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第三話『俺の主』


 王都へ連れてこられてからはや十日、今日はなにやら朝から世話係の男たちが慌ただしく動いていた。


 世話係だけでなく、初日にこの納屋へと俺を連れてきた男も出入りしては次々と生き物が入ったゲージを納屋の外へと運び出している。


『さてお前の番だ』


 どうやら俺の順番が来たらしく首に繋がったロープを馬房の柵から外されてクイクイと引っ張られる。


 逆らったところで疲れるだけだし、男の腰に下げられている調教鞭を振るわれて痛い思いはしたくないので、素直に立ち上がり馬房を出る。


 この馬房、管理はまめで清潔だし餌も新鮮な野菜が混ぜられてあって美味かったから意外と気に入っていたんだがしかたないな……


 外に出された俺はどうやら水浴びさせられるらしい。


 待ち構えていた三人の男たちに引き渡されて頭上から水をかけられる。


 冷たさに一瞬怯んで暴れかけたが直ぐにロープを二人がかりで引っ張られて制止させられた。


『どうどう、流石黒虹馬だせ、仔馬でこの威力とは恐れ入ったぜ』


『だな、今回のオークションの目玉だからな』


 何を言っているのかわからないが引き続き身体が洗われていく。


 全体くまなく洗い終わると、布を持って迫ってきたが、ずぶ濡れのこの状態では明らかに面積が足りないだろう。


 全身を震わせて水気を払うと俺を洗っていた三人が見事にずぶ濡れになっていた。


 ぎゃいぎゃいとなにやら騒いでいるが、気にしない。


 身体に艶を出す液体のような物を塗られて、丁寧にブラシを掛けられればどうやら身支度が完成したらしい。


 身支度を整えられてそのまま隣接した大きな建物の裏側にある馬車でそのまま入れるような扉を潜り、大きな倉庫へと引き入れられる。


 どうやら俺の順番が回ってきたようで、明るい場所へ引き出された。


 暗いところからいきなり明るいところへ引き出されたせいで反射的に前足が上がってしまい慌てた男三人がかりで抑えられる。


『本日最後の商品となります! 黒虹馬の仔馬となります! 推定零歳の雄、ご覧頂いたように仔馬で既に三人がかりで対応しなければならない馬力はまさに馬の中の王!流石黒虹馬と言えるのではないでしょうか!』


 どうやら俺は半円のすり鉢状となっている会場の底の部分に連れ出されたようだ。


 沢山の人間がすり鉢の側面を覆い尽くす用に座りガヤガヤと騒いでいる。


『この度この黒虹馬を捕える際に、群れの仲間を守るために自ら群れを離れて逆走し、狩人を群れから引き剥がそうとするなど、仔馬とは思えない賢さです』


 なにやら懸命に口上を述べているが、これはオークションかなにかだろう。


 はぁ、俺は売られてしまうのか……


 たしか仔馬一頭で豪邸が建つくらいで売れると言っていたっけ?


『それでは小金貨五枚から始めさせていただきます!』

 

 司会役の男がなにか言ったのだろう、会場中の参加者がどよめいた。


『五千万ルンだと!?』


『流石黒虹馬、私には手が出ませんね』


 それでも購入希望者は少なからずいるようで、ジリジリと金額が上がっているようだ。

  

『24番のお客様、倍の一億二千万ルン』

    

『48番のお客様、さらに倍、二億四千万ルン!』


 どうやらしばらく競ったあとにどうやら壮年の屈強な男性に買い取られることに決まったらしい。


 代金と引き換えに俺の手綱が、引き渡される。


『フェイル将軍、こちらが商品となります。 お間違えございませんでしょうか?』


『あぁ問題ない』


 その後、俺は馬車に繋がれる形で移動させられることになった。


 久しぶりに馬房の外に出たんだから少しは走りたいんだけどな……

 

 そわそわと落ち着かない俺を見て、俺を落札しただろう男が苦笑いを浮かべている。

 

『どうやら機嫌が悪いみたいだな、お前達は妻と馬車で来てくれ、俺はこいつを連れてマクシムに乗っていく』


 なにやらバシバシと背中を叩かれるが、なんで叩かれたのかわからない。


 そうしている間に黒毛の大きな黒虹馬が買い主の男に引き出されてやってきた。

 

「黒虹馬?」


「そうだ、俺はフェイルの相棒でマクシムと言う」


 体格は俺が産まれた群れを率いていたあの雄馬と比べればやや小振りだがそれはこのマクシムという名前の黒虹馬がまだ若いからなのかもしれない。


 衣食住を保証されているのか、肉付きや毛並みの良さはマクシムの圧勝だろう。


「フェル?」   


「いやフェイルだな」 


 マクシムに鼻を寄せて挨拶すると、その様子を見ていたフェイルがマクシムの鐙に革のブーツに包まれた足を掛け、その逞しい馬体に軽々とまたがった。


 俺の轡に繋がった太いロープを、部下の一人であろう男から受け取ると、フェイルはマクシムの首元を軽く2回叩き、その蔵に俺の縄をしっかりと括り付けた。


『はぃや!』


 鐙を軽くマクシムの脇腹に当てると、マクシムがゆっくりと歩き出す。


 間違ってマクシムが蹴り飛ばすことがないように、十分な長さを取って用意された縄がゆっくりとたわみを無くしていく。


 クンッと首元の縄が引かれたため、俺もそれに合わせて足を出せば、はじめは歩く速度だったものが少しずつ速度を増していく。


 草原ではないけれど、馬車が通れるようにと整備され踏み固められた道は蹄鉄を履いていない俺の足でも十分に走ることができた。


  あぁ気持ちがいいな……


「さて、準備運動はこのくらいでいいよな?」


 前を走っていたマクシムが嘶く。


「あぁ、もちろんだ!」


 嘶き返すなり、グンッと速度が上がった。


 このままどこまでも駆けていけるような、恍惚感に包まれながら……


     

 


 

 

 


 

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