第45話 獅子の過去①
私たちはエレンのパーティー『アスクレピオスの杖』と別れて先に進んでいた。
「エレンはいいパーティーに恵まれたっすね」
黄金の獅子のメンバー、シュミットが嬉しそうにそういう。
「おいらもそう思う。あいつにはうまくやってほしいんだよな」
「私は嫌よ!あいつなんて!」
「まだ、アリスはそんなこと言ってんっすか」
和気あいあいと三人は山を進んでいた。
彼らは実のところエレンのことを嫌っていない、どちらかというと今でも仲間に思っている。
ことの始まりはエレンがまだ『黄金の獅子』にいたころまで戻る。当時、黄金の獅子はドラゴン討伐に向けて行動していたが、多くのほかの冒険者から無理だと言われていた。理由は明白でパーティーメンバーのスキルが秀でたものがなかったからだ。エレンは【槍術】、アリスは【弓術】、シュミットは【盾術】、リットは【探索】という構成で〇〇術というスキルは凡庸で強いものとして認識されていなかったからだ。だけどなまじ実績があるから、嫉妬も相まっていろんなこと言われてきた。アリスはパーティーがそんなことを言われるのが嫌で意地になってドラゴン討伐のクエストを受けた。
ドラゴンは強敵で当然苦戦は強いられていた、だが状況としては優勢でシュミットがタンク役で攻撃を防ぐ、【盾術】の防御力はすさまじくほとんどの攻撃は防げる、アリスは遠距離でドラゴンをけん制しつつ決定打を与えるのがエレンの仕事だった。リットは斥候の役割と戦闘時には遊撃として参加していた。
「このままいけば倒せるぞ!」
エレンが仲間を鼓舞する。
仲間たちもそれに続いて最後の気力を振り絞って立ち向かう、だがアリスは精神状態がギリギリだった
少しでも早く戦闘から、ドラゴンの圧から逃れたくて判断ミスをした。
「最後の仕上げは俺がやる!アリスはフォローしてくれよ!間違ってもドラゴン当ててくれるなよ?」
「え、ええ!大丈夫だわ!任せなさい!」
ドラゴンも追い詰められて最後の力を振り絞っていた、そんな中でもしアリスが攻撃すると反撃を食らってしまうかもしれない、エレンに反撃したときは盾役のシュミットが守れるしリットも遊撃としてフォローできる。
普段なら絶対しないミス、アリスは終わらせたい一心に、戦闘の重圧から逃げたいそう思って矢を放ってしまった。
「あ、れ?」
グォォォォォォ!!!!!!
ドラゴンに直撃してしまった、それが決定打になっていればよかったのだがそうではなかった、つまり最後のドラゴンの反撃をアリスが受ける
「何やってんだよ!クソッ!」
そのあと迫りくるドラゴンが怖くて足が震えて動けなかった。
「もう、大丈夫だ、すべて終わったぜ」
そこには右手を盾代わりにしながら左手でドラゴンにとどめを刺したエレンにの姿があった。その時に自分のしてしまったことの重大さに気が付いた。
「エ、エレン。ごめ、私・・・」
私は言葉が出なかった。
だけどエレンはニッコリ笑って
「俺たちの勝利だ!ついに倒したんだよ!俺たち黄金の獅子が!獅子がドラゴンを倒したんだんだぜ!」
「あ、ああ!そうっすね!勝ったんっすよ!」
「おいらたちやったんだね!」
「ほら、アリス、今は喜ぼうぜ!」
右手のことは心配しなくていいと、だから今は喜ぼう、そいって私に声を掛けてくれた。
「うん、そうよね。私たちは勝ったんだわ、さあ、早く帰ってお祝いしましょ!」
今だけは全部忘れて、勝利の余韻を楽しむことにした。
そのあと残酷な現実が襲うとも分からずに
エレンの傷はそのあとすぐに教会に行って治してもらった。教会のことは正直信用していなかったけど、ここまで元の状態に戻るなんて思わなかった
「元に戻ってよかったわね」
「アリスは心配しすぎだぜ、俺があんなんでやられるわけねえだろ」
「そうっすよ、エレンはマジでスゲーんすから」
「それじゃ、さっさと祝いに行こう、おいら腹減ってしょうがないんだ」
そのあといつもの店で勝利を祝った、だけどこの時にすべて分かった。エレンの腕がもとに戻っていないことに
エレンはいつも通り右手にスプーンをもって食事をしようとして、落とした。最初は何やっているのなんて茶化したりしていたけど何度もスプーンを落としてさすがに気が付いた。
