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凡人魔法使いの成り上がり伝  作者: R-あーる-
Brother Sister-誰が為の魔法-
38/41

己の魔法

「…私は絶対突っ込みませんからね?」


もはやこのメンバーにとっておなじみとなってしまった回復室。

その室内の病床は今日も今日とて俺たちで埋まってしまっていた。

俺とカイルの病床の間に椅子を置き少しむっとした表情でため息をつくセルエナと。


「そのくせちゃーんと見舞いは毎回律儀に来やがるんだな。」

「私はシュティムさんのお見舞いに来ているんです。そこに偶然あなたが邪魔してるんでしょう。」

「カイルも怪我人だし、なんなら俺より重傷だから。そこは優しくしてあげようよ。」

「…まあ、シュティムさんがそう言うなら。」

「俺の意見は二の次ですかそうですか。」


俺とカイルは全身の裂傷に筋肉の麻痺、加えて打撲。カイルはさらにあばらにヒビが入っていて、俺たち二人とも数日間は絶対安静だとミス・アンドラに告げられていた。

これだけの怪我を負ってしまったのも全て、昨日の森林グラウンドでの俺たちの衝突が原因だった。


「二人とも急にいなくなったと思ったら、ミス・アンドラの話ではズタボロになって二人でここに来たって聞きましたけど、何があったんですか?」


だがその衝突があったことで、少しだけカイルという男の事が分かった気がする。人一倍目的意識の高いカイル。その方にのしかかる重圧は、知らずのうちに彼を追い詰めていた。

けれど今度からは、俺がそばにいてやれる。

出来ることは少ないかも知れない。それでも、俺はこいつの友人としてこいつを支えてやりたい。


「…残念だが、俺ら男にしか分かんねえ事だよ。」

「……なんですかそれ…やっぱり良いです。分かりたくも無いですから二人ともさっさと治してください。チームを組む相手がいなくて授業に参加できていないんですから。」

「それは…ごめん、セルエナ。」

「シュティムさんは悪くありません。この馬鹿がシュティムさんの手を煩わせたのが悪いんです。」

「いや、そんなことは…」

「…前から言おうと思ってたんだが、てめえのその俺に対するあからさまな悪態と暴言はなんなんだ?俺のことが好きなのか?」

「………は?」


カイルのジョークに対して、顔を曇らせるセルエナ。その顔はおよそ年頃の女性がして良いような顔では無く、これを彼女を慕う他の女子達や生徒に見られてたら、瞬く間に黒歴史として一生の傷になってしまうとか、そんなレベルだ。


「馬鹿だ馬鹿だとは思っていましたがここまでとは。落雷で脳みそ沸騰したんですか?!」

「てめえのその減らず口がちったぁ閉じれば俺もここまでストレス感じなかったかもなぁ!?」

「勝手にストレス感じて勝手に孤高気取ってた痛~い中二病のお坊ちゃんが何か吠えてますねぇ!?」

「よぉし!!!この怪我治ったらまず最初にやることが決まったぞー!!!てめえをぶっ殺してやる!!!」

「ふ、二人とも落ち着いて…せ、セルエナも、カイルのことが好きなら、俺は応援するからな?」

「シュティムさんまで!?い、いや、全然違っ………」

「カイルぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」


二人の言い争いをかき消すように窓ガラスを粉砕しつつそこからドーラさんが飛び込み、そのままカイルを締め上げるようにして抱き上げる。


「あだだだだだだだ!!?姉貴!!?待て待て俺あばら逝ってるんだっつの!!!」

「ああカイル!!!こんなになるまで強くなろうとしてるなんて……お姉ちゃん、ちょっともう自分の思い我慢出来なくなりそう!!!」


そしてそのままカイルを担いで。


「姉貴…?おい、何してんだ!?俺怪我人だぞ!!?」

「心配するな!私からヴァイラさんに頼んで最高の回復魔法を使わせて貰うから!そしたら私と一対一で!二人っきりで!!姉弟水入らずで特訓しよう!!!」


その言葉を聞いた瞬間、カイルの顔が一気に青ざめていった。


「過去ドーラさんは、マンツーマンの演習で彼に全治三日の心の傷を負わせたの。」

「きゃあっ!?フローアさん、いつからそこに!?」

「さっき来たばかり。彼の見舞いもかねて。」


やいやいと騒ぐヴァルハ姉弟を横目にフローアさんはそう言って見舞いの果物を手渡してくれた。


「あ、ありがとうございます。」

「雷に打たれたような火傷と裂傷、打撲がひどいと聞いた。打撲と裂傷は私にはどうにも出来ないけれど、火傷を冷やす位なら協力できる。」


彼女はそう言うと水魔法を発動した手のひらを俺の患部へと添えた。少し冷たすぎるくらいの小さな手が、火傷痕を優しく包んでいく。


「魔力のコントロールと解放…まだうまいこと扱えきれませんでした…」

「結果を焦る必要は無いよ。出来ないことや慣れないことを習得するのには時間がどうしても掛かる。それに、学園にいる間はこれからも私が教えてあげるから。」

「……はい。」

「あ、あの…!」


俺に気を遣ってか、フローアさんは耳打ちでもするかのような小さな声で俺に話しかけてくれた。幸い彼女の気遣いと、横で騒ぎ続けるヴァルハ家の二人のお陰で他の人には居間の会話は聞こえていないだろう。


