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凡人魔法使いの成り上がり伝  作者: R-あーる-
Brother Sister-誰が為の魔法-
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理を従える者


やはり、勘違いなどではなかった。

この人からは魔力が感じられない。それはつまり感知できる魔力そのものが存在していないと言うことだ。

普通ならあり得ない。この学園は魔力の保有量がそのまま実力に直結しかねないような場所だ。俺でさえ、潜在的に魔力の保有量は低かったが日々の鍛錬でクラスでも何とか平均値くらいには魔力を持てるようになっている。

そんな学園のトップが、魔力を持っていない?ならば、先ほどから感じているこの得体の知れない力は何だ。

確かに俺の魔法は発動し、会長目掛けて放たれた。しかしその魔法は着弾直前に消滅したのだ。そう、文字通りの消滅。魔力に魔力をぶつけることによって相殺という形で消滅させたわけではない。会長のある一定の間合いに入った瞬間消えている。

現状確認できているのはそれだけだ。すなわち情報量が少ない。

だったら、こちらの意図を感知されないように情報を集める。

俺は先ほどまでの威力に頼った魔法ではなく、植物魔法の手数での作戦に切り替える。木片を飛ばすだけのシンプルな魔法だが当たれば裂傷くらいは与えられるしっかりとした威力のある魔法だ。それに加えて地下からも植物魔法を展開してみる。

だがそれも彼には届かない。


「残念。手数でも通用しないんだ。」


手数も効かない。これで彼の魔法無効化の領域が回数制限のものでは無いと言うことも判明した。

威力を問わず無効、回数制限もない、方向に縛りがあるわけでもなく、体術に特化したわけでもない俺は身体強化魔法を使って接近したところで魔法を解除され、何かしらの攻撃で返り討ちにされるだろう。

完全な詰み。

そして度重ねた攻撃の中に感知魔法を張り巡らせていた。植物魔法は威力こそ大きくは無いが完全な固体を扱って攻撃する魔法。固体は水や炎といった流動体と違って、ベースとなる魔法以外にも別の魔法を込めやすい。今日の訓練でも使っていたが、魔法の中に魔法を込め相手の不意を突いたりといったようにだ。

それを利用して、今回の攻撃には全て感知魔法を付与していた。

おかげで魔力はほとんど尽きてしまっていたが、俺にはそれはほとんどリスクではない。それに、有力な情報も得られた。

会長の射程に入った瞬間、俺の感知魔法は植物魔法もろとも消滅させられた。

消滅『させられた』のだ。

会長の周囲には、何かの力が働いている。魔力を無効化する魔力以外の何かが。

だがそれが分かったところで詰みの状況に変わりは無い。

何か無いのか。会長に、頂に一矢報いる何か……


「もう手が尽きた感じかな?それじゃ……」

「何言ってるんですか、会長。」


勝負を終わらせようとしている会長の言葉を阻むように、彼女が、セルエナが口を開いた。


「あなたの勝利条件はシュティムさんが戦闘続行不可能になったらのはず。まだ彼は適性に頼った魔法を使っていない、つまりはまだ戦えます。」

「おーおー、光の巫女ちゃんにそこまで言われるとは、信頼されてるんだねえ。」

「そうは言っても、会長に魔法は通用しない。今の彼には勝機は無い。」

「分かっています。けれど、私は知っています。彼は幾度と無い限界を超えてきている。ボロボロになりながら、自らの適性と共に足掻き続けている——」


まさか、自分が彼女に言ったようなことを返されるとは。自分よりも彼女の方が俺を信じていたようだ。


「それに——」


ここまで言われてやらないわけにはいかない。限界なんて結局は自分が決めるものだ。


「彼はまだ諦めてない。」

「……ハハッ!当たり前よ!!!」


セルエナの言葉のお陰で会長しか見えていなかった視野が広がった。冷静になる時間を与えて貰い、そこで俺の視線はある一つのものに止まった。


「………それじゃあ、彼女の言葉に動かされてみよう。シュティム君、君はこの絶対的不利な状況を、どう越えてみせる?」


越えられるかどうかは分からない。今目の前にあるのはそれほどまでに大きな山。エンタリア魔法学園という巨大な山脈の天辺てっぺん

けれど、それでも、だとしても……

挑まず逃げるのは、もう止めた!!!

