表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
じゃけぇ  作者: 転生新語
4/6

 花子さんに泣かれて、一緒に私も泣いて。花子さんと私は、恋人同士となった。


 私に取っては初めての恋愛である。そして私は、もう婚活はできないと(さと)った。好きな女性(ひと)が居るのに、他の男性と結婚するのは無理だ。何より『お母さん』に怒られてしまう。


 お付き合いは慎重(しんちょう)に進めていく事にした。花子さんは以前、東京での恋愛で失敗していて、いわばリハビリ期間中であった。私は私で、まだ中学生の弟が居る。いずれ弟も()れて花子さんと同棲(どうせい)するにしても、せめて弟が高校生になるまでは待とう。花子さんとの話し合いで、そういう事になった。


(わり)と長く住んでて、悪口みたいな事は言いたくないですけど……広島で同性愛者って、肩身(かたみ)(せま)いと思いませんか。花子さん」


「私が越してきたのは最近だから、何とも言えないけど。東京よりは、そうかもね」


 ある日のデートで、そんな会話となった。自分でも分かっているのだが、私は花子さんに(あま)える事が多くなっていた。年齢差があると、そうなってしまうのだ。むしろ『ママ』と呼ばない私を()めてほしい。


中途半端(ちゅうとはんぱ)なんですよ、広島って。そりゃ人口は百万以上で、中国・四国地方で最大ですよ? でも東京より閉鎖的(へいさてき)だし、香川県みたいにレインボー映画祭も無いし」


 要は同性愛者に向けた、定期的なイベントなどが無いのだ。それが私には不満だった。


 百合マンガもアニメイトくらいでしか買えないのではないか。これからもアニメイトには頑張(がんば)って欲しいものだ。私は心から応援している。


「分かってるわよ。弟さんの事が心配なんでしょう?」


 微笑(ほほえ)みながら花子さんが、私をなだめてくれる。その通りだった。私は異性との結婚を(あきら)めている。それはつまり、普通の夫婦なら受けられるはずの法的な制度が、受けられなくなるという事だ。具体的な事態は分からないが、経済的な不利益で、弟に被害が(およ)ぶ事を私は恐れていた。


「心配しすぎよぉ。弟さんだって、いつかは(ひと)()ちするんだから。大丈夫、大丈夫」


「でもぉ……」


 まだ私は駄々(だだ)をこねる。花子さんは笑って、(さら)に核心を()いてきた。


「そんなに弟さんと、離れたくない?」


 自分の顔が()()になるのが分かる。私はファミレスの(つくえ)の上で、()()した。


「もう、やだぁ……花子さんの馬鹿(ばか)ぁ……」


「よしよし。大丈夫よ、大丈夫」


 花子さんが私の頭を()でてくれる。()じらって動けない私は、店員さんが来たら変に思われるだろうなぁと思いながら彼女の愛撫(あいぶ)を受け入れていた。


「世の中はね。悪い方に変わる事もあるけど、でも少しずつ良い方にだって変わるの。私は、そう信じてるわ。だから大丈夫、大丈夫」


 本当だろうか。私と弟は幸せになれるのだろうか。そんな事を考えた、二〇二〇年のデートであった。




 二〇二二年、同性愛者に不寛容な国がウクライナに侵攻した。ウクライナという国にはLGBT、つまり同性愛者などの人が多いそうだ。周辺国が、性的少数派(マイノリティー)に不寛容なため、流れ着いたらしい。そういう話を私は花子さんから聞いた。


 そのウクライナも、決して同性愛者の楽園という訳ではない。あるいは楽園など、何処にも存在しないのかも知れない。その侵攻があった年、私は二十二才になっていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