「な、なんだかここ最近、フローア様はシュティムさんと仲がよろしいようですけど……な、何かあったんですか?」

「………?」


セルエナの発言にフローアさんは一瞬首をかしげたが、すぐに何かを悟ったような顔をすると一瞬いたずらな笑みを浮かべ、すると今度はにっこり微笑んでセルエナに返答する。


「申し訳ないけれどそれは答えられない。彼との、シュティムとの約束だから。」

「よ、呼び捨て…!?それに約束って…絶対何かありますよねそれ!?」

「大丈夫。あなたが気にすることじゃない。彼が私の胸で涙を流したその日からの、二人の約束だから。」

「な、なんですかそれどういう状況…!と、と言うか!何も無いのなら、火傷痕を冷やすにわざわざ水魔法を手に纏わせなくても空中に留めれば良かったんじゃ無いですかぁ?」

「魔力のコントロール的にも、身体の一部に纏わせるのが効率が良いからそうしているだけ。」


なぜか含みのある言い方をしているのが気になるが、フローアさんが言っているのは事実だ。

俺が皆には、特にカイルとセルエナには、俺がフローアさんの元に行ったことは話さないでくれと頼んだのだ。

このことを話せば、優しい二人はきっと俺が無茶をしていると思うに違いない。だから二人には話さないでほしいと俺から。


カイルとのやり取りでフローアさんに教えて貰ったことの二割も実戦できなかった。

咄嗟の状況においても無意識で体が反応するレベルまで鍛え上げないと。せっかく学園トップクラスの人が俺のために時間を割いてくれてるんだから、こんなんじゃまだまだ全然ダメだ。


「こんなに賑やかそうな回復室は初めてだよ。ミス・アンドラが戻ってきて怒られないと良いけど。」

「シルヴァさん。どうも。」


「容態はどう?」と彼も見舞いの品と共に来てくれた。聞けば生徒会の三人は騎士ナイトとの集会が終わった後、飛行魔法と身体強化魔法、その他自身の使える移動を強化する魔法の全てを総動員し、城の外壁の一部を破壊し、最短ルートでこの回復室で療養している弟の元へすっ飛んで行くドーラさんを追いかけるようにしてここに来たらしい。


「元々来るつもりではあったから見舞い品は用意できたんだけど、この後予定に無い用事が追加されちゃったから、すぐにお暇するんだけどね。」

「予定に無い用事?」

「壊した城壁や窓ガラスへの賠償と修繕依頼の書類、城の領空圏内を無断で飛行した始末書、早く弟の元へ行きたいが為に集会を3分で終わらせろと騎士の皆さんを半ば脅迫した事への謝罪。細かいのを上げればキリが無いけど、全部聞く?」

「い、いえ…お疲れ様です。」


学園のトップの口からこぼれる長いため息とどこか悟ったように、諦めたように虚空を見つめる目。

この人もこの人で色々大変なんだなと、改めて思った。


「けど、今年の一年生はとても仲が良さそうだ。これからの学園祭が楽しみだね。」

「学園祭…この学校にもそういう行事あるんですね。」

「健全なる魔法は健全なる精神から。学生のうちに作った楽しい思い出は、その人を形作る重要なものになるからね。」


正直、明言されていないだけとは言え、包み隠さず言えば国の戦力を育成することが大目標のこの学園にそのような行事があったとは驚きだ。


「参加は自由だけど、是非とも君達にも参加してほしいな。最終日の花火を一緒に見た男女は、戦地で離ればなれにならないっていうジンクスもあるらしいよ。」

「誰が言い出したんだそんな物騒なジンクス……」


正直、自由参加なら俺はその時間を魔力の修練に使いたい。

確かに楽しいことは必要かも知れないけど、今の俺に楽しめる余裕も、時間も無いから。


「それに、シュティムやカイルみたいな上昇志向高めな奴らにも有意義なイベントもあるぞ?」


カイルを格闘技の技のように担ぎながらドーラさんがこちらの話題に乗ってくる。この人、担いでる自分の弟が重傷の怪我人だって事分かってるんだろうかと思ったが、そこら辺はしっかり治癒魔法を掛けながらやっていた。優し…くは無いがその辺の配慮はあるらしい。


「毎年学祭では、その年の生徒会と一年生が直接魔法でやり合う模擬戦が行われる。今年の一年の対戦相手はアタシだ。アタシ一人対参加希望の一年全員。アタシに勝てた一年はアタシが騎士になったときにもれなく全員騎士に直接推薦してやる。」

「騎士に!?」


この国の最高戦力のウィザード。それに一介の候補生を推薦することも、この人たちなら出来ると言うことか。

そういうことなら、話は別だ。


「…もちろん、君なら参加するよなぁ?」

「…当然です。騎士になれるかも知れないチャンスもそうですけど、何より、ドーラさんと直接戦えるチャンスですから。」

「ハッ!上等だ。アタシも君とは一度やり合いたかった。カイルの隣に立つ資格があるかどうか、オネーチャンが見極めてやるよ。」


気絶した弟を担ぎ上げ、流し目でこちらを見るドーラさんからは、圧倒的なまでの魔力があふれ出ている。


俺は次なる目標を見据える。


思いを吐露し、自らを受け入れ見守ってくれている師との出会い。

学園に来て出会った友との衝突と和解。

それぞれがそれぞれの思いを抱えて魔法を放っている。

あるものは自身を赦すために、あるものは血縁を支えるために。

己の魔力の守るものは、全て己の力量次第。

出会い経験したその全てを糧とし、魔力に込めて。


次なるステージへのゲートが今開かれる。


第三章

Brother Sister-誰が為の魔法-fin


To be continues


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