ラブコメ主人公の実力
竜輝とエリスも参戦し戦況は一変した。
ゼノス皇国の兵士達はアークのパイロットを含め全員が勝利を確信していたが今は全員死に物狂いで戦い、それでもなお抗えず死んでいく。
突如として現れた異形の生物達に対応できず、混乱しながら銃を乱射しているあいだに喰い殺されたりドラゴンとアークの戦いに巻き込まれて踏み潰された。
アークが持つ科学の結晶であるビームライフルや高周波ブレードも最強のモンスターであるドラゴン達相手には楽勝とは言えず、というよりも動きに反応できていない。
アークのパイロットにもランクがあり、全てのパイロットがセイルやシグナのように体の延長として自由にアークを動かせるわけではなく、アーク同士の戦いなら問題ないが、人間を遥かに超える、まさに獣の動体視力と瞬発力で動くモンスター達相手には遅すぎる。
武装はどれも当たれば大きいが、動きが鈍くて細かい動きのできない二流パイロットの操る巨大ロボットは見た目ほどの戦力にはならなかった。
「やはり武器に頼り過ぎている。その程度で俺を倒すのは無理だな」
竜輝の素手が兵士達の防弾防刃性強化スーツを貫きヘルメットごと頭をカチ割っていく。
生身で戦闘用ロボを引き裂き銃弾は一発も当たらない。
「俺の体力は魔力と違って休めばすぐに回復する。手負いの相手と油断するな」
油断はしていないし、それ以前にどんな生物兵器よりも強靭な肉体を持った相手にどう勝てばよいのかと兵士達はゼノス神に問いながら恐怖して死んでいった。
「オリハルコンでできたこのセラフブレードに斬れないモノなんてないわよ(ガノンダルヴァの体は斬れなかったけど……)」
エリスは知らない事だが巨大ロボ、アークの装甲に使われているSF世界最高強度を誇るアークリューム合金には強度ごとに三段階種類あり、今戦っている量産型アークの装甲にはレベル一、セイルやシグナの乗る特別専用機の装甲にはオリハルコン並の強度を持つレベル三のアークリューム合金が使われている。
量産型アーク達は片足のヒザ裏に深い切り傷を付けられ自立不能に陥っていく。
『残念だが地上の戦況が思わしく無いようだ』
セイルと高周波ブレードで鍔迫り合いをしていたシグナは後ろへ引きながらビームライフルを撃って距離を取ると地上へ向かって重力を利用した超加速降下を実行してセイルは慌ててレールガンでシグナ専用機の背中を狙うがシグナがかわせば地上にいる凛一達に当たるかもしれず、ヘタに撃てなかった。
それがシグナの狙いだったのだろう、止む追えずセイルも地上に降下を始めるがタイムラグの分シグナのほうが圧倒的に速い。
「ふふふ、そのような機械人形ごときでわたしの召喚獣を倒そうなどと――」
『貴様が諸悪の根源か悪魔の子よ』
「!?」
カイナが振り向くとシグナの赤いアークが大剣を振り上げていた。
他の四天王が気付いて逃げるよう叫ぶが間に合わない。
そのまま振り下ろされた巨人の一撃は、だが当たらず、シグナのブレードは地面に深い爪痕を残しただけでカイナは無傷だった。
「死なせてたまるかよぉおおおおおおおお!!」
「お兄さま!?」
カイナを抱きあげ走る凛一の姿にシグナは目を奪われた。
身長一〇メートルの巨人が高速で大剣を振り下ろす最悪の危険区域、そのような場所にあの少年は駆け込んだと言うのか、それもたった一人の少女を助ける為に……否、少女に非ず、少年が抱きあげ救ったのは紛れもない悪魔の子なのだと、シグナは眉間にシワを寄せた。
『その悪魔を渡せ!!』
シグナの赤いツノ付きアークの両手に握られた銃が吠える。
レールマシンガンとビームライフルの死の洗礼が迫る中、それでも凛一はカイナを離さず全力疾走のまま右へ左へと避け続けた。
確かに巨大ロボットであるアークは同じアークや戦車といった兵器や施設破壊が用途であり、その武装は小さな一個人を殺すのには向いていない。
それでも人一人を抱えた者のスピードとしては凛一の足の速さは異常であり、疲れた様子も無い。
『そこまでして悪魔の味方をするか少年よ! いいだろう、ならばゼノス神に代わり私が断罪してくれる!』
シグナは銃を背中に収めて高周波ブレードを握る。
モンスターとアーク、それに戦闘用ロボや武装した兵士が入り乱れる戦場を駆け抜ける凛一へさらに追い打ちをかけるようにシグナのアークが襲いかかり、だがやはり凛一は全ての攻撃をかわし、それどころかシグナ専用機の足元にまとわりついて離れない。
『な!? このちょこまかと!』
地団太を踏み、足元を殴り、剣で斬り、飛び散る地面や欠片に体を打たれながら、一撃当たっただけで即死の必殺地帯の中で凛一は闘牛を相手に戦うマタドールのようにかわし続けた。
大質量の手足の動きからくる暴風と圧迫感、常人ならば腰を抜かすか気を失っていいような状況で、一介の学生は少女を腕に抱えるハンデを持ちながらゼノス皇国軍最強のエースパイロットを完全に翻弄していた。
『ええい悪魔に魅入られた者め! いつまで逃げるつもりだ!?』
「そういうてめえはいつまで女の子いじめる気だ!?」
『女の子? 邪悪なる悪魔をいたいけな少女として守る気か!?』
「何が邪悪だ! こいつはただ大好きな魔王や友達の四天王と一緒にいたいだけの女の子じゃねえか!!」
『その尖った耳を見ろ! 人間ではないのだぞ!』
「うるせえ! 魔族だろうが人間だろうが大の大人が小さな女の子をイジめている! その事実は変わらねえだろ!? 襲われている女の子がいたらそれがどんな子だろうが助けるのが男ってもんだろ!! てめえは男のくせにそんな事も分からねえのかよ!?」
『だまれ邪教徒!!』
あくまで魔族に味方する凛一にシグナから普段の紳士さは消え失せ、燃え上がる怒りに身を任せて凛一を蹴り飛ばそうと足を振るう。
さすがの凛一も体力が限界だったのか、避けた拍子に転んでしまう。
『ゼノス神様に逆らう者に断罪を!!』
振り下ろされたブレードは今度こそ凛一を殺せるはずだった。
だが今度もまたブレードの刃は届かない、
「凛一、アンタ最高にかっこいいわよ」
「さっすがボクが見込んだ男だね」
「カイナちゃんの為にありがとうね」
消耗しきった体でマリが魔力シールドで、レーネが拳で、ルビが剣で、三人で強力してシグナの一撃を防いでいた。
『凛一! やっぱお前最高だぜ!』
その声にシグナが背後に視線をやると量産型アークが倒れ、影に隠れていたセイルの白いアークが姿を見せた。