俺は適性を発動し、己の生命力を魔法の対価として消費する。

この適性と向き合い続けていけばいくほど、これがウィザードに向いてないモノだと思い知らされる。保有魔力を使い切るほどの強敵と戦っている場面で、外せば自分が行動不能になる。そんな適性でも、俺が手にしたカードだ。

それを生かすも殺すも、俺次第って事だ。

限界を超えた火炎魔法と水流魔法。

反動で火炎を発動している側は指先が焼け続けている。維持にも莫大な魔力の掛かる魔法の同時展開。

それでもこの魔法に全てを掛けるしかない。


「凄いな…ドーラの火力に匹敵するかも知れない。」


言いつつも会長は一切の動揺も見せていない。

いや、分かってしまう。俺の今の限界を超えたこの魔法でさえ、あの人の力はいともたやすくかき消してしまうだろう。


「これがあの子の適性って事か。」

「とてつもない魔力……言うなれば『限界魔法適性』といったところ。」

「だが、どれだけ強大な魔力でも、今のあの子じゃシルヴァには届かない。」

「どう出る。シュティム・ローウル。」


一つ目に着いたもの。

それは少し前に俺が発動した植物魔法だった。

固体を操る特性を生かし、感知魔法を付与した植物の木片。

それの魔法は彼の間合いで無意味に消され、魔力を消滅させられた。

魔力を消滅させられた木片が、彼の足下に転がっていた。

『魔力の無い固体は彼の間合いに入った』

つまり…

主成分に魔法を含まないモノは間合いに入っても消滅しない。

それならばなぜ、俺は流動体の火炎と水流を発動したのか。


会長を見ていると思い出す。

自身に満ちあふれた顔、絶対的実力とそれに伴った周りからの信頼。

俺の親友によく似ていた。

あいつは昔から頭が良かった。王都の学術院に受かるほどの頭脳を持っていた。必然的にいろいろな知識も持っていた。その話しを意味も理解できないまま聞くのが大好きだった。そんな昔のことを、会長を見たときに思い出したんだ。


「うおおおおおおおぉぉぉぉ!!!」


水流の魔法を会長の周辺を取り囲むように配置。濁流となって会長に押し寄せるが、やはり流動体の魔法は間合いに入った瞬間消滅させられている。

まだだ。まだ足りない。

さらに水圧を上げ勢いを上げる。

当然こんな攻撃で会長がたじろぐなんて思ってもいない。

だから、ここにありったけをぶつける。

水流を発動させつつ、もう片方の火炎の魔力を増幅圧縮。このマルチタスクだけで視界が眩むほどの消耗だが、どうにか立てている。やがて高密度に圧縮された拳大のサイズの火炎の魔法。それを、放出する。

会長にではない。

会長の理外の力のわずか外。

さんざっぱらまき散らした『水流魔法』にだ。

それは時間にして一秒にも満たなかったはず。それでも限界を超えた魔法の放出は、俺の視界をゆっくりと動かしていた。

水という物質は蒸発し、大気へと溶けていく。熱によって起こされるその現象は通常生活を送る程度の熱ではゆっくりと行われるだけだ。

ならば、その過程を無視してしまうほどの超高温を水にぶつければ?

大気に溶けた水というのは質量が増えて…とかなんとかあいつが、俺の親友のリックが言ってた。その辺はよく覚えていないが、それでもその語感から名称だけは覚えていた。

全てを無慈悲に吹き飛ばす『魔法の関与しない自然現象』

その名は………


「『水蒸気爆発』………!?」


当たっていてほしい。

俺のただの願望だった。

魔力で精製したものをぶつけるのではなく、その衝突によって起こる自然現象なら会長のあの間合いを超えられるかも知れない。そう思った。

だが、現実というのは、エンタリア魔法学園の頂点というのは、

俺程度が咄嗟に考えついたやけくそで越えられるほど甘いものでは無い。


「水蒸気爆発を起こすための火力は1000度を優に超える。」


声が聞こえる。絶対的強者の焦りも、呼吸の乱れも、一切混ざっていない声が。


「その常識外の爆発力に、出すつもりのなかった彼女が『出てきてしまった』」


遙か彼方数メートル先に立つ会長。その後ろに、それまで無かったものが凄まじい気配を放ちながら会長を羽で守るようにしてたたずんでいた。

セルエナやドーラさんは神に選ばれた才能を持っている。それだけで並みいる人間より秀でていると言うことだ。だが、会長の従えているモノ。それは神に選ばれた等というそんな生易しいレベルの存在ではない。

それと似たようなモノを俺はこの学園に来るときに見ている。と言うよりも触れて乗っている。そのときも人間では到底及ばない生命力を感じたが、それとは比べものにならない。

会長の従える力は、神そのものと並ぶ力。

今の俺ごときの魔法が通用するわけ無かった。


「彼女の名前はルナ。かつて世界の理を変えた双龍の片翼『月光龍』の子孫だ。」


ルナと呼ばれたその龍、いや、龍と呼べるのか?

俺の知っている龍は個体差はあれどほとんどが一対の翼とトカゲの様な体躯が特徴の生き物だったはずだ。

目の前のそれは龍と言うよりももはや亜人のような出立だ。

二本の足と思しき部位で直立し、複数見える羽の一際大きなものの一翼で会長を守っている。唯一比較的龍と分かる頭部は俺から片時も視線を離さずに行動を警戒、いや、牽制している。次の動き方次第では、俺の命など簡単に消し飛ぶのが想像できた。

だが、そんなことは万が一にも起こりえない。なぜなら俺は………


「終了!!!シュティム・ローウル、戦闘続行不可能!!!勝者、シルヴァ・エンタリア・ハーツ!!!」


今この瞬間に、俺はエンタリア魔法学園という頂に敗北したのだから。

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