巨大ロボットSF主人公 セイル・ファンバー
酷い国だった。
ゼノス皇国との戦争で国は荒れているだけでなく、その国では年端もいかない子供たちが戦争の道具にされていた。
全てはお賢い上層階級の連中が大金をかけて優秀な兵士を作るより、食べ物で釣った欠食児童達に銃を持たせたほうが遥かに低コストで多くの戦火を上げられる事に気付いたのが原因だった。
戦場で親を失った子供達は食べ物の為に人を殺した。
街での喧嘩と違い、戦場で必要なのは腕力や巧みさではなく、そして速さでもなかった。
殺すという行動に如何に早く移れるか、速さではなく早さ、弾があれば引き金を引き、弾が無くなればナイフで首を掻き切る、ナイフも無ければ指で眼を潰し相手の武器を奪って殺す。
勘違いしてはいけない、必要なのは人を殺す勇気なのではなく、人を殺す事に何も感じない心である。
少しでもためらった子供や、勇敢に敵に立ち向かった子供は全員死んだ。
そんな優しさや勇猛さなどという幻想は戦場ではなんの役にも立たないのだ。
だが、そこまでしても子供達がもらえる食糧は少なく、大人達はたくさん殺せばもっと食べ物をやるといつも言っていた。
だが、少女達は男のセイルよりも多くの食料を貰っていた。
少年兵が集められたキャンプでは国の兵隊達が少女達を輪姦していたからだ。
汚らわしい大人達に体を許せばお腹いっぱい食べられると学習してしまった少女達は毎日のように汚されていった。
だが、少女達の中で一番年上で、十代中頃に差し掛かっているファナは違った。
彼女は自分の貰った食糧を死んだ弟に似ているという理由でセイルに全てあげていた。
子供ながらにセイルはファナがどのようにしてその食糧を手に入れたか知っているし、その行為がどのような意味を持っているかも知っていた。
それでも、セイルは断ってもファナがその食糧を自分で食べず、また別の子供にあげてしまう事を知っていたし、自分の為に手に入れた食糧ならば自分が食べなければいけないと思い、泣きながらファナがくれた食糧を食べた。
その優しさとセイルが物を食べる時に見せてくれる笑顔があったからこそ、セイルはどれだけ無感動に人を殺しても人から外れずにいられたと思っている。
だが、セイルがおそらくは一二歳を迎えたであろう頃に戦場が爆発した。
大規模な空爆を行ったのか、大きなミサイルが落ちたのか、セイルにそんな事は分からなかった。
それでも炎の海の中で眼を覚ました時には同じ少年兵達の死体がそこら中に散らばっていて、いくら探してもファナの姿は無く、生きているのか死んでいるのかも分からなかった。
「クソッ! クソッ!! クソッ!!! クソォッ!!!!」
銃を持って空を飛ぶゼノス軍の戦闘機に向かって乱射した。
無感動に引き金を引いて人を殺してきた少年は、大切なたった一人の人が見つからない事で最後の最後に涙を流し、喉が裂けそうなほどに叫び銃を撃ち続けた。
「返せ! 姉さんを返せ! 返せ! 返せっ! 返せぇえええええええ!!」
そんな子供の抵抗も一発のミサイルで終わりを告げた。
次にセイルが眼を覚ました時、彼にかけられた言葉は次のようなものだった。
「我々はどこの国にも属さない独立軍事組織ブレイブ、あの戦場で助けられたのは君一人だがそんな君に質問だ。
戦場に帰る意思はあるかね?」




