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じゃけぇ  作者: 転生新語
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 四月になり、弟は中学三年生となっている。その弟を連れて、私は花子さんとの同棲を開始した。同棲は(あと)、一年は待とうと思っていたのだが、「俺に気()(つか)んで(なくて)もええ(もいい)」と弟が言ってくれたのだ。ありがたかった。正直、もう私は早く(みんな)で暮らしたかったのだから。


「ようこそ、君が弟さんね。これから仲良くして行きましょう」


 花子さんが住んでいるマンションは、事前に知らされていた通り、部屋が広かった。その部屋に住む事になった私と弟が、彼女に挨拶(あいさつ)する。弟と花子さんは初対面であった。


「本当に広い部屋ですねー。花子さんの(いもうと)さん達が居ても、()(あま)してたって意味が実感できました」


 弟は照れているのか何なのか、ろくに口を開かない。取りなすように、私がそう言った。


「私が広島に、東京から越してきたって言ったでしょ? 私は長女なんだけど、以前から次女が広島で働いていたのよ。それで私が、次女に連絡して、『家賃を折半(せっぱん)するから、一緒に、もっと広いマンションに住まない?』って提案したの。元々、仲も良かったから承諾(しょうだく)して(もら)えたわ」


 弟への説明も()ねて、あらためて花子さんが話してくれる。ちなみに花子さんは三人姉妹で、一番下の妹さんは、私と同年代だ。その三女も今、広島の大学に通っている。三人姉妹と私は、(すで)に何度も会って仲良くなっていた。


「姉妹で仲が良いって素敵ですね。それで一緒に、広島に居るんですから。(うらや)ましいです」


「その分、両親とは上手く行かなくなっちゃったけどね。貴女(あなた)も弟さんも、御両親(ごりょうしん)とは仲が良かったんでしょう? 私は私で羨ましいな」


 花子さんは長く東京で暮らしていた。その東京で、花子さんは最後まで御両親との関係を改善(かいぜん)しようと(こころ)みたようだ。そして両親から冷たく(あつか)われた長女の花子さんは、二人の妹さんからは逆に(した)われるようになった。若い世代の妹さん(たち)(へん)(けん)からも自由だったのである。


「私も弟も、そして花子さんにも(つら)い事はありましたけど。でも、あえて言います。きっと私達は、()()()()()()()()()。だって今、こうして一緒になれたんですから」


 きっと同性婚は、まだ日本では当分、(ほう)整備(せいび)は進まない。花子さんの両親の偏見は無くならないかも知れない。私達を(かこ)む偏見というものは長く続くのだろう。


 私の両親が生きていてくれたら良かったと思う。私を拒絶したとしても、それでも私は、ただ両親に生きていてもらいたかった。その(のぞ)みは(かな)わない。


 それでも私には弟が居た。両親が亡くなった後も生き続けようと思える理由、()に見える存在(そんざい)。弟が居たから、私は花子さんと出会うまで生き続けられた。そして今、これからの人生に私は希望を持っている。生き続けて行きたいと心から思える。


 両親が弟を(のこ)してくれた。私を()かしてくれた愛が、弟という姿で(そば)居続(いつづ)けてくれたように私は思う。だから(じゃけぇ)私は、弟にも花子さんにも愛を返し続けて生きていく。


「愛してます、花子さん。勿論(もちろん)お前の事もね、弟くん。じゃけぇ(だから)、これからもよろしくお願いします」


 つい広島弁が出てしまった。花子さんの妹も広島弁だし別にいいか。弟は相変わらず(だま)ったままで、花子さんは思いっきり()れていた。ただ素直な気持ちを伝えただけなのにな。


「……若いって(すご)いわ。できれば明日の式も、そんな(ふう)に、お願いね」


 そう花子さんが言う。私達は明日、小さいながらも結婚式を(おこな)う。式には弟と、花子さんの妹達が来てくれる。広島にもLGBT()けの結婚式ができる場所はあるのだ。ついでに言えば、憲法上、日本で同性婚は禁止されていない。


「付き合い始めの頃、ファミレスでのデートで、私の頭を()でてくれた事を覚えてますか花子さん。あの時、言ってくれましたよね。『世の中は悪い方に変わる事もあるけど、でも少しずつ、良い方にも変わる』って。その通りだったなぁ」


 私が顔を真っ赤にして、花子さんに頭を撫でられた、あの二〇二〇年末のデートから()もなくの事だった。二〇二一年の初め、広島市ではパートナーシップ制度が開始されたのだ。私達のような同性カップルも、ある程度の行政サービスが受けられるようになった。


 好きな同性(ひと)と幸せになる事。それが社会から受け入れられるようになってきたようで(うれ)しい。でも、まだ全然、異性同士の結婚みたいには行かない。私は太々(ふてぶて)しく、もっともっと幸せになっていこうと思う。


「来年のG7(ジーセブン)は、日本で行われるわね。広島が候補地の一つになってるらしいわよ、岸田首相の故郷だし。広島から日本が変わっていくかもね」


 そう花子さんが言う。私に難しい事は分からないが、来年、G7という先進国首脳会議が日本で行われるそうだ。今年は広島への原爆投下から七十七年目で、新しい時代に向けての(はな)()いが行われるには良い時期かも知れない。どうか同性愛者の権利に付いても話し合われますように。

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