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じゃけぇ  作者: 転生新語
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 結果から言うと、二〇二〇年、私の婚活は大失敗に終わった。何で?と当時は思ったものだ。


 こちらが突き付けた、条件が悪かったのかも知れない。私と結婚するなら、弟とも同居してもらうと言っただけなのだが。それと弟の学費も全額、負担してもらう。これが絶対条件だ。


 とある男性からは、「俺と弟と、どちらが大切なんだ」と聞かれて、「弟に決まっとる(てる)じゃろう(でしょう)」と答えたら交渉を打ち切られた。謎である。私の弟は世界一なのだから当然ではないか。


 あるいは野球の話で盛り上がれなかったのが原因かも知れない。私は東京出身なので、応援するなら巨人であった。そもそも私は野球に大した関心も無い。


 結局、私は弟(ばな)れが出来(でき)なかったのだ。いずれ弟が成人して、私から離れていくのは分かっている。だからこそ、今だけは弟と一緒に居たかった。なるほど、こんな事では婚活が上手く行かないのも当然だろう。


 当時は婚活の敗因が分からず、何が悪かったのかと自問(じもん)していた。弟によれば、「姉ちゃんの頭が悪かった」という事らしい。言いながら弟は何処(どこ)か、ホッと安心した表情だった。


 弟から馬鹿にされるやら、()()か安心されるやらで私は婚活から一旦(いったん)、手を引いた。弟が中学を卒業するまでには、まだ三年の猶予(ゆうよ)がある。私は現実(げんじつ)逃避(とうひ)()ねて、アプリで()()う同性の友達を探し始めた。


 ややあって、『花子(はなこ)さん』というハンドルネームの女性と、ネットを通して私は意気投合(いきとうごう)した。アニメやゲームの話、お互いに同性が恋愛対象だという話を()て。私と花子さんは直接、会う事となった。時期は二〇二〇年の後半である。




「若いわぁ……犯罪的な若さだわ」


 初対面で、そう言われた私は何だか面白くて、花子さんの容姿(ようし)を見つめながら目を細めた。年齢は私より十才、上だ。東京の言葉で話していて、それが私には(なつ)かしく(ひび)いた。()()いた服装で、大人(おとな)びている。メガネが似合(にあ)う、知的な女性だった。


「広島弁じゃないんですね、花子さん。ああ、本名は別でしたっけ」


「うん、広島に()したのは最近だから。いいわよ、花子さんって呼び名で。私、本名が好きじゃないから」


 声がいい。ずーっと()き続けていたいと思った。私は嫌われるんじゃないかと思って、つい東京の言葉で話していた。広島弁は他県の人間に、きつく聞こえやすいのである。


 ファミレスで親睦(しんぼく)を深めて、その後も私達は、何度も会うようになった。少しずつ、互いの家庭環境に付いても話していって、花子さんが東京の両親と不仲だという事も知った。


今時(いまどき)、東京じゃ同性愛者なんか珍しくもないのにね。私の両親は、実の娘が()()()()()事を認めたくないみたい。他にも人間関係で上手く行かなくてね。で、こっちで働く事にしたの」


 花子さんは詳細(しょうさい)を語らなかったが、上手く行かなかった人間関係というのは、恋愛方面だったらしい。彼女は彼女で、新しい恋を求めていたのだった。


 私も少しずつ、亡くなった両親の事や、一緒に住んでいる弟の事を花子さんに話した。将来の不安から、婚活に挑戦して敗北した失敗談(しっぱいだん)もだ。花子さんは親身(しんみ)に聴いてくれた。


「私は、貴女(あなた)が婚活に失敗してくれて嬉しいな。婚活に成功してたら、今、こうやって出会えてないだろうし」


「不純な動機ですよねぇ、弟の学費の事しか考えてないんですから。今は仲良く話せる人が()しいです」


「いくらでも話なら付き合えるけど、私でいいの? 十才、上よ。貴女には年寄りすぎない?」


「花子さんがいいんです。年齢だって、その……」


 これを言っていいのか迷ったが、私は続けて()げた。


「……私の、お母さんに近くて。事故で亡くなった時の年齢が、ちょうど、花子さんくらいだったから」


 花子さんを初めて見た時、雰囲気が、母親に似たものを感じた。そう自覚した時、私は彼女と長く一緒に居たくなっていた。これも不純な動機というものだろうか。


 急に目の前で、花子さんが泣きだす。(くも)ったメガネを彼女が(はず)す。傷つけたのかと思って私が(あわ)てていると、正面から()きすくめられた。


「いいのよ……いいのよ。『お母さん』でも『ママ』でも、『花子さん』でも、好きなように私の事を呼んでね……」


 泣きながら彼女が言う。私は失敗した婚活を思い出して、私のために泣いてくれた男性は一人(ひとり)も居なかったなぁと考えていた。

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