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凡人魔法使いの成り上がり伝  作者: R-あーる-
Brother Sister-誰が為の魔法-
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男なら



森林グラウンドに響き渡った雷鳴。それは俺がカイルを追いかけながら体中に帯電していた魔力を解放し、雷魔法を俺もろともカイルにぶつけた際の衝撃だった。

常時体に帯電しておくことによって、カイルに触れた時に振り払われる前に魔法を発動する。当然デメリットもある。常に帯電しているのだから体にはそれなりの負荷が掛かるし、その間魔力は常に消費、しかも雷はもちろん流動的な魔法のため消費量も大きい。

だがその消費量を俺の体内に帯電する程度である一定までなら留めておけるし、動き続けているものの勢いを増加するのは停止しているものを動かすよりも容易い。

それに魔力の消費は俺にとってさほどデメリットではないし、身体の方も、強化魔法をかけ続けているので一時的に影響なく動くことは出来る。加えて俺は最近「師匠」に魔力のコントロールを教わったばかりだ。この程度の魔力消費なら、問題は無い。

問題があるとすれば、この後の着地。

木々の間を飛び回るようにしてチェイスをしていた俺たちはちょうど空中で二人とも雷魔法を受けた。

その衝撃にカイルは一瞬失神していたが、それは俺も同じ事。帯電とは比にならないほどの電流が体に一瞬にして流れ、目が回るような痛みに襲われる。

かろうじて受け身を取ることに成功したが、背中から地面に叩き付けられる。肺の空気を無理矢理押し出された苦しさにむせこむ。

カイルはどこだ?

枝に何度か当たりながら落ちたとは言え、俺からさほど離れていない距離に落下しているはず。


「てっ…めぇ……自爆…と、か……正、気…かよっ…!!!」


聞こえた。

俺の右側、力んだ声がしっかりと。

どうやら防御魔法は間に合わなかったようだ。しっかりと一撃食らわせることが出来ていた。


「こう…でもしなきゃ……お前には勝てないから………」

「何っで……爆心、源…のお前……が……俺より、平気、なんだよっ…!」

「そりゃ……魔法で自分に、反射が来るのは…慣れてるからな……」


適性の都合上、俺は身の丈以上の魔法を扱うことが出来る。しかしそれは自らの生命力と肉体に多大な負荷が掛かる。

身体能力でカイルに追いつけないと分かっていた俺は、使う毎に効果の弱くなっていく身体強化魔法を使い捨ての魔法として扱った。ひどい頭痛と全身が強張る。這いずる様にして起き上がったが、立つことは出来ない。

だがそれはカイルも同じはず。

渾身の一撃をゼロ距離で、直接打ち込んだ。

いくらカイルといえども、簡単には………


「………畜生が…!」


立ち上がっていた。

カイルは俺の目の前で、その足で立っていた。

かすかに感じる魔力の気配。俺でも感知できるほどに垂れ流しにされた魔法は制御されていると言うよりも、何とか絞り出しているという方が近かった。

治癒魔法を脳だけに使っている?そうすることで痛みを錯覚させているのか?

元々俺から逃げる前からカイルは負傷していた。その大小は分からないが、その魔法の使い方は、今のカイルにとっては相当危ないはずだ。


「止めろカイル…!怪我が悪化したらどうする……」

「うるせえよ……てめえも姉貴も、平気で自分を犠牲にしやがる癖に…俺にはその覚悟もねえってのに…!」


魔法の構築。規模も大きくないし、速度も遅い。いつものカイルなら、瞬き一つの間に完成させる魔法の構築にこれだけの時間を要している。

それほど治癒魔法に魔力を消費しているんだ。


「クズ野郎の俺に、構うんじゃねえッ!!!」


発動した魔法は、まっすぐ俺に放たれる。

単純な爆発魔法。俺に着弾したそれは黒い煙を立ち上げながら消失する。


「………何言ってる。構うに決まってるだろ。」


水流魔法『白糸しらいと』カイルの放った単純な爆発魔法。だがそれ故に構築さえ終えられてしまえば発動までは速い。反応できるのは最近何度も反芻して体に染みついていた魔法だった。

水流で自らを取り囲み、熱による攻撃を減衰させる。

役目を終えた魔法は霧散し、黒煙の中、俺はカイルに向いて立ち上がる。


「お前はここで…俺に初めて出来た友達なんだ。」


魔力なんてとっくに空だ。生命力がどういうものなのかは分からないが、それが俺の元気度合い的なものなら、もうそっちも残りわずか。


「クズ野郎?そんなこと思ったこともねえよ。勝ち目のない戦いの中でも勝利までの道のりを探し続ける、友達のために格上相手だろうと躊躇無く飛び込む、そんなヤツがクズ野郎なわけないだろ…!」