「どうしよう、みんな俺、手が!・・・力が入んねえんだ」
嫌な予感はあった、教会で【ヒール】を受けた後も槍は左手でしか持たなかったし、扉を開けるときも何をするのも左手でやっていた、まあ治った後だしそんなこともあるかなって思ってたけど心のどこかで最悪の状況も考えていた。
「後遺症、なのね」
そこから一気にお通夜のような空気になったけど、すぐにエレンが席を立って先に帰るとだけいって走って店を出た。
私たちはそのあと今後のことを話した。冒険者にとって後遺症は絶望的だ、全力は出せないうえに今まで培ってきたものがゼロになるからだ、それにパフォーマンスが下がったのにパーティーにいるとパーティー全体に影響がある
「それでもエレンにはパーティーにいてほしいっす」
「ええ、私もそう思うわ。でも、エレンはどう思うかしら。エレンは人一倍優しいわ、だからこのままパーティーにいることが辛くなるんじゃないかしら、それにエレンはきっと私たちのことを思って自分から辞めるって言うと思うわ。それは分かるでしょ?」
リットとシュミットはうなずいた。エレンのやさしさは間違いなく本物でいつも自分たちが助けられてきたものだから。
「エレンの傷は私のせいよ」
「そんなこと!」
「いいえ、間違いなく私のせいよ、だから私はそのつけを払うわ。」
私は考えを全部話した。
エレンは気を使ってパーティーを抜けると思う、だけど抜けた後エレンは抜け殻のようになるかもしれない、冒険者としてここまでやってきたのに自分から辞めると何もなくなる
だけど、私が追い出したならきっと私のことを恨むと思う。恨んでいるときはその恨みが活力になる、エレンはきっと行動する活力があればどんな形でもまた戻ってこれる、私はそう信じてる
当たり前だけどエレンに嫌われたくないし、離れたくもないだけど、一番はエレンにどうしてあげれるかだ
「それはちょっとひどいんじゃないかな?」
リットはそういうがシュミットは賛成してくれた。
今日のエレンの後姿を見ると抜け殻になる未来が簡単に想像できたと、エレンはいつも生きる目標を立てて行動している、だから恨まれても私たちがエレンの生きる目標になればと思う。
「でも、アリス一人にやらせるのは嫌っす」
「おいらもやるよ」
「二人ともありがと」
今思うとどうしてこんなことしたんだろうとは思う、だってそうでしょ?エレンは今腕に後遺症があるかもしれないと不安に思っているのに、なのに私たちはそれに追い打ちをかけようとしているんだもの
エレンのため、エレンのためと自分たちに言い聞かせているけど心の奥底で思っていたことがあるんだと思う、「後遺症があると冒険者は続けれない」だから自分たちのために突き放つのを正当化しようとしていたのよ。
だから次に会った時にエレンに言ってしまった。ドラゴンの報酬は全部上げるけどパーティーから抜けてほしいと。エレンは何も言い返す「分かった、今までありがとな」なんてすかしたこと言ったから私たちは罪悪感に駆られて罵詈雑言を浴びせてしまった。
エレンは分かっていたんだと思う、そのあとすぐに私たちは街を出て活動を再開した。
それでもいつもエレンのことが気になって情報を集めていた、だんだんと擦れていって別人のような性格になり果てたとも聞いた。
エレンのことを聞けば聞くほど罪悪感は強くなってきた、三人で話をして落ち着いたときに顔を出してあの時のことを謝ろうと話をした、そんなときに聞いたのがエレンが教会相手に喧嘩を吹っ掛けたことを。
それに腕も治って全快の状態だとも、もしそうならまた『黄金の獅子』としてパーティーが組める、前のことは謝ってまたやり直そう、そんな風に自分たちの都合だけ考えていた。
だけど
「うそ、エレンが他のパーティーに入ったなんて」
「間違いねえっす、『アスクレピオスの杖』って言うらしいっす」
戻ってきてくれると心の中で思ってた、でも現実は違った。エレンを見つけて楽しそうに笑っているのをみてイライラしたからちょっかいをかけて、話しているうちにどんどん抑えきれなくなってきついことをまた言ってしまって、気がつけば勝負をすることになっていた。
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