幼馴染キャラとの再会
「こんの馬鹿凛がぁあああああああああ!!」
凛一は竜輝に背負われ全速力で移動し次の日の昼には城に戻る事ができた。
そして客間に通され、いきなり殴られた。
「あんたあたしの特徴でバカな事言ったでしょ! なんで本人確認で風呂上りに裸で家の中ウロついてるかとか毎年正月の度にモチ食べ過ぎて太っては春にダイエットしてるかとか聞かれなきゃいけないのよ!」
ライオンのように吠えて怒るパイナップルのような頭をした女子は凛一のマウントポジションを取りさらに殴る。
釣り目の気の強そうな女子で黙っていれば普通に美人なのだが性格に難があり過ぎである。
凛一と同じような制服を着た彼女の名は古友鈴華、凛一の家の隣に住む幼馴染で夏休みでも毎朝彼女に起こされるのが凛一の日課であった。
「いや、間違って同姓同名の子が保護されたらややこしいからさ……」
「ん? 何よ凛一、ずいぶん元気ないじゃない?」
「……うん、まあな」
「うおー! 凛一が女の子押し倒されているぞ!?」
「いや、あれは馬乗りで殴られているんだ、あの状態から抜け出すのは難しいぞ」
「どのみちろくな状態じゃないわね」
事後報告をしていたエリス達が部屋に入ると鈴華が固まり、爆発した。
「何なのそのおっぱいオバケはぁあああああああ!!」
何故か凛一が殴られた。そろそろ死ぬかもしれない。
「ちょっとあんたやめなさいよ、凛一死んじゃうでしょ」
「あんたこのおっぱい女と知り合いなの!? どういう関係よ、うわぁーん、やっぱり男なんてみんなおっぱい星人なんだぁあああああああああ!!」
一人でまくしたてながら狂戦士のように殴り続ける鈴華、凛一の魂が高速で昇天する。
◆
「ふーん、桜ちゃんが魔族にねー、それこそ漫画みたいな展開ね」
「この世界そのものが漫画みたいなもんだけどな」
客間には凛一と鈴華の二人だけ、エリス達は城で用意された宿泊室へ戻り明日の戦いについて話し合っている。
「でもほんと、桜の首飾りが魔剣の欠片なんて漫画みたいな展開だよな」
桜の首飾りの赤い石が魔剣の欠片、にわかには信じられない話だが、実はその首飾
りは凛一が子供のころに手に入れた石を桜にあげて、それを首飾りにしたものである。
ちなみにどうやって手にしたのかというと旅行先で見つけた洞窟の中を探検していて全てのパズルを解いて最深部へ行き取って来たというトンデモない来歴がある。
「ガキの時にあの石あげてなきゃこんな事にもならなかったんだけどなー」
「今更言っても仕方ないし……でも凛一は助けに行くんでしょ?」
「鈴華……」
「あんたと何年付き合ってると思ってるのよ、妹の為に頑張んなさいよお兄ちゃん」
グッと親指を立てていい笑顔を見せる幼馴染に元気をもらい、凛一は鈴華の両肩に手を置いた。
「鈴華、お前ってほんとガサツで暴力的で料理壊滅的だけどいい奴だな」
「とっととあんたも作戦会議行ってこいやぁああああああああああ!!」
マッハの拳で部屋の外まで殴り飛ばされ、凛一は竜輝の拳を思い出した。
◆
「やっぱりあたしは凛一連れて行くのには反対よ」
エリスに当てられた部屋で三人はイスに座って凛一の処遇をどうするか議論していたが、エリスは凛一の参戦に反対し続けた。
「でもよお、桜ちゃんの顔知ってるのあいつだけだぜ?」
「そんなの見れば分かるでしょ、特徴は知ってるんだし、あいつらと一緒にいる人間に名前聞けば一発よ」
「だが凛一はこれまでも俺達についてきたし自分の妹を救う戦いならば桜崎凛一が参戦しないわけにはいかないだろう、それこそ凛一の誇りに関わる」
