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魔王参上

 その声にシグナが背後に視線をやると量産型アークが倒れ、影に隠れていたセイルの白いアークが姿を見せた。


『量産機じゃ足止めにもならなかったぜ、シグナ』

『おのれ……神を信じぬ者に神に仇名す悪魔に味方する者め、貴様らは何故……』


 言葉を切るとシグナは煙幕弾を地面に撃ち込み上空へ飛び上がる。


 煙が晴れて凛一達が天を仰ぎ見るとそこには空中で静止したままビームライフルを両手で構えた銃口をこちらに向けているシグナがいた。


 凛一の脳裏にルビの呪文を押し返したセイルのアークが思い起こされる。


 最大出力によるビーム攻撃、セイルやエリスが力を溜めている時間は無いしルビとマリは消耗しているし素手しか使えない竜輝は論外、ならば全力で回避を、凛一がそう考えた瞬間、その場の空気が突如深海のように重くなり全員の心臓が締め付けられたように苦しくなった。


 なんだこれは、なんだこの感覚は、そう思いながら全員が空に立つシグナよりもさらに高い天を仰ぎ見るとソレはいた。


 ソレの咆哮に大気が激震した。


 その巨躯はアークよりもさらに大きく、鋭い爪や牙は最強の聖剣(セラフブレード)並の存在感を放ち、太い尾や雄大な翼は一撃で城を砕きそうな印象を受ける。


 天を支配するのは漆黒のドラゴンであった。


 そのドラゴンが持つ絶大過ぎる魔力に全員の動きが止まっている。


 動けたのはただ四人だけ、


「「「「魔王様」」」」


 四天王が横一列に並んで座り、黒いドラゴンに一度頭を下げてからまた仰ぎ見る。


『そうか……これが悪魔王、ならばその首を討ち取りエレン教皇様への手土産に――』


 ガギンッ!


 ドラゴンが腕を一振りするとそれだけで赤いアークの左腕は肘から先を失った。


『なんの!』


 右手で高周波ブレードを持って斬りかかるが漆黒のドラゴンは左手で刃を直接受け止めるとそのまま握りつぶし、口を開いた。


 反射的にシグナは機体をひねったが間に合わず、ドラゴンの口から放たれた黒い光は赤いアークの右肩周辺を根こそぎ消し飛ばし、さらに口を開けなおした。


『クッ! 全員退避しろ!!』


 両腕を失い、ここまでの力を見せつけられては流石のシグナと言えど戦う気にはならない、もしもこれが互いのプライドを賭けた一騎打ちなら違っただろうが、今の彼は大部隊を任される指揮官である。


 魔王と戦い先に見えるのは全滅だけだった。


 残存兵も全てシグナが飛び去った方向へ逃げだし、カイナが召喚したモンスター達も虚空へと掻き消えていった。


 同じようにドラゴンが地上に降り立つとその巨躯が消え去り、ドラゴンの胸元の高さから黒い装束を着た少女が降り立ってその姿に凛一は言葉を失った。


 そこにいたのは紛れも無く世界が融合した時に湖で出会ったあの少女だ。


 尖った耳に長い銀髪と鮮血の(ブラッディレッド)の瞳、そこまで同じでありながら、だがあの可愛らしい顔は冷たく無表情であった。


 しかしそれも凛一の姿を見ると途端に暖かみを取り戻して、笑顔とはいかないまでも今までの金属染みた冷たさが無くなる。


「君は……」

「魔王ぉおおおおおおおおおお!!」


 魔王ノアルエイドが凛一に気付いた直後に空気の読めない子エリスが全力で斬りかかる。


 魔王殺しの剣で放つ全力の斬りをノアは左手一本で受け止め、右手でエリスの腹を殴打。


 エリスは撃ち出された弾丸のように後方へ吹き飛んで受け止めた竜輝ごと大木に激突してようやく停止した。


 倒れたエリスは嗚咽を漏らして竜輝に助けられながら剣を杖にしてなんとか立ちあがるがダメージはあまりに深く戦える状態ではない。


「そん……な……」


 エリスの視線の先に立つ魔王の手にはエリスが腰に挿していた魔剣エグゾディアスの片割れが握られている。


 あの一瞬で防御と攻撃と奪取を同時にやったというのか、おそらくは第二形態であろうドラゴンの姿を解除してもなおこの戦闘力、その幼い姿にはどれほどの力が眠っているのだろうか。


 四天王が魔王に走り寄るが凛一は止めずにそのまま叫んだ。


「待ってくれ! なんで君が魔王なんだ! だって君は……君は……」

「ノア様、あの少年が凛一です」

「え……」


 ルビの言葉に魔王ノアの目が驚きで一瞬見開き、そして凛一と視線を交える。


「聞かせてくれ、君は魔剣エグゾディアスを復活させてどうするんだ? リンドバルムの王様が言っていた人類を滅ぼすってのは本当なのか?」


 それはリンドバルム王の言葉であり、まだ魔族からその言葉は聞いていない、なのに、


「ごめんね凛一」


 目に涙を溜めたノアの悲しそうな表情に凛一の顔から血の気が引く、


「こうしないと魔族が人間に滅ぼされちゃうの、わたしは魔王だから、魔族の王様だから」


「ノアさま、実は」


 カイナがノアに耳打ちをするとノアの表情が穏やかなモノになって凛一に一礼する。


「わたしの家族を助けてくれてありがとう、凛一」


 その姿が余りに痛々しくて、凛一は全身の力が抜けるのを感じた。


 世界が融合して色々な戦いを経験してきた。


 今まではゲームや漫画といった疑似体験だった戦いを肌で感じてきたが、敵は狂暴なモンスターや大人の武術家達、そして今回の兵隊達だった。


 全員戦う為の存在で戦人同士が戦い殺し合っていた、四天王とは戦いたくなかったが、彼女達は自らの意思で四天王となり自らの意思で戦いを挑んできたし、戦いが終わったら傷つけず保護した。


 けれどカイナよりもさらに幼いその少女は……


「待ってくれ!」


 凛一が駆けた。


 竜輝が止めるよりも先に地面の草木が伸びて凛一に絡みつく、全身の筋肉を奮い立たせて引き千切ろうとするが叶わない。


「凛一、わたしは二日後の満月の夜に月明かりの塔で魔剣を完成させるわ」

「ノア様なにを――」

「大丈夫だよルビ、それに残りの欠片はさっき回収してきたから」

「おおおおおおおおおおおお!!」


 絡みつく草木を握る手から出血し、筋肉が千切れそうなほど力を込めて、魔王の魔力で育った草木が徐々に千切れていく、有り得ない光景に誰もが目を見張り、凛一が必死に手を伸ばした。


「…………」


 涙を溜めたノアの目が赤く輝き凛一とノアの間に巨大な岩の壁がせり出した。


 一瞬の間に築かれた壁はアークの身長を遥かに超えてようやく止まり、空を見上げるとカイナが召喚したであろうワイバーンに乗って四天王と魔王ノアが空の彼方へ飛んで行くのが見えた。


「なんで……あの子が……」


 リンドバルム王は四天王が魔王の娘を新魔王に据えたと言っていた。


 その四天王であるルビの話から魔王も少女である事は知っていたが、四天王同様に自ら進んで戦争をして戦っている可能性を考えていた。


 しかし、あの幼く弱々しい少女を見て分かった。


 あれは四天王が次期魔王を選んだのではなく、言葉の通り、四天王達の手で無理矢理魔王の座に据えられただけで、すなわち、



 ノアは戦争を望んでいない



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