弾丸をつかみとる格闘家
『よし、ほんじゃもう一発いくぜ!』
セイルが再び対人兵器を撃ちだした。
その時、アークの高い視点から戦場を見下ろすセイルは軍勢の奥から一際巨大な男が進み出て他の武術家が道を開けているのを見つけた。
『なんだあいつ?』
そんな事はお構いなしに降り注ぐ鉄の雨にまた多くの武術家が倒れて人陰が無くなる。
っが、その中でただ一人、その奥から進み出てきた男だけは拳を突き上げた姿勢のまま立っている。
死してなお立ち続けているわけではない、男がゆっくりと手を開くと降り注いだ弾丸がバラバラと地に落ちた。
男は全ての弾丸を手で掴み取ったのだ。
『くそ! フザけんじゃねえぞ!?』
セイルは悪態をつきながら電磁投射機関砲を一発撃ち込み、そして絶句した。
「ぬおおおおおおおおおおおおおっっ!!」
受け止めた。
対人兵器用の小さな弾丸とは比べ物にならない、巨大ロボット・アークが使用する銃の大砲のような大きさの弾丸を右の手の平で受け止め、なお男の足元は微動だにしなかった。
「ほお、異界の大筒とはかくも強きものか、だが、足りぬな」
まるで地の底から響くような重い声にセイルはアークの中に乗っていても軽い恐怖を感じた。
男は掴んだ弾丸を掴む腕を大きく振りかぶり、
「返すぞ」
弾丸を投げ返した。
バンッ! と空気が破裂する音がして彼の手から放たれた弾丸は凄まじい勢いで飛び出し一瞬でアークに直撃した。
咄嗟に腕でガードしたがその衝撃にセイルは驚愕した。
武器の歴史は飛び道具の歴史だ。
より遠くからより強い一撃を、その一念で長い槍を筋肉で投げるのをやめて張力を使った弓を作り、火薬の爆発力で鉛玉を飛ばす銃を作り、そしてついに科学が絶頂を極めたセイルのSF世界では電気力で弾丸を飛ばす電磁投射砲が発明され、数キロ先からマッハ五以上の速度で目標を殺せるようになった。
なのにあの男は最も原始的な筋力による投擲で最新科学兵器並の威力を生みだした。
異世界同士が融合して、自分達の常識が通じない異世界に多少は慣れたつもりになったセイルだったが今の現象には驚きを隠せなかった。
だが、それでも、
『いいぜ! おもしろくなってきたじゃねえかよアクション野郎!』
驚きはしたが恐怖は無い、むしろ燃え上がる魂に体を震わせながらセイルは銃を収めて高周波ブレードを抜き構えた。




