格闘技無双
「おいちょっ、竜輝!」
「せいやぁああああああああああああ!!!」
竜輝が亀型モンスターの頭を殴るとそれだけでモンスターの頭がグラつき、足がフラついた。
「憤っっ!!」
着地後、間髪いれずにモンスターの太い足に回し蹴りを見舞い、宮殿の柱よりも太い足から骨が砕ける音がして蹴られた部位の皮膚も抉れて血が噴き出す。
たまらず亀型モンスターは地面に腹這いに倒れ伏すが竜輝はなおも止まらずそのままわき腹、つまりは甲羅の部分に正拳突きの構えを取った。
「喝っっ!!」
まるで隕石でも落ちたような轟音が唸り、モンスターの甲羅は大きくひび割れ、口を大きく開いてけたたましい鳴き声と血を吐きだし息を引き取った。
竜輝が殴った瞬間モンスターの体が浮きかけた気がしたが凛一は見なかった事にした。
「……あれ、肉体強化呪文かけてないんだよね?」
『……あいつ、遺伝子操作受けてないんだよな?』
「それやればあんな事できるのか?」
冷や汗を流すエリスとセイルは凛一の問いに顔を横に振った。
『「無理無理」』
一〇〇キロも無さそうな竜輝が一〇〇トンはありそうな化け物を肉弾戦で倒す。
ボクシングの体重制の存在価値が消えそうな光景に凛一も乾いた笑いを出す事しかできなかった。
先週までの平和な日常と湖で会った少女の無垢な笑顔がなつかしい。
「全員無事か?」
「ああ、でも凄いな、あんなでかい化物相手に怖くないのか?」
「なに、故郷の大和でも山に住む大蛇や大猪、それに山の主である白狼や山熊と戦ってきたからな、あの程度の猛獣と戦うのは容易い」
きっと竜輝が言った獣は全部恐竜のようなサイズなのだろうと思いながら凛一はそんな猛獣を倒してしまうアクション世界の非常識さに呆れるばかりだった。
「そういえば、もうすぐ村が見えるはずなんだけど」
エリスは背中に天使の翼を顕現させると宙を舞い、アークの頭より高い位置で一方向を眺める。
「あったわ、もうしばらく歩けば……大変、人が倒れてるわ!」
みんなもすぐに来て、と付けくわえてエリスは羽ばたき飛んで行く。
すぐにと言われて凛一達も走って後を追う、と言っても必死なのは凛一だけで巨大ロボに乗るセイルと超人的な体力を持つ竜輝は涼しい顔だった。
凛一が到着するとエリスが仰向けに倒れた少年に回復魔法を必死にかけていた。
服装から察するにファンタジー世界の住人だろう、だが少年が起き上がる事は無く、エリスは顔を伏せて回復呪文を使うのをやめた。
「手遅れだったか」
竜輝も下を向く、竜輝自身にはなんの罪も無いが、やはり目の前に子供の死体があるというのはそれだけで人を悲しい気持ちにさせる。
凛一も見知らぬ子供の死体を見て何故この子が死なねばならなかったのかと自問した。
「この先の村に褐色の肌の男達が来て村を襲っているらしいわ」
立ちあがり振り返ったエリスの目は潤み、涙がこぼれそうになりながらも強い戦意に満ちていて、普段の子供っぽい表情は無い。
凛一は女である事を理由にエリスの参戦に抵抗があったが、こういう姿にやはりエリスは女である前に人々の平和を望む勇者なのだと実感させられた。
「行くわよみんな!」
「ああ! 悪党退治に向けて勇者パーティー出動って……え?」
エリスは一番移動力の低い凛一を左腕で小脇に抱えると超高速飛行で飛び出し村へ向かう、同じ速度で竜輝とセイルのアークも走り、そして凛一は安全規定完全無視のジェットコースターに悲鳴を上げた。
「おぉおおおおおおろぉおおおおおおおしぃいいいいいいてぇえええええええええ!!」