関係ない。

カイルが無茶してるんだ。ここで俺が無茶しねえと、カイルに正面から向き合えない。

治癒魔法を全開で発動する。痛覚が遮断され、己の指先の感覚すら曖昧だ。

こんな状態であいつはいるのか。


「けどな…今のお前はクズ野郎だ…俺と向き合おうともしないで、一方的に話を成立させようとしない。」

「だから、てめえにゃ関係ねえって………」


一瞬の発動。

ほんの一瞬、身体強化魔法を発動させた。

しかしそれは倒れる体を無理矢理動かすための発動。

その一回の発動で、俺はカイルを殴り飛ばした。


「うだうだうだうだと………ああ、俺には関係ないかもな。馬鹿野郎が話しもしないその話は、その馬鹿だけの問題かもな!!!」


言い切ったところで、世界が回転する。

視界の隅には拳を握ったカイル。あいつも殴ってきたんだ。

遮断した痛覚の上から痛みが来るとか、どんだけ強いフィジカルなんだよ。


「分かってんなら放っとけよッ!!!お前に話したところで何が変わる!?俺と姉貴の差が縮まるのか!?姉貴がいなけりゃ生きてるかも怪しかった俺の苦労が報われんのか!!?」

「知るかそんなもんッ!!!聞かねえと分かんねえんだよシスコン野郎ッ!!!」

「話が進まねえだろうがクソ低脳ッ!!!」

「じゃあ話せよ脳筋ッ!!!」


もはや魔法など、各々が体を何とか立たせるために使っているだけだった。

血を吐きながら殴り合い、罵倒し、また殴る。

野蛮極まりない。けれども今、カイルと俺は正面から向き合えている。男なら、腹を割って話すのにこれ以上の最適解は無いだろう。

どれだけ時間が経ったか分からない。ただ二人の流れる汗と血を、土砂降りの雨が洗い流している。


「……越えたいんだよ。」


互いに満身創痍となり、もはや魔法無しでは立ち止まることさえ不可能なほどに消耗していた。


「姉ちゃんを越えて………いつかは俺がヴァルハの名を背負ってやるって。」


ぽつりぽつりと、カイルは紡ぎ出した。


「けど遠くて……壁が高くて、諦めてた。頂には届かない。あれは選ばれた人間しか行けない領域なんだって、自分に言い聞かせて………」


雨音に少年の声が溶けて聞こえる。


「なのにお前は、その頂に手を伸ばし続けてる。敵うはずの無い壁に、圧倒的な実力差に………そしてその壁に頂の片鱗を出させて……」


荒い呼吸の混ざったその声は、震えていた。


「すげえと思っちまった…!俺が諦めたものをつかみに行くお前に、あるはずも無い希望を見出しちまった…!その瞬間、己の弱さに無性に腹が立ったんだよ……」


カイルの今までに聞いたことの無いようなその声は、いつもの冷静でどこか俯瞰した様子は見られない。


「もしかしたら俺でもって、思ったんだよ………けどそれは、俺の…」

「『思い違い』とか言うなよ…?」


俺は今初めて、カイル・ヴァルハという一人の男と話をしているのかも知れなかった。


「俺はお前が凄いと思ってる。入学したときから、ずっと。自分の適性を最大限生かして戦うって事を、俺はお前から最初に学んだんだ。」

「…るせえよ。だったら自爆以外の方法で俺を捕まえてみろっての……」

「それはまあ、いつかはな………」


ほぼ同時に、二人でグチャグチャの腐葉土に仰向けで倒れた。いつの間にか夕立は止み、雲間から星と月明かりがぼんやりと見える。


「…お前の方が先に倒れた。俺の勝ちだ。」

「黙れよ…お前を捕まえた時点で俺の勝ちだっての。」

「寮に連れ帰るまでがお前の勝利条件だろ、もう一発殴るぞ……」

「おぉ、じゃあ今から引きずって連れて帰るか……」

「やって見ろ………」


口の中の血の味と、雨で強くなった土の匂い。それと友人との強がり合い。

滅茶苦茶なシチュエーションに思わず笑いが出てしまった。つられるように、隣でも笑い声が聞こえてくる。


「…そう言えば、なんでドーラさんを越えたいんだ?昔からそう思ってたって事は、生徒会が原因じゃ無いんだろ?」

「………絶対笑うなよ?」

「…ものによる。」

「…姉貴は、俺だけじゃ無くていろんな人を守ってる。生徒会として、選ばれた適性の持ち主として、その重責を全うしようとしてる。」


友人の本音が夜風と共に運ばれる。


「じゃあ、姉貴は誰が守るんだ?姉貴が危なくなったとき、誰が姉貴を助けてくれる?だったら、全てを救う姉貴の背中を、俺が守って何が悪い。」

「…いいや、悪くない。やっぱりお前は強いよ。」


誰よりも先を見据え、そして誰よりも身近に高い壁があった友人はそれ故に、一度挫折を味わった。

それでもその心から、その思いが消えて無くなることは無かった。

誰よりも強い心で、誰よりも人を思う心を持った友人。

その名は。


「そう言えばカイル…お前ってさ……」


カイル・ヴァルハ。

俺の最高で、最強の友人だ。


「冷静じゃ無くなるとドーラさんの事『姉ちゃん』って言うのな。」

「………………やっぱもう一発殴る。」


洗いたての草木が見守る中、俺の掌に、温かな拳がゆっくりと振り下ろされた。




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