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格闘世界の敵 オルシンハ

「異世界との融合か、なかなかに面白い話ではないか」


 セイラン帝国の主城、オルシンハ城の玉座で武皇帝オルシンハは地震の正体を説明した呪術師が下がると口角を上げて笑った。


 オルシンハ城はパッと見るとタージマハールのようなインド式の城に見えるが内装はどこか中華風の印象があり、和洋折衷ならぬ、インドと中国の印中折衷とでも言えばよいのだろうか。


 竜輝の住んでいたアクション世界で大陸を支配している国なので現実世界の地球の文化と比べるほうが間違っているのだが、随分と広い意味でアジアンな国である。


 セイラン帝国人であるオルシンハの髪と目は黒く肌は褐色であり、髪は燃えるように逆立っている。


「残る極東の島国を支配した後はもう何も無いかと思ったが、この世界は余を飽きさせぬ」


 男は大きかった。


 二メートルはあろうかという背丈だけでなく、腕も足も太く、胸も厚い。


 暑い国なのでこの国の人間は皆露出度が高いが体温の高い武術家は特に露出が多い。


 これは格闘アクション世界全体に言える事だが、肉体を鋼よりも強くした武術家は鎧や武器を必要とせず、鍛え上げた肉体一つで戦う事が誇りであり、肉体以外は必要無いという自負がある。


 その頂点に君臨するオルシンハも上は素肌に龍の刺繍が施された袖の無い金色の羽織を一枚着ているだけで強靭な筋肉を見せつけ、下も腰周りからヒザ上までは王に相応しい豪奢な腰布や履き物で隠すがヒザから下は何もつけず靴もはかずに裸足であった。


 他は宝石が散りばめられた額当てや腕輪、そして指輪を手足二〇本の指にはめているがこれらはどれも王を飾り立てる装飾であり防具の意味は無い。


「まだ面倒は続きそうっすねぇ」


 広い謁見の間に男の欠伸(あくび)が染みわたる。


 玉座の前には三人の将軍が立ち、周囲に並ぶ家臣達は(うやうや)しく頭を垂れるが、そのうちの一人にはまるで緊張感が無い。


「バルバサンカ、王の御前であるぞ」

「ラハールは真面目だねぇ、世界なんててきとうにやっても取れるだろ?」

「貴様、西方将軍でありながらその言動、度し難いぞ」


 欠伸をした西方将軍バルバサンカ、そしてそれを責める東方将軍ラハールも一九〇センチ前後の巨躯を分厚い筋肉で覆い、褐色の肌の上には防御性など無い装飾性重視の将軍専用の衣装を(まと)っている。


 西方将軍バルバサンカの羽織には前と後ろに虎の刺繍が施され、東方将軍ラハールの羽織には王と同じ龍の刺繍が、だが銀色で施されていた。


 これは四将軍最強であり、皇帝という例外を除けば帝国最強の証である。


 だが、


「拳を収めろラハール、バルバサンカには少しの無礼があったほうがその男らしい」

「……ッ……御意」


 セイラン帝国最強の武術家も武皇帝オルシンハの言葉で固めた拳を開いた。


 これは皇帝と将軍という地位からではない、オルシンハが持つ破格の圧力の影響である。


 存在感、圧迫感、無言の重圧、言い方はいくらでもあるが、この男、オルシンハのソレは余りに別格だった。


 数千の人間が収容できるほど広く、小山のように高い天井の謁見の間だが、玉座にオルシンハ一人が座っただけでただの人間には狭く感じられた。


「恐れながら、此度の事で王の耳に入れたいことが」

「許す、申してみよ」


 前に進み出たのは男並の長身の美女サルシャーハで彼女も全身を鍛え上げているがその体は肉感的であり、オルシンハのように盛り上がった筋肉ではなく、全身を引き締めるような美しい筋肉でビキニのような衣装から豊かな胸がこぼれ落ちそうだった。


 厚めの唇に筋の通った鼻、濡れた瞳と右目の泣きボクロが印象的なその顔は男なら誰もが一目見ただけで心を奪われるが彼女が色恋に関心を示した事などない。


 衣装の布地が最も少ないのは彼女が一番暑い南方の将軍であると同時に水軍を使った戦術が得意で海が戦場の中心になる事が多いためだ。

胸を隠す捲き布には南方将軍の証である鳥の刺繍が施されている。


「融合した世界の中に多くの魔性が住む世界があり、その世界には世界を統べる剣があるそうです」

「ふむ、それで?」


「我が水軍が見慣れぬ軍艦と交戦し、落とした船の中には耳の尖った人間が乗っており、自分達の事を魔族と名乗っていました。

その者達を拷問にかけて情報を聞きだしたところ、魔族の王の武器だった世界を統べる剣の欠片を回収するとか」


 サルシャーハの情報にオルシンハの目が輝くが逆にラハールは眉根を寄せた。


「だがサルシャーハ、所詮は剣であろう? 金属の塊に我らの拳を超える力があるとは思えんぞ」


 鍛えた拳が最強、武具は未熟者の持ち物であり邪魔な存在というのがアクション世界の常識である。


「その通りだがラハール、嘘か真かは別にして世界を統べるというならばそれは間違い無く宝剣の(たぐい)であろう?」


 皇帝の問いにラハールは頷いた。


「せっかくまだ見ぬ異世界があるのだ。ならば新たな土地を征服する前に異世界の宝の一つも略奪し宝物庫に加えるのも良かろう、何より、その魔族の王とやらが世界を統べる剣を手にし息巻くのも目障りだ」


「分かりました、では軍の多くはこの世界の調査に当たらせていますが、すぐに残りの兵を使って――」


「その必要はありません、先程伝書鳥からの通達で遠征中のガノンダルヴァが剣の破片のありかを見つけ、城に帰る前に皇帝への手土産にし、途中にある異世界の村や町も落としてくると」


「ほお」


「血気盛んだねぇ、俺にゃ真似できませんなぁ」


「確かに、ガノンダルヴァが出るなら私の出番はないようですな」


 バルバサンカとラハールの感想を聞いてオルシンハは玉座から見下ろしながら命令を下す。


「ラハール、確か報告では余のセイラン帝国はそれほど乱れる事なく異世界と融合したらしいな?」


「はい、町の位置や地形に大きな変化はありませんが、セイラン帝国の外には侵略した国に交じり未確認の街や国がいくつか出現したようです」


「よし、では剣はひとまずガノンダルヴァに任せお前達は周りの土地を落とせ、まずは足元を固め、その(のち)に他の土地も落とそう、そして余が戦うに値する者がいれば報告しろ、異界の戦士、心躍るではないか」


 皇帝の目に映るのはまだ見ぬ猛者達、オルシンハにとって自分以外の全ては蹂躙の対象でしかなかった。


 皇帝が立ち上がり大きく笑うと三人の将軍は一様に膝をつき、皇帝の前にひれ伏した。

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