「あのねえ竜輝、確かに凛一は今まで死なずにいたし凛一の知恵には随分助けられたわ、だけど凛一は魔族に心を許している。
あまりこんな事は言いたくないけど、参戦どころか精神病院に入ってもいいくらいよ、第一今度はきっと相手もほんとに本気、最大戦力で待っているはずよ、そんなところにちょっと知恵が回るだけの一般人なんて危険すぎるわ」
「そうか? オレ様は凛一が一番必要な気がするけどな」
「それは凛一が魔族達に気に入られているからか?」
セイルの意外な意見に竜輝が問うとセイルは即答する。
「それもあるけど、オレ様達じゃ仲良し四天王にゃ勝てねーよ」
「どういう意味よそれ、言っておくけどあたしはあんた達の強さは認めているわ、ええ、二人ともそこらの勇者なんか足元にも及ばない強さよ、ならあたし達三人こそが今一番勝率の高いパーティーじゃないの?」
「そうか? 少なくともオレ様は人種差別の激しい勇者に隊長が務まるとは思えねーぜ」
「なんですって!」
エリスが立ち上がり、テーブルを叩いた。
「あいては魔族なのよ! 神に仇なし人類を滅ぼす生きた災厄、なんの躊躇いもなく神殿や寺院を焼き払うなんてまともな人種がする事じゃないわ!」
「神様に頼って生きるなんてロクなもんじゃねーよ、それとも戦争で人が死んでるのも神の思し召しか?」
「ストォオオオオオオオオップ!!」
エリスが剣に手をかけて、凛一が部屋に飛び込んできた。
「待ってくれよエリス、セイルだって悪気があるわけじゃないんだ、セイルはエリスの世界と違って神様がいない特別な世界から来たから神様を信じる気持ちが分からないんだよ」
「でも敵のゼノス皇国はゼノス神ていう神様信仰してんでしょ?」
「セイル、あれって偶像崇拝だよな?」
「ああ、印刷所で刷られた経典の内容や人間の教皇の言う事を鵜呑みにして神様の形に削り出した石を拝んでいるだけであいつらも神に会った事も話した事もねーぞ」
「エリスだって神様や天使のいない世界なんて信じられないだろ? それと同じでセイルは本物の神様や天使のいる世界が信じられないだけなんだよ、でもさセイル、オレ達の目の前にはこんなに綺麗な美少女天使がいるんだから、ファンタジー世界の神様は本物だって」
「ま、まあそういう事なら、別にいいわよ」
言葉巧みに二人を説得する凛一が喋り終わるとエリスも剣から手を離して椅子に座り、セイルはニカッと笑った。
「ほらな、やっぱり凛一は必要だろ?」
エリスは押し黙ってしまい、ぷいっと横を向いてしまう。
「わかったわよう、明日は凛一も一緒に月明かりの塔へ行く、これでいんでしょ?」
「サンキューなエリス、やっぱおっぱい大きい女は器も大きいな」
「ふふん、それほどでもあるわよ」
セイルに褒め言葉?に気を良くしてエリスは立ち上がって大きな胸を張った。
「では凛一、明日はお前の妹の救出作戦だが頑張り過ぎて空回りしないように気をつけろ」
「大丈夫だって、心配するなよ竜輝」
「ふっ、妹が心配で動揺しているかと思ったが、その調子なら大丈夫そうだな」
竜輝の言う通り、凛一は妹の桜が魔王軍に捕まったと聞いても取り乱す事は無く、魔王の正体を見て落ち込んだ時の状態を保っていた。
竜輝達はさらに落ち込むか慌てふためくと思っていたのだが、今の凛一はむしろ今までの落ち込みが嘘のように回復している。
「まあな、なんていうかさ、ルビさんなら桜に手荒なマネしないだろうし」
桜が誘拐された事を聞いても落ち込まなかった凛一は、ルビの名を口にすると寂しげな表情を浮かべた。




