女がいる」
「違います! うらめしやです!!」
「痴女だろ、痴女」
俺は灯りをつけて、その痴女と対峙した。
そして、気づいた。痴女と思っていたそれは、幽霊だった。
幽霊だけど、痴女は痴女だ。俺は武器となるバットを持って、応戦体制である。
「ちょっと、暴力反対です!!」
「だったら、ここから出ていけ!!」
「ムリです!! ここから出られないから、お願いしてたんです!!!」
どうやら、俺の両親は、この痴女幽霊に会って、部屋から逃げだしたらしい。俺だけ置いていくって、酷いな、あいつら。
見捨てられた俺は、仕方なく、痴女幽霊と話し合うことにした。幸い、この痴女幽霊、部屋が明るくなっても消えない。
「で、何をお願いしたいの、痴女」
「その、痴女はやめてください!! 私には、御剣あのんという、かっこいい苗字とかわいい名前があるんですから」
「へー、そう。で」
「最近の小学生は、随分とクールなんですね!?」
「知るか! それで、御剣さんは、何をお願いしたいの?」
いちいち、話の腰をバッキバキに折るダメ女だから、小学生の俺が話を進めるしかない。頑張れ、俺。
「あのですね、私の死体を見つけてほしいんです」
「俺の出番は終わった。警察に行け」
「行けって、無理ですよ! 死んでますし、ここから出られないですし」
「出られないって、よくある、この部屋のどこかに死体が隠されてるってやつか? それを探すのは、骨が折れるな」
「いえ、違うと思います。私の最後の記憶は、ここではないんです」
「だったら、なんで、ここにいる?」
よくあるパターンだと、だいたい、ここに死体があるから、という地縛霊的なものだ。そうでないのなら、場所に思いがこもっているのではないだろうか?
「私も、どうしてここなのか、わからないんですよ。気づいたら、ここにいたというか」
「それで、最後の記憶は、どこなんだ?」
「桜の木がいっぱいある所です。そこで、頭をポーンとやられちゃいましてね」
「よし、犯人は誰だ。それで事件解決だ!」
「覚えていないので、無理です。打ちどころが悪かったので」
「ちっ! 役に立たない奴だな!!」
「冷たっ! 最近の小学生は、なんて冷たいの!!」
「親に見捨てられれば、こうなるよ!!」
幽霊出るのなら、言ってくれ。せめて、俺も連れていけ!!
こうして、幽霊と同居生活を送ることとなった。
ちなみに両親は、帰ってきてはいるが、手紙と金だけ置いていって、どろんである。おい、育児放棄で、役所に訴えるぞ。