格闘技アクション主人公 神谷竜輝
肉体の可能性を極限まで極めたとある世界のとある時代、その世界の東の果てには大和と呼ばれる島国があった。
征夷大将軍の跡継ぎ問題から始まった戦は国中に広まり戦乱の世で多くの武術家達が命を落とした。
大和中の武術家達が鍛えた拳を故郷と主君の為に使い、そして長い年月の果てに全ての戦が終わり、戦場には一人の少年が歩いていた。
今の時代には珍しく無い戦争孤児である。
「名前は?」
優しい笑みを浮かべた三〇歳ほどの男性の問いに少年は答えなかった。
怯えている様子はではないがただ無表情のまま下を向いてしまう。
「ご飯が食べたいならついてきなさい」
それだけ言って男性は振り向き歩きだす。
お腹の減っていた少年も男性の背中を追って真っ直ぐに、自分の足で歩き出した。
◆
「竜輝、どうして泰助を井戸桶で殴ったんですか?」
師匠の背中を追って数年後、少年は師匠から竜輝という名前をもらっていた。
そして師匠である神谷喜助はかなりの変わり者で戦争孤児を拾ってきては自分の子供にするクセがあった。
そのため竜輝は一一男一五女兄弟の一〇男坊で上から一九番目の子供として神谷竜輝と名乗っていた。
「だって師匠、泰助兄ちゃんが俺の饅頭落として踏んで転んで俺を突き飛ばして井戸に落としたんだよ、悪いの泰助兄ちゃんじゃん」
「そうじゃありません、私は何で井戸桶を使ったのかと聞いているのです」
「……殴ったのはいいの?」
「当たり前です、そんな事されたら私なら必殺技の一つも喰らわせます」
必殺ってそれじゃ必ず殺しちゃうじゃんとは言わずに竜輝は別の質問をした。
「じゃあ素手ならいいって事?」
「ええ、素手ならいいですよ、まあ泰助も殴り返してくるでしょうがそれはそれ、二人とも気のすむまで殴り合いなさい」
「……師匠の教育方針てそれでいいの?」
「はいそうですが何か問題でも?」
きっぱりと言い放つ師匠の言葉に思わず口角をピクつかせるが竜輝は反論する事を諦めてため息をついた。
だが今ではそんな事にため息がつけるほど竜輝の精神には余裕があった。
戦乱が終わり、竜輝が一二歳になった今の大和は豊かになった。
敵に田畑を焼かれても米が不足しないように高められた米の生産力はそのままに戦争で田畑が焼かれる事は無くなり誰もが白米を食べられるようになった。
軍備費を稼ぐ為の経済政策のおかげもあって、戦争さえなくなれば大和はたちどころに平和で豊かな、誰もが笑って暮らせる国になった。
戦場で命を奪っていた拳は各町に設立された観戦道場や季節ごとに開かれる闘技大会で互いの修業の成果を披露しながら町民達を楽しませた。
たったの数年でここまでの復興と発展をするなど誰が予想しただろうか。
だがこれも世界的に地震や台風などの天災が多いが故に培われたこの島国の特徴だった。
だ、そうしてようやく消え去った戦乱がまだ見ぬ海の向こうからやってくるなどと誰が予想しただろうか。
「ねえ師匠、なんで素手はいいの?」
「素手でないと鋼の心が身に着かないからですよ」




