第一話『吾輩は馬である』
本作品をおとりいただきありがとうございます。本作品は書きかけエタ作品大放出祭り作品です、更新、完結未定です!人気が出たら頻度が上がる……かも?
以上のご納得の上でお進みください。
吾輩は馬である……せめて、せめて人に転生したかった!
いつも通り月の残業時間が四十五時間を超えたものの既に六回、ひと月の残業時間が百時間を超えてしまっている。
退勤のタイムカードを押してお金にならない残業をして帰宅し、翌日は久し振りの休みだからとビールを飲んだところまでは覚えている。
気がつけば広い草原に産み落とされていた。
隣で横たわる大きな馬に顔から身体からくまなく長い舌で舐め回されて恐怖した。
いやね、怖いでしょ! 食べられるかと本気で思ったよ。
されるがまま舐め回されって、一通り舐め終わる頃にはどうやら子馬に転生してしまった事を理解した。
どうやら俺が生まれた群れは一際体格が大きい一頭の雄馬と俺の母馬を含む複数の牝馬、そして俺よりも少しだけ大きな子馬からなる所謂ハーレム家族だ。
どうやら生まれてすぐに目や耳などは聞こえるようで他の馬たちに守られるように群れの中央で出産した母馬の元に次々と他の牝馬が挨拶に来ているようだった。
「無事に産まれたのね、サーラは初産で心配だったけれどこれならすぐに動けるわね」
「ええ、ヨール……疲れているけれど、なんとかね」
「弟?妹?」
興味津々と言わんばかりに子馬が寄ってきてはぐりぐりと身体を寄せてくる。
「ふふふ、元気な弟よ? ほらそろそろ立ちなさい」
母馬はどうやらサーラと言う名前らしい。
自分の死因やら、孫どころか結婚すらしていない独り身の俺としては親よりも早く死んでしまうという親不孝をしてしまったことを前世の両親に心の中で謝罪しつつも、母馬……サーラに鼻先で臀部を下から押し上げられる感覚の顔面から草ちに前のめりで転ぶのではないかと恐怖でいっぱいだった。
しかも兄だか姉だか分からないがこちらも身体を擦り付けてくるもんだから勘弁してもらいたい。
もみくちゃにされながら何度も転び、うまく力が入らない足でなんとか立ち上がる。
多少足元がおぼつかないけれど、二歩三歩と歩くうちに足が思うように動くようになっていく。
どうやら生存本能が働いているのか、立ち上がったサーラの母乳を貰い兄や姉達の励ましの中四品の脚で草原を駆け回る。
「狼がこちらへやってきている! すぐに移動するぞ! ヨールいつも通り群れの中心で子等を囲いながらだ!」
ひときわ身体が大きな漆黒の巨馬が大きな声で嘶きながらこちらへと疾走してくる。
「大変! サーラ走れそうかい?」
「えぇ大丈夫よ」
どうやらヨールは牝馬の中ではリーダー的な役割を担っているようで、テキパキと少し離れた所にいた牝馬や子どもたちを纏め上げた。
ヨールを先頭に少しずつ速度を上げながら群れが移動を始める。
後ろを振り返れば最後尾で父親と思われる巨馬が襲い来る狼を蹴散らしながら追いかけてくる。
「お父さんは強いから大丈夫、あなたは逃げることに集中するの、前を向きなさい」
母馬、サーラ母さんに促されて前を向けば、既に一団となって走る群れから俺と俺に合わせて走るサーラは既に三馬身ほど引き離されてしまった。
なんでだろうか、嫌な予感がする……前世も含め俺は狼など見たことはない……俺の生きていた世界で俺が暮らしていた国では野生の狼は半世紀以上前に絶滅してしまったから。
後ろから追いかけてくる狼と時々左側から飛び出してくる狼達に吠え立てられて群れが右側へと流れていくのだ。
草原は既に終わり切り立った岸壁に沿って走っていく群れの先に見えた渓谷に否応なしに不安が募る。
「母さん! 何か変だ!」
「えっ!?」
「直ぐにヨールへ渓谷から離れるようにいって! 誘導されてる!」
既に渓谷の手前まで差し掛かっているヨールと俺達の距離は遠い。
「ヨール!! 罠よ!(キュイーン)」
甲高い嘶きをサーラが上げるけれど、渓谷を抜けてきた風音で掻き消されてしまっているのかヨールに声が届かない。
「くっ、ヨール!」
しかし最後尾を走っていた父馬には届いたらしく、追撃してきていた最後の狼を前足で蹴り飛ばしそれまでとは比べ物にならない速度で右手に見える渓谷に向かって単騎で駆け出した。
「うわぁ~はや!」
「そうでしょう、あなたのお父さんはこの辺りの群の中では一番の駿馬なのよ?」
逆光も逆風も物ともせずに駆けていく父馬の姿がどんどんと遠ざかる。
この勢いならなんとか渓谷へ入る前にヨール達に追いつくだろう。
ピィィイピィィイピィィイ
どこからか聞こえてきた甲高い音が響くとそれまで群を追い掛けていた狼が追従をやめて一斉に父馬を向かって駆け出していく。
「駄目だ!」
そちらへ気を取られた瞬間、物陰に隠れていたものが次々と飛び出してくる。
サーラよりひと回り小さな身体の馬の背中に乗った人間がその手に縄を持って追走し少しづつ距離を詰めてくるのだ。
サーラよりは小さいと言ってもやはり産まれて間もない俺の身体よりも大きい馬に幅寄せされれば恐怖が勝る。
「うわぁ!」
「この子から離れなさい!」
俺を守るように抗うサーラと人間たちの乱闘に巻き込まれ揉みくちゃにされながらも足だけは止めない。
そんな中、飛んできた縄が頭から首へと掛かり強制的に引かれたことで首が閉まった。
自分よりも大きな身体の馬が重石となってそれを無視して走り続けるほどの力はまだない。
「母さん、俺のことは置いていって!」
「そんなっ!」
こちらへと戻ろうとするサーラの首にも複数の縄が飛び交う。
「いいから行って!……俺を産んでくれて……ありがとう母さん」
まだ産まれてから一日と一緒にいられなかったのは残念だけど、それでもサーラだけは助けたい。
サーラの追手を減らすべく、俺は急停止を試みる。
追走するように走っていた騎馬は急停止に対応できず、騎乗していた人間を落馬させる形で進んだ。
落馬さえさせてしまえば人間一人くらいなら今の俺でも走りながら引きずり回す事は出来るはず!
「*****℃©‥’?”©|!?」
言っていることはわからないけど、まぁ多分止まれとか助けてくれとかそんなんだろう。
どうやらサーラを追っていた人間、取り敢えず狩人とでも呼ぼうか……狩人は仲間を助けることにしたのかサーラを諦めてこちらへと追走してくる。
群がどうなったのかは気になるが、無力な俺に出来ることなどたかが知れている。
狩人達を少しでもサーラから引き離すことだけ考えてひたすら走る。
どれほど走ったかわからなくなった頃、俺はとうとう狩人達に捕まった……
本作品をお読みいただきありがとうございます。エタ覚悟で読み勧めた貴方は作者の勇者です!
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