ジャンル大戦
「奥義 鎧通し!!」
鬱蒼と木々に囲まれる森の中、素肌に直接羽織を着た袴姿の男が叫んだ。
中世日本の古武術家を思わせる若い男の拳が四脚の有人型戦闘ロボの胴体を打つ。
すると戦闘用ロボットはビデオの一時停止ボタンを押したように止まる。
装甲の中では搭乗者が血を吐いて倒れている事だろう。
これは格闘技アクションの話……ではなく……
武術家の背後では全長一〇メートルほどの巨大ロボットが敵機ではなくトレントと呼ばれる巨木のモンスターにロボットの巨体に見合った巨大な高周波ブレードで斬りかかる。
トレントは葉の生い茂る頭を振り乱しながら無数の枝や根を伸ばし巨大ロボットに襲い掛かるがロボットは破格の膂力で大剣を振って一撃の下にトレントを斬り伏せる。
「薪割り完了っと」
ロボットから聞こえる声は若い男の声で、どこか軽い印象を受ける。
これは巨大ロボットSFモノの話……ではなく……
「勇者の名の下に悪を討つわ!」
さらにその背後では西洋風の甲冑に身を包んだ金髪の美少女が剣と盾を持って走り、目の前の筋骨逞しい褐色の肌をした武術家達を一瞬で斬り伏せ、間髪いれずに少し離れた場所で呆気に取られている武術家達に手をかざす。
「ファイアーボール!」
放たれた巨大な火球は武術家達に当たると同時に破裂して彼らを一瞬で火ダルマにしてしまう。
武術家達に背を向け、炎を背景に、
「勇者の勝利よ!」
これは剣と魔法のファンタジーの話……ではなく……
「みなさんもう大丈夫ですよ」
学校の制服であるブレザーを着た少年が恐怖に震える若い女性達に笑いかける。
「悪い人はみーんなあの」沈んだ顔で「強い人達が倒しちゃいましたから」
少年達はこの森へ木の実や薬草を取りに来た村の女性達が襲われているところを見つけ、今まさにその救出に成功したのだが何故か少年の顔は浮かない、なぜならば……
「そう落ち込むな、いくら武術が使えなくても」
「巨大ロボ操縦できなくても」
「剣や魔法が使えなくても」
「「「まったく気にすることはないぞ」」」
「うるせー!!」
武術家とパイロットと勇者に向かって少年は腹の底から叫ぶしかなかった……
これは正義の武術家が世を乱す悪の武術家と戦う話でも巨大ロボットのパイロットが戦争をする話でも勇者が魔王を倒して囚われの姫君を助けだしたり、まして冴えない男子学生が可愛い女の子達と仲良くなったり、そんな話ではない。
